12.天空と巫女
「………………」
フィプリオはその肉体を乗っ取られ、生ける屍のようになっていた。
立ってはいるが、病人のような不安定さがある。
右手で握る『涙の剣』を支えにしていなければ、それも危ういかも知れない。
「私の言うことが分かるか?」
「……あぁ……」
教組――パルヴェが尋ねると、彼女は視線がやや定まらないながらも、頷く。
今やその体は邪神の眷属に乗っ取られ、操られているのだ。
「よし」
彼は祭壇の上の黄金色の箱――『復原の秘宝』を指し示し、フィプリオに命じた。
「女神の巫女よ、復原の秘宝を起動しろ。設定は既に済ませてある」
「あぁ……」
無気力に頷いて、彼女は『涙の剣』を引きずりながら、祭壇へと近づいて行く。
黄金色の箱を左手で抑え、右手の『涙の剣』を掲げると、その刃がカチリと音を立て、変形した。
長さは半分以下になり、刃は複雑な凹凸の刻まれた平面の板状へと変形していた。
剣というよりは、鍵に近い有様だ。
同時、『復原の秘宝』の中央部が小さく展開し、細長い溝が口を開く。
フィプリオの手の中の、変形した『涙の剣』を受け入れるための、鍵穴のような形状だ。
彼女は『涙の剣』をその中に差し込んで、回した。
ガチャ、と機構の嚙み合う音がして、『復原の秘宝』の内部機構が動作を始める。
黄金色の箱から紫色の光が発せられ、徐々にその強さを増していった。
「兄さん……? 教司祭様……!?」
肌着姿のままそこにたどり着いたレイクスは、その輝きを見ていた。
彼も、儀式の詳細については知らされていない。
女神の巫女が『涙の剣』で『復原の秘宝』を起動した時、世界が巻き戻り、より良き時代が訪れる。
その筈だったのだが、世界が復元される様子は窺えない。
すると輝きの溢れる採石場の跡地を、小さな地震が襲った。
レイクスは、その揺れにうっすらと希望を感じた。
(何だこの揺れは……時間が巡り戻っている証左だというのか……?)
揺れは徐々に大きくなり、歩くことが難しくなってくる。
彼は儀式の場に歩いて行き、パルヴェに尋ねた。
「教司祭様、これは一体――」
「うん? レイクス君……喜びたまえ。ついに世界が復原される」
「では、これから世界は女神の時代に……?」
だがパルヴェの答えは、彼の期待に沿うものではなかった。
「それについては悪いことをした。世界が巻き戻るのは事実だが……千年前ではない」
「え……!?」
「もっと前だ! この大地が、神――我が肉体だった頃まで!!」
「――!?」
レイクスは、不審を感じて再び尋ねた。
「教司祭様、あなたは……誰です!?」
「まだ分からないかね。私は神だ――大地の神。
もっとも――」
教司祭パルヴェ――いや、今やその中に潜んでいる者が、勿体ぶって言葉を区切る。
そして、嬉しそうに声を上げた。
「女神の信奉者たちは、邪神と呼んで蔑んでいるがね」
* * *
その頃、カナイドでも地震が起きていた。
ディサンとはさほど離れていないので地学的には当然のことだが、人々の目は更なる異変を捉えていた。
地平線の向こうから、何かが迫り上がって来ている。
天文台では地震が収まらない中、機材の破損を覚悟で望遠鏡をそちらに向けた観測員が驚愕する。
「何だ、これは……手か……?
腕なのか……!?」
「腕だぁ? 寝ぼけるな、代われ」
だが、揺れに構わず代わってレンズを覗き込んだ所長も、やはり驚愕することとなった。
地平線の向こうから、巨大な腕としか表現できないような影が、むくむくとせり上がってきている。
「何てことだ……!」
止まない地震と、出現した巨大な腕。
天文台もまた、急速に混乱しようとしていた。
* * *
場所は移って、ディサンの山奥。
背筋を登る悪寒に震えつつ、レイクスは再三、尋ねた。
「ほ、本当にじゃ……地神……なのですか……?」
地神――帝国では邪神と呼ぶのが一般的だ――は、教司祭パルヴェの姿で答える。
「疑う必要はあるまい?
