コール
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コール船長さんという男はヘラヘラしていて、どこか掴みどころのない人間だ。
だが、どこか包容力があるのがコールなんだ、それが港町で黄色い声をよく浴びせられてる要因だろう。
───トマス先輩
コールはシェータリとカカラックの幼馴染であり、親友だ。
昔からずっと一緒に3人でいた。
コールはとある貴族の妾の1人息子。
カカラックは肉屋の息子。
シェータリはスラム街で生きる少女だった。
俺らに接点は無かった。
とある日の、あの夜までは。
俺は貴族だったので日中は
勉強に作法の訓練、乗馬など
1日の予定がびっしり分単位で決まっていたほどだった。
俺は貴族の家の中で唯一の跡継ぎだったので、期待にいつも押しつぶされそうになっていた。
その中でも特に俺以外の子供の出来ない父親からのプレッシャーが凄かった。
ちなみに、母さんは元々正妻の奥様の侍女であり、親友だったそうだが、父さんに見初められて妾になったらしい。
だが、望まない妊娠だったためか
正妻と今でも仲の良い親友同士に落ち着いているそうだ。
だから、なんだかんだ母さんと正妻の奥様とは仲良くやってきた。
そんなコールはとある日、
毎日延々と続くこの日々に退屈を感じ
夜中、少しだけ、家出することにした。
それが全ての始まりだった。
俺はどうにか屋敷を脱出し、大きい庭と壁を越え、街に繰り出した。
俺はわずかなお金と時間を
めいいっぱい使おうと思って
街の方でも特に繁華街の屋台市に行った。
ちょうどそこで、俺はお腹が空いたので近くの露店の焼き鳥を買おうとした。
そこで店番をしてたのが……カカラックだった。
「お、お前誰だ?外の人か?見たことないな。」
カカラックは今となっては失礼にあたるであろうことを、平然と言っていた。
「お、俺か?俺は…コールだ。」
こういう話し方は今は普通かもしれないが、当時は母さんが周りの目がない時にしか教えてくれなかったので、少したどたどしくなってた。
「へぇ、コールか。俺はカカラック。
こっちの領主の一人息子もコールっていうんだよー。同名なんて、珍しいな!」
幸い、それかコールだとは気づいてないようだ。
「へぇ、そうなんだ…。
ちなみにこの串、1本いくらなんだい?」
話をこれ以上広げられるとまずいので話をすぐ切り替えた。
「これか?これは1本50円だぞ。」
「ああ、じゃあそれを1本くれ。」
「毎度ありっと。」
俺はお金をカカラックに渡した。
すると、カカラックはなんとも美味しそうな串を俺に差し出した。
俺は目を輝かせて串を眺めていた。
「はは、お前のところには焼き鳥はないのか?美味いぞ!
早く冷めないうちに食ってみろよ!」
…まあ、俺はこのような料理を食べたことがなかったので物珍しくて見てただけなのだが。
そう店主に催促されては、食べるしかない。
カカラックの特製焼き鳥は、一口食べると肉汁が口の中で溢れ出し、香辛料と上手く絡み合っていて、旨みの波が止まらなかった。
「美味しい…。」
俺は気づけばそう声を出していた。
「だろう!美味いだろ!うちの串は!」
「ああ、絶品だ。」
「ありがとうな!」
カカラックは嬉しそうに微笑んだ。
「ていうか、コールはどこから来たんだ?」
少し、言葉が詰まる。
「街の外れからだよ。」
「へぇー!そんなとこあるのか!
いつもこの道以外あまり行かないから知らないんだよなぁ…。」
「そうなのか。」
「俺も少し遠出したいな…。
新規顧客開拓が出来るかもしれないし?」
「出来たらいいな。」
「というか、ここら辺で俺と同じくらいの年齢のヤツ、初めて見たんだが。」
「へぇ、そうなんだ。」
「ああ、確か俺の知ってる範囲で同い年なのがここの領主の息子と幼馴染だけだからな。」
「……」
なんにも言えない。
「お前、いくつだ?」
「俺?俺は…16だ。」
「え!やばいな!俺ら同い年だぜ!?」
「そうなのか?」
「ああ、そうなんだよ。
なーんだ、もっと時間があるならシェータリちゃんに紹介したいな。」
「シェータリちゃん?」
「おいおい、ここの街で1番の美人を知らないのか?」
お読みいただきありがとうございました!
初の過去編です。
これからどんどん明かされていきます。
今回はコール編1です




