魔王が世界の半分くれるらしい
遥か昔、この世界が魔王の恐怖で覆われていた頃。
1人の勇者が魔王討伐へと出向いた。
勇者「とうとう会えたな。魔王!」
薄暗い館の中、1人玉座に座る魔王。体は獣のように、毛むくじゃらで、頭からは禍々しい角。背中からは、コウモリの翼が生えている。
魔王「待ちくたびれたぞ……勇者よ」
低く、重みのある声が天井や壁を反響し、2人の間に緊張が走る。
今にも、腰につけた剣を引き抜き、飛びかかってやろうと、目をちばしらせる勇者を見兼ね、魔王が放った言葉は意外なものだった。
魔王「取引をしようではないか……勇者よ」
勇者「『鶏ひき肉』……だと?」
魔王「違う」
勇者「豚ひき肉か?」
魔王「ひき肉ではない、勇者よ。取引だ」
勇者は真剣な表情で魔王を睨みつけた。コウモリとライオンが混ざったような顔をした魔王も勇者を玉座から見下ろした。
勇者「…………」
魔王「…………」
2人の間を、静寂が埋めていく。外から館の中には誰もいないため、外から聞こえる何かの羽音や鳥達の鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。
勇者はより一層強い目つきで魔王を睨みつけた。
勇者「………それは何肉だ?」
魔王「肉から離れるのだ勇者よ。世界の半分を貴様にやろうと言っているのだ」
魔王が食い気味に入った。魔王は巨大な玉座から立ち上がった。魔王の顔が館の天井の暗闇に溶け込み、口元までしか見えなくなった。
魔王「魔王は、全世界の王から契約を取り付けた。
その国への攻撃をしない代わり、国のすべての権利を魔王に献上すると言うものだ。すなわち、実質的に今、この世界を支配しているのは我、つまり魔王だ。その上で世界の半分を……勇者……貴様にやろう。」
勇者「うん分かった、俺は北半球で。じゃあ」
そう言うと、勇者はスタスタと来た道を引き返して行った。
魔王「待て勇者よ。貴様。」
魔王「もっと躊躇え……いやいいのだがもう少し考える時間をややろう。そして苦渋の末に選択をするのだ」
勇者「うん、くれ!北半球を!!じゃ」
間髪入れて答えられた選択に呆気に取られている隙に勇者はスタスタと片道へ帰ろうとしていた。
魔王が手を伸ばし、勇者の頭を掴み、自分の顔の前まで持ち上げだ
魔王「わかった。お前の選択が揺るぎないモノだという事はよく分かった。だが問題がある」
魔王の獣獣しい口臭を体全体で感じる。口の奥の方から赤く燃える炎がフシューと煙を出して唇の間から漏れ出ている。
勇者「なんだ?」
勇者は至って真面目そうに手を組んで質問した。
魔王「陸が少し……ほんの少しだけ少なくはないだろうか」
勇者「は?」
魔王の発言から二、三泊遅れて呆れるように勇者は言った。南半球の陸地は全ての陸地のうちの32%なのだと言う。32は流石に無いのだそうだ。だがそれに勇者は過剰に反応した。何だと?!と言うような顔で目をカッ開いた。なんなら何で?という疑問を持つように見えた。
勇者「そんな格好してるのに?!」
魔王「お前の目に魔王はどう映っているのだ。」
勇者「(ずっと気になってたが一人称が魔王ってなんだ…?)服を着ていないだろ」
魔王は自らの体を一度見下ろし、顔を元の位置に戻し、淡々と答えた。
魔王「これは海に入る準備をしているわけではない」
勇者「なに?!なら今のお前はただの剥き出しの魔王ということか!」
魔王「………(すごく…………………不快だ)」
魔王の目がギラリと光り、勇者に何かを警告しているようだった。
魔王「こういうのってふつう縦に分けるものではないのか?それにそういう領土問題は争いの種になりやすい。それほどまでになぜ北半球に固執する?」
勇者「北半球は譲れない。なぜなら美味い飯と美人が多い、あと生活も楽そうだからな。それに、固執しているのはお前のほうだろ。めんどくさいな」
魔王「いやこれに関しては面積の問題だ。あと、しれっとなにかしらの国際問題になりそうなこと言っただろ勇者。しっかりと平等に、今一度考え直すべきだ」
魔王はわざわざ平等の部分だけ、ハッキリ、ゆっくりそして大きく強調させた。
勇者は顎に手を置き少し考えた。
勇者「分かった。赤道付近と南極と北極以外が俺のってことで。それなら面積も平均気温も同じくらいにできるし、公平だろ。」
勇者はパチンと指を弾きエジソンが電球を思いついた時のように興奮しながら熱弁した。
魔王「平均気温はな。