なぜ大地の同盟に眷属たちが付き従っていると思う?
教司祭の身体を借りている私が、そう命じているからだ。
疑似受肉というやつでね」
彼が手を振ると、うずくまっていた一体の獣土が起き上がり、レイクスの足元へとまとわりつく。
「う……!?」
口器から覗く灰色の牙には、彼の骨をかみ砕く威力が秘められている筈だ。
迂闊に蹴飛ばすことなどできる訳もなく、レイクスは戦慄して問う。
「では、今まで私たちを教え導いてきたのは……!」
「途中からは私の手管だ。君たちは力は足りないなりに、よく従ってくれた」
邪神がそう言うと、彼にまとわりついていた獣土は足元を離れ、再びしゃがみこむ態勢に入る。
危害の加わることなく安堵したレイクスはしかし、いまだ止まない地震が気にかかった。
「この地鳴りはいつ止むのですか……?」
「もはや止まることはあるまい」
「な、何故です……!? これでは人々は、生活もままなりません……」
「うん? 言っただろう? この大地が神だったころに戻ると。
この大地は元々、私の肉体だったのだ。
それが再び私のものとなり、生きて動く神の姿を取り戻す。
地上の生き物はまともに生きては行けないだろうが、私には何の問題もない」
「そんな……我々を騙したのですか!?」
「うん、そうなるな。彼女ももう用済みだ――」
邪神は祭壇の前で動きを止めたままのフィプリオの方を向き、
「おい、死んでいいぞ。その剣を使いなさい」
「あぁ……」
命じられた彼女は、持っていた『涙の剣』の刃を鍵から剣へと戻し、逆手に持ち上げて刃を自身に向ける。
「!? よせ!!」
飛び出すレイクスだが、しかし、間に合わない。
彼女が剣を己の胸郭に突き立てようとした、その時。
「――!?」
何と剣から人間の腕が生えて、フィプリオの肩を掴んでいた。
彼女の両腕はそれに阻まれ、自身に剣を突き立てることが出来ないでいる。
次の瞬間には既に、剣は剣士へと姿を変えていた。
そして、叫ぶ。
「遅れてすまない!
フィプリオ、目を覚ませ!」
彼女の手から『涙の剣』を奪い取り、彼――ウルスは、その頬を平手で打った。
「っ――!?」
フィプリオは尻餅をつき、ウルスはそれを守るように、邪神を宿した教祖へと剣を向ける。
レイクスが、揺れる大地にしがみつきながら口にした。
「ウルスさん、大地が……!」
「復原の秘宝で、邪神が復活を始めたか……!」
止まない地震と、遠方に霞む巨大な腕とでそれを悟ったか、ウルスが苦る。
彼は無言で教祖を睨んだまま後退り、祭壇の上に置かれた『復元の秘宝』に剣を振り下ろした。
しかし、『涙の剣』は音を立てて弾かれ、秘宝には傷ひとつない。
「…………!!」
教祖――否、邪神が、それを見てせせら笑う。
「ははは、無駄だよ。女神の巫女の力なくして壊すことはできん。
そして地上にただ一人復活した女神の巫女は、既に我が意のままだ」
「フィプリオ……!」「兄さん!」
二人の呼びかけが、彼女に届いたのかどうか。
フィプリオの視線は、虚空を彷徨い続けていた。
* * *
フィプリオは、寝床で目を覚ました。
高級な羽毛の掛け布団を押し除けて起き上がると、そこは広い寝室だった。
見慣れたようでもあり、見覚えのないような気もする。
「ん……? 何だここ……」
「ごめんね、フィプリオさん」
「あ……?」
名を呼ぶ声に振り向くと、そこには美しい女が立っていた。
古代の装束に身を包んではいるが、その容姿は今のフィプリオにそっくりだ。
額を押さえながら、フィプリオは彼女の名を思い出そうとした。
そうだ。この女は、夢の中で見たことがある。
「えーと、お前は……えーと……誰だっけ……?」
女はそれを気にしないようで、続けて言った。
