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第27話 莉愛と一緒に話している時が何気に楽しかったりする

 橋本悠一(はしもと/ゆういち)は、移動教室先での授業中。席に座りながら、頭の中で昨日の事を考えていた。


 昨日の放課後。北桜恵麻(きたざくら/えま)と、その友人らと共に街中のカラオケに行ったのだ。

 どうしてもあの空気感に堪えきる事が出来ず、本当の事を話して強引な形でカラオケを後にしてしまったのである。


 今日、学校に登校してから恵麻に何かを言われると思って少々警戒していたのだが、今のところ特に何も無し。

 元々恵麻とは教室が違い、午前中は移動教室の授業が多く、授業合間の休憩時間も殆ど接点を持つことなく過ごせていたのだ。

 こういう時は何か言いがかりをつけてくるものだが、意外にも静かだった。

 とにもかくにも、恵麻の方から距離を置いてくれるのならば、それはそれで楽である。


 悠一はまだ油断できないと思いながらも、恵麻の事を頭の隅で考えつつ、午前の授業と真剣に向き合うのであった。




 現在、悠一がいるのは、別校舎にある図書館。

 同じく図書委員会に所属している杉本莉愛(すぎもと/りあ)と共に、貸し出しカウンターの受付を担当しているのだ。

 今のところ、図書館内に訪れる人の数が少ない事から、莉愛と一緒にカウンター近くの本棚の整理をしていた。


「ねえ、悠一君。今日は暇じゃない?」


 隣にいる莉愛が、不満そうに口を尖らせて言った。


「そうだね。でも、まあ、こんな日もあるよ」


 悠一は苦笑いしているが、莉愛の方は唸りながら本棚の隙間を指でなぞっていた。

 確かに、考えてみれば、今日は利用者が少ないと思う。

 静かな図書館に、ページをめくる音すら殆ど響かないからだ。


 そんな静寂さを打ち砕くかのように、軽快な足音と共に現れたのは――


「二人とも、元気でやってる感じ?」


 図書委員会を統括する文芸部の部長――小鳥遊先輩(たかなし)だ。


 先輩は両手に大きな段ボールを持っている。

 彼女がカウンター近くのテーブルに、その段ボールを置くと、立派なポニーテイルがちょっとばかし揺れていたのだ。

 本棚の前で作業を行っていた悠一と莉愛の視線は、先輩が持ってきた段ボールへと向かう。


「小鳥遊先輩、それは何でしょうか?」


 莉愛が、彼女の元へ近寄って行く。

 悠一もそれに続いた。


「これね、この前、二人に選んでもらった本よ。書店に出向いて、流行ってる本リストをまとめてくれたでしょ。あのリストからね、文芸部の顧問の先生と相談してね、購入できそうな本を仕入れてもらったの」


 先輩は自信満々に言う。

 この前の休日を使って用意したらしい。

 仕事の速さに二人は驚く。


「二人のお陰で、ここの図書館にも新しい風が吹きそうよ。最近は本を借りる人が激減してるでしょ。だからさ、早めに用意したってわけ。これで少しは盛り上がってくれればいいんだけどね。私、後で学校のHPとか、学校の公式のSNSで新しい本が入ったよって宣伝しておくから。二人もクラスメイトとかにおススメしておいてね」


 小鳥遊先輩は段ボールから本を取り出し、カウンター近くの本棚にササッと並べていく。

 先輩は強引な形で話を進める事も多いが、仕事の速さは本当に一流だと思った。


「それでさ、今日の利用者はどんな感じ?」


 先輩が、期待を込めた感じに二人に尋ねてくる。


「えっと、まあ、こんな感じですね……はい」


 悠一が辺りを見渡しながら曖昧な口調で答えると、先輩も察したようで軽く頷いていた。


「まあ……そうよね。こんな日もあるよね。文字ばかりの本って、最近あまり受けがよくないのよね。どうしたらいいものかね。一応は流行になってる本を集めたには集めたんだけど、少しは効果があればいいのだけど」