全てにおいて両極端すぎるぞ。寒帯と熱帯ばかりだぞ。それに、また海ばかりではないか。領土間の移動がめんどくさすぎることにもなるし。」
勇者「チッ……めんどくさい奴」
勇者が小声で言った。
魔王「このまま潰すぞ勇者、貴様」
勇者「は〜〜、じゃあお前が決めればいいじゃん。そんな文句ばっか言うならさ。ホラっ」
まるで駄々をこねる子供に呆れるように、勇者が言った。魔王は拳を強く握り、重たいため息を吐いた。
魔王「では、こうではどうだ。大西洋を中心として、右側の大陸を魔王が、左側を勇者…貴様が。これならいいだろう。面積にさほど差はあるが、何より分かりやすい」
勇者「ん〜〜。」
何故か勇者は煮えきれないものがあるような声を上げた。
魔王「なんだ、何か気に入らないことでもあるのか」
勇者「いやっ別に!その!……いやっ、なんでもない。」
魔王「なんだ勇者よ。何が言いたい」
勇者「いいって!別に……やもぅいいって!!」
魔王「…………言うのだ勇者。何が不満なんだ。」
魔王は、勇者に事情があるのだと察した。
自国愛に満ちているのか、もしくは、家族や大切な人がいるからなのか。
勇者「いや………その…」
魔王「言えば…考慮する。」
勇者は少し黙ったあと、おもむろに口を開いた
勇者「ヨーロッパ系の女性の方が好きなんだ」
その瞬間、勇者を持つ方の手を振りかぶり、地面にメンコの如く叩きつけた。
魔王「お前は世界のクラミジアだ。4億分の1を勝ち抜いた子種とは思えんぞ。どっちかと言えばティッシュに包められるタイプだろ。」
地面にあたまが突き刺さった勇者は、ヘルメットをとるように頭を地面から抜いた。
勇者「何が悪いのか検討がつかない。」
魔王「いや検討はつけ」
勇者「分かったじゃあそれでいいから、人はどうするんだ?俺1人っていうのもなんだか寂しいからな。俺が選りすぐったヨーロッパ系の女性でハーレムを作るというのも一つの手だがな」
魔王「本当に腐っているな勇者よ。」
魔王は小さな、勇者を跨ぎ、再び玉座に巨体を下ろした。
魔王「私の領地の人間は貴様の方へ全員移す。居住地に関しては私たちも支援する。その代わり、魔王達の方も支援をしてくれ。そこは相互的にな。」
勇者「なるほど。かなりめんどくさい方法だな」
勇者はもその場で腰を下ろした。
魔王「しっかりと国家ができた暁には条約を結ぼう。お互い支え合い、多様性やグローバル化、環境問題にも取り組んでいこう。」
勇者「でもやっぱ面倒くさそうだな」
魔王「そこは支え合いだ。」
勇者「でも……俺はやっぱりそういうのはいいかな」
魔王「なに?」
勇者「だって……条約とか、社会問題とか。俺はそういうタイプじゃない。今、世界の人々が恐怖しているんだ。それを取り除くのが俺の役目だ。済まないな魔王」
勇者の口調が先ほどとは打って変わり、真剣で重みのある声に変わった。
魔王もその言葉によって目つきが変わった。。魔王が再び立ち上がり、地響きをたて、勇者へと近づいて行った。勇者の目の前に立ち、鷹の爪のような光沢と、ナイフのように鋭利な爪を勇者の目の前に突き出した。
魔王「交渉決裂だな勇者よ。なら、魔王は全力で貴様を……」
そう言いかけた時、勇者が割って入るように言葉を発した。
勇者「魔王……お前が、この世界を支配してくれ。」
魔王「は、?」
魔王も自分の口から「は、?」なんて言葉が出るとは思っていなかった。勇者の言葉が頭の中で文字起こしされ、脳内を駆け巡った。
勇者「お前ほど、この世界のことを考え、動かそうとしている者は人間にはいないだろう。自分達の事だけでなく、わざわざ俺達との共存を必然のように考えて動いてくれようとしている。この世界の誰よりもこの世界を、全てを愛してる。魔王お前以上にいい奴はいないよ」
魔王は口を半開きにして、ただ呆然と立っていた。
勇者「俺はリーダーとか王様とか、そういうのタイプじゃないからさ………お前に丸投げするよ。
でも!その代わりこの世界をより良くしてくれよな。」
勇者は立ち上がり、またきた道を帰って行った。そして部屋の門を開き出る時一度振り返り、ニッと笑った。
勇者「じゃ、あとはよろしこ。アリーヴェデルチ」
バタン
扉が閉まる音が城内に響き渡り、部屋には魔王1人だけが取り残された。
すると、部屋の四隅や天井の暗闇に隠れた魔物達が一斉に降りてきて、魔王に群がって行った。
魔王「皆んな。こっからめんどくさくなるぞ」