「偶然が重なって、あなたに巫女の使命を受け継がせてしまった。
本当にごめんなさい」
彼女の言わんとしていることが不思議と理解できて、フィプリオは自身の長い髪をいじりつつ答えた。
「いやまぁ……なっちゃったもんはしょうがねぇし……
俺が遺跡に踏み入らなきゃ、邪神のやつも秘宝を手に入れることは無かっただろうしなぁ」
「そう言ってくれると、私も少しは救われる。
でも、それならば」
彼女はフィプリオの顔を真っ向から見据え、告げる。
「力を受け継いだ以上、使命を果たしてもらう」
「使命っつったってさぁ……」
彼女――いや、先代の巫女の言葉に、フィプリオはぼやいた。
「俺いまこんな感じで、腹の中に邪神の眷属入れられちゃってるんだけど……」
寝巻きの上から腹をさする彼女に、巫女は宣言する。
「私なら、己が腹を裂いてでも取り除く」
「え、マジで……?」
「ウルスも、あなたの弟も、窮地にある。
助けられるのは、あなただけ」
「……ちっ」
フィプリオは舌打ちして、ため息と共に口にした。
「しょうがねぇ奴らだな……!」
* * *
その時、ウルスは不意に、剣の姿に戻されていた。
(……!? フィプリオ!?)
フィプリオが、剣となった彼を握っている。
巫女の力で強制的に剣化させたのだ。
それは、彼女の意識が戻っていることを意味した。
「ぐ……!」
邪神とその眷属に、抗っているのだ。
苦痛に顔を歪めつつ、フィプリオは『涙の剣』を逆手に持って、自らの腹部に浅く突き立てた。
「ぅぐッ……!?」
「何を……!?」
同時に驚愕する、ウルスと邪神。
涙と血を流しつつも、フィプリオは邪神を睨み据える。
「ざっ――」
そして口から体内に侵入し、己を操っていた忌まわしい物体に向けて、フィプリオは悪態と共に刀身から閃光を放った。
「――けやがってぇぇぇッ!!」
彼女の体内に女神の祝福が迸り、消化管の中に巣食っていた邪神の眷属を滅ぼし去る。
苦痛はそのままだが、意識にかかった靄が払われた。
フィプリオは自身の血の付いた刃を、大地に突き立ててうめく。
「が……クソ……!
このセクハラ変態カス野郎が……!」
次いで彼女は、震えながらも剣を振り上げた。
「よせ……!」
その意図に気付いたのか、邪神が身を乗り出して止めようとするが、
「――!?」
「やらせん!」
その腰にしがみついて妨害を阻んだのは、レイクスだ。
そしてフィプリオが振り下ろした刃が、『復元の秘宝』を祭壇ごと、真っ二つに断ち割った。
「ぬぁぁぁぁぁッ!?」
邪神の悲鳴が響く。
それが合図にだったかのように、地鳴りは弱まっていった。
彼方に浮かび上がった巨大な腕も、動きを止めている。
邪神は両手をわななかせ、怒りを露にした。
「き、貴様……何ということを……!」
「何ということをー、じゃねぇよこのゴミ野郎!」
フィプリオの拳が、邪神の横面を捉えた。
「ごはぁッ!?」
邪神もろとも教祖の肉体が、横合いに1メートルほども吹き飛ぶ。
ただの女の腕に出せる威力では無かった。
レイクスが、兄であった女の姿を見て言葉を失う。
「兄さん……!?」
今のフィプリオは、薄紫色の軽やかなドレスを身にまとっていた。
頭には冠、指にはリング。
ウルスが驚愕する。
(復原の秘宝を破壊したことで、そこに籠められていた膨大な女神の加護が、フィプリオに流れ込んだのか……!)
今の彼女は、いわば大いなる女神の巫女、とでも譬えるべき存在に昇華されていた。
ただ、その口から厳粛な言葉が流れ出るかといえば、そうでもないようだった。
「畜生ッ!」
彼女はそのまま、まくしたてた。
「一方的にキ、キスした上に! 妙なもん腹ん中突っ込みやがって!!
許されると思うんじゃねぇぞ、このクソバカ下衆野郎がッ!!」
(フィプリオ、ちょっと、その姿でその言葉遣いは……)
「うるせぇ!」
思念で戒めてくるウルスを黙らせると、フィプリオは仮初とはいえ女神の依代として、力を行使した。
「とりあえず、あの景観公害を取っ払う!」
そう言って彼女が、地平線の彼方にかま首をもたげた巨大な腕を指さすと、更にその上空から何かが降りてきた。
――拳だ。
柔らかな女のそれを思わせる、巨大な拳が、しかし、圧縮熱と衝撃波を纏って、猛烈な速度で降下してくる。
そして、拳が腕に衝突すると、激しい閃光が天を走った。
巨大な女の拳は消失し、元あった腕――恐らく邪神本来の肉体――はゆっくりと下降していく。
復原は中止となり、半端な状態で残ろうとしていた邪神の肉体が、再び大地に戻り始めたのだ。
「これですっきりしたな……!」
「許さん……許さんぞ、女神の巫女め!」
「許さなかったら何だってんだ。その教祖の身体を使わねぇと大したことも出来ねぇんだろうが!」
「ほざけぇッ!!」
邪神が叫ぶと、周囲の邪神の眷属たちがぴくりと反応する。
生死を問わず、それらはばしゃりと液化した。
そして邪神の横合いへと集まり始め、ぎゅるぎゅると渦を巻いて高まる。
教祖の肉体を通した、邪神の力の発露なのだろう。
死体も含めた邪神の眷属が寄り集まって、それは巨大な獣頭の巨人の姿となった。
彼女たちに向かって、ずしりと一歩踏み出す巨体。
先日メレイ研に出現した泥の巨人の、数倍はあろうかという質量だ。
邪神がまたも、パルヴェの身体でせせら笑う。
「敵うまい!
今しがたの一撃で、お前はほとんどの力を使い切ったはずだ!」
「そうかもな?」
フィプリオは不敵に笑う。
「だが、誰も万策尽きたとは言ってねぇ!」
彼女はそう言うと、刃を仕舞っていた『剣なる灯火』と手に持ち、頭上に掲げた。
するとその柄の鯉口の中から、紫色の輝きが激しく、天に向かって明滅する。
「何だ……? ハッタリか?」
訝る邪神に、フィプリオは告げた。
「天まで届く紫の光……
邪神のお前が知らねぇ訳ねぇよな?」
「まさか――!?」
邪神が彼女の意図を察したその時、極めて激しい閃光と轟音が、儀式の地を揺らした。
揺れは一瞬だったが、眩さは目を焼くがごとく、地鳴りは足元の地面が強烈に飛び出してきたかのようだ。
フィプリオも転倒しそうになったが、かろうじてバランスを取って立つことができた。
邪神もパルヴェの身体を使っている以上、ある程度は人間の肉体の制約からは逃れられない。
転倒した邪神が姿勢を立て直すと、彼は驚愕した。
「何だと……!?」
邪神の祭壇のあった場所に、巨大な金属塊がクレーターを作っているではないか。
「神託を呼んだのか……!」
フィプリオは邪神を尻目に『涙の剣』を構えながら、まだ熱を帯びたクレーターに飛び込んで行った。
「これが最新の神託……お前を大地に変えた後、女神も天空になった。
だが人間たちの掲げた火の祭り――紫色の光に応じて神託を送る程度のことは、まだできるんだ。
お前が精神で、パルヴェを乗っ取る程度はできたようにな!」
「踏みつぶせ!」
邪神が泥の大巨人に命じるが、フィプリオが神託鉄に駆け寄る方が早い。
彼女が見ると、神託文字は次のように書いてあった。
『子供たちへ。負けるな。愛と勇気にて邪神を打ち破れ』
「愛……!?」
フィプリオは少し面食らったが、女神からの声援と受け取ることにした。
「まぁ、いいけどな!」
「それが、どうしたァッ!!」
邪神が叫ぶ。
それに呼応するように、フィプリオもろとも神託鉄を踏み潰そうと足を振り上げる、泥の大巨人。
しかし彼女は、未だ高熱を帯びた神託鉄に、赤子でも撫でるかのように触れて見せる。
「知らねぇのか? 女神の巫女の力を!」
すると、神託鉄が変形・凝集し、フィプリオの右手に凄まじい勢いでまとわりついていく。
そしてそれは、籠手となった。
優美ながらも力強い造形の、紫色の波長を帯びた白銀の籠手だ。
襲いかかる泥の大巨人に向けて、フィプリオがそれをまとった右手を掲げると。
「――ッ!!」
籠手の掌から紫色の光が迸り、大巨人を飲み込む。
一瞬のちには、強大な邪神の眷属は吹き飛んでしまっていた。
その籠手に『涙の剣』を握り直し、フィプリオは邪神に告げる。
「あとはお前だけだ!」
「や、やめろ――」
「聞くかボケぇッ!!」
彼女が『涙の剣』を振り下ろすと、そこから放たれた眩い光の渦が邪神――パルヴェの肉体を直撃する。
邪神は光の奔流に飲み込まれてもがきながら、やや長い台詞を吐き捨てた。
「くぅっ、忘れるなよ……私は必ず復活して見せる!
