スターリィには悪意はなかった。
手に取ってくださりありがとうございます!!
「ほらよ。」
少しぶっきらぼう気味に社員証明カードを渡された。
そこには私の名前と顔写真、年齢…いくつかの個人情報が載っていた。
なるほど、これを見せれば社員だって分かるから、色々な福利厚生を得られるのか。
「ほーら、スターリィも。」
隣にいたスターリィにもこのカードを渡した。
コール船長に招かれるがまま船長室兼操縦室に私達は入った。
「ここが…コール船長の見ている景色ですか。」
スターリィが少し嬉しそうにしている。
確かに、これはいいな。
私がそう思ったわけは、操縦室の窓から海一面を見渡せる景色が見えたからだ。
「すごい…。」
そう私は言葉をこぼしていた。
「すごいよね、私も2ヶ月前びっくりしたよ。」
ネイアもそう思ったんだ。だよね。
「はは、そうだろうな。
客室側で飛行船に乗ったこともあるかもしれないが、流石にここまでは見たことないだろう?」
そうコール船長は自慢するように言った。
「はい!客室では小さな窓しかなかったし、乗る時もあまり外は見えないので…新鮮ですね。」
スターリィはそう返した。
というか、飛行船乗ったことあるんだ。
しかも、窓付きの客室って。
…相当な金持ちなのだろうか?
貧民街でも見ないような服装とルックスをしているし。
いやいや、詮索するのはやめよう。
ここでは誰もがただのブリーズの社員なのだから。
「おい、コール船長さん。」
ふと、私たちの後ろから声が聞こえてきた。
そこにはトマス先輩の姿があった。
「お、トマス来たのか。」
コール船長はトマスにそう言った。
「ああ、まだ出発しないのかと思ってね。」
「あー、それがな…
今、少し機関室が調子悪いみたいでな、
もう1回メンテナンスしてもらっているんだ。」
そう困った顔を浮かべながらコール船長は言った。
「調子悪い?さっき俺があの夫婦と一緒に手伝いながら、メンテナンスしたばっかだぞ。」
トマスが顔に似合わない険しい顔をしながらそう言った。
「夫婦?」
私は気づけばそう声をスターリィと共に出してしまっていた。
「なんだお前たち、あの夫婦知らないのか。
……まあ、こっちにばかり居たら知らないよな。」
トマスが何やら自分で納得している。
「あの、夫婦ってなんですか。」
そうスターリィがコール船長に聞いた。
「夫婦とは…法律的に…婚姻関係を結んでいて…」
そうふざけ始めるコール船長を少しネイアは足で小突いた。
そして、ネイアがコール船長の代わりに話し始めた。
「コール船長は少し黙っていらして。
機関室にいる夫婦のことです。
ダンディライオン号にずーっと乗っているのに、機関室からほぼ出ないから影が薄いんです。」
「ああ、その代わりに俺は何故か気に入られて、しょっちゅう手伝わされるけどな。」
トマスはやれやれとため息をつく。
それを聞いたスターリィがコール船長の方を向いた。
「え、コール船長はあの夫婦とずっとダンディライオン号に乗っているのですか。」
スターリィは悪意がないのだろう。
「…そ、そうだが。」
少しコール船長の声色がおかしくなっている。
「独り身で悲しくないのですか…。」
スターリィが哀れんだような目でコールを見ている。
もう1回言おう、恐らくスターリィに悪意は無い。
だが、その悪意の無さは罪だった。
私とネイアは笑いだしそうなのを必死に抑えている。
トマスに関しては天を仰いでしまっている。
「か、悲しくないわぁ!!!」
コール船長はそう言い返した。
嘘だ、明らかに動揺している。
「…どんまいです。」
もう、ダメだった。
その時
「おーい!コール!直ったぞ!!!」
と操縦室の伝声管から声が聞こえてきた。
お読みいただきありがとうございました!
スターリィくんお気に入りかもしれません。
伝声管とは金属を用いた通話装置です。
見たことある人もいるかもしれません。