 先輩は不安そうに言うと、少々考え込むようにして顎に手を当てていたのだ。


「一旦は、今の状況でやってみて。まあ、私の方でも新しいアイデアを探ってみるからさ。二人とも、お昼休みの受付を頼むよ」


 小鳥遊先輩がクルッと振り返ると、ポニーテイルが揺れる。

 先輩は図書館から立ち去って行くのだった。




 小鳥遊先輩が去った後の図書館内に静けさが戻る。

 図書館は静かにしなければいけないのだが、殆ど人がいなさ過ぎて静かというよりも無音に近かった。


 悠一は、隣にいる莉愛に視線を向ける。彼女は新しく購入された本を手にしたまま、難しい顔を浮かべて考え込んでいたのだ。


「杉本さん、どうすれば本を借りる人が増えると思う?」


 悠一の質問に、莉愛は首を傾げて少々唸っていた。


「やっぱりね……読みたい本があれば借りたい人が増えると思うんだよね。でも、本が好きじゃない人は、そもそも図書館に来ないでしょ」

「だな」


 二人は、しばし黙って考え込む。


 本を借りる人を増やすという簡単でありながらも、かなり難しい課題でもあった。


「んー、そうだね……アニメ関連の小説とかなら読む人が増えるかも?」


 莉愛が、悠一の方を見て、アイデアを振り絞った感じに言う。


「確かに。ただ流行なだけじゃなくて、アニメ関連であれば幅広い人を集客できるかもね。でも、アニメ関連と言っても、それならアニメを見て満足する人もいるよな」

「そうなんだよね~、そこが悩ましい問題なんだよね」


 莉愛は、眉をハの字にして悩ましげに唸っていた。


「はッ、そうだ! ねえ、ちょっと待って! 人気はあるけど、高くて買えない本とかってあるじゃん?」


 莉愛が突然閃いた表情で目を輝かせながら手を叩く。


「例えば、アニメの原作になっているような大判系の小説本って、大体千円以上するじゃない。そういうのって読みたいけど買えない人っているよね」

「確かに」


 悠一は彼女の話に興味を示した感じに頷く。

 すると、二人の間でどんどん話が広がっていくのだ。


「そう言えば、アニメの原作で人気のある作品って具体的に何があるんだろ?」


 悠一は彼女に問う。


「うーん、調べてみないとわかんないかもだけど。じゃあ、悠一君、アンケートでも取ってみる?」

「それ、いいね。アンケートなら皆のニーズもハッキリとわかるし!」


 二人の間で、新しいアイデアを見つけることが出来ていたのだ。


「この話。毎週の図書員会の集会で、小鳥遊先輩に提案してみない? 私たちだけで勝手にやるのもよくないし」

「そうだね、今度、先輩に提案してみようか」


 莉愛の笑顔につられ、悠一も口角を上げて笑顔になる。


「んー、でもちょっと待って、今ってネット小説で読める時代でしょ。だから、人気作品の中でも、ここの図書館から借りて読みたいって思える工夫が必要かも」


 莉愛の言葉に、悠一は深く頷いた。

 確かにと――


「そういうところもしっかりとニーズを掴まないと、杉本さんが出してくれた折角のアイデアも意味なくなるしな」

「うん。そこは色々と考えて行こ!」


 今日の昼休み時間の図書館に、新しい光が舞い込んだみたいになっていた。


 二人の間で話がついたタイミングで、少しだけ本を借りに来る人がチラホラといたのだ。

 お昼休みが終わるまで、後一〇分。

 訪れる人が少なくとも、図書委員としての業務と真剣に向き合おうと思った。


 悠一は、莉愛と共に受付カウンターの中へと戻る。

 彼女と本について一緒に会話できている、この瞬間を楽しめていた。


 莉愛に対して不思議な感情を抱く中。悠一の脳内からは恵麻の事などすっぽりと抜け落ちていたのだった。


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