何万年かかろうとも、必ずなぁぁぁッ……!!」
そして光が止むと、力なく崩れ落ちるパルヴェの身体――を、レイクスが受け止める。
一方で、フィプリオの持っていた『涙の剣』が、ぶるぶると震えて彼女の手から離れた。
そして人間に変化し、姿を現したウルスは視線を落とし、陳謝した。
「フィプリオ、改めてごめん。
何も出来ずに危険に晒したばかりか、殴ったりして」
だが、フィプリオはそれが何故だかおかしく感じられて、失笑してしまった。
「プッ……」
いや、それどころではなく、彼女は声をあげて笑った。
「あはははは! 何神妙になってんだよ、バカ!
それより、聞いたかよ!? あっははははは……!
伝説の邪神様にしちゃあ、ずいぶんとダッセぇ捨て台詞だったなオイ!」
笑いながら、フィプリオはウルスの肩を叩く。
既に彼女の衣装は、籠手を除いて元に戻っていた。
彼女自身が腹に開けた傷は消えて、服だけが損傷している。
戸惑うウルスに対し、フィプリオは小さく咳払いをして気遣った。
「まぁその……気にすんなよ。
危うく自害させられるところを助けてくれただけでも十分だ」
「ありがとう……大きな借りができたね」
「いいよンなの……それよか、パルヴェはどうだ、レイクス?」
膝枕をするようにパルヴェを介抱している弟に問うと、
「気を失っていますが、生きています。
意識が戻るかどうかは、医者に見せないと何とも……
兄さん、教司祭様に取り付いていた邪神は、去ったのでしょうか……?」
「多分な。そいつに憑りつかれてた間の記憶があるかどうかは分からねぇけど……
悪りぃが、村人にはお前から説明してくれよ?
俺らに襲い掛かってこないように」
「うぅ……気が重いが、仕方ありませんね……」
「ウルス、レイクスを手伝ってやってくれ」
「分かった、レイクス」
「ありがとうございます……」
ウルスが手を貸して、レイクスと共に教祖の肩を担ぎ上げる。
「で、俺たちはカナイドに帰る!」
女神の籠手を着けたままの拳を握るフィプリオに、ウルスがなおも、申し訳なさそうに告げた。
「……復原の秘宝は失われた。もう君が元の姿に戻る手段は――」
「シケたツラすんなよ、せっかく邪神様をやっつけたんだから笑え!」
彼女はもう一度、右手でウルスの肩を叩く。
「それよか、腹が減ったし、風呂にも入りてぇ。
さっさと教祖を村に送って、帰ろうぜ」
「……そうだね。そうしよう。
フィプリオ、その『鋼鉄の馬』を使わせてくれ」
「しゃあねぇなぁ……さっさと済ませるぞ」
三人は失神したままのパルヴェを『鋼鉄の馬』に乗せ、ディサンの村へと歩き始めた。




