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第24話 今日は本好き友達との特別な日

 渡辺弥生(わたなべ/やよい)とのやり取りがあった日の翌日の事だ。

 今日は開放的な日曜日――


 橋本悠一(はしもと/ゆういち)は朝からベッドの上でゴロゴロと寝転がりながら、何となくスマホを眺めたり、自室の天井を見つめながら過ごしていた。


 今日は特にこれといってやる事も無く、真新しい予定もない。

 かなり平凡な日曜日。


 如月絃葉(きさらぎ/いとは)は、日曜日という事もあって、実家の弁当屋の手伝いをしないといけないらしい。

 話によれば、早朝から事前に注文のあった弁当の盛り込みに励んでいるようだ。

 弥生と関わろうにも、まだハッキリとした返答が出来ないまま出会うべきではないと心で感じていた。


小鳥遊(たかなし)先輩からの課題も終わってしまったし。本当に特に何もないな」


 本当であれば、絃葉と遊ぶ予定だったのだが、実家の手伝いという理由ならばしょうがないと思う。


「まあ、一人で過ごすか。つい最近まで一人で過ごしていたわけだし」


 悠一は仰向けでベッドに横になったまま、スマホ画面を眺めていると、着信音と共にバイブ音が鳴る。


『ねえ、悠一君。今日暇なら、本屋巡りでもしない?』


「んッ? 杉本さんからか」


 いきなりの誘いに、悠一の心臓は飛び出そうになり、その流れでベッドから上体を起こす。


 莉愛とは普段から本に関する話をしている。

 先輩からの課題が終わっていなければ、どの道彼女とは街中で遊んでいたであろう。

 趣味が同じ子からの誘いを断る理由などなく、悠一はすぐに返答を返したのであった。




 一〇分ほどで準備を済ませると、通学の時に使っているリュックを手に、悠一は階段を下って玄関先へ向かい、靴を履く。

 妹の月空詩(つくし)の方は友達と遊んでくると言い、一時間ほど前に家を出ている。

 自宅内は、静まり返っていたのだ。

 悠一は、誰もいない家の中に向かって、行ってきますと言い残し、リュックを背負うと、玄関扉の鍵を閉めて家を後にしたのだった。


 地元駅から電車に揺られ、待ち合わせの駅前に到着。

 改札口を出た瞬間、悠一の視界に飛び込んできたのは――


 私服姿の杉本莉愛(すぎもと/りあ)


 ん? ……多分、あの子だよな。雲、そうだよね。


 莉愛は駅中の柱近くにおり、スマホを片手に、その画面を見つめながら佇んでいるのだ。

 黒髪のショートヘア。

 彼女の私服は茶色がメインで、茶色のハット系の帽子をかぶっているのだ。

 普段と全く印象の異なる服装に、一瞬わからなかった。


 彼女の仕草や、手にしているスマホのケースを見て、アレが莉愛だと判断し、ゆっくりと近づいて行く。


「杉本さん、こんにちは」

「悠一君! 来てくれたんだね」


 悠一の存在に気づいて、彼女はスマホから顔を離し、視線を向けてくれる。


「だって、そういう約束だったしな」


 悠一は、彼女と視線が合うなり、笑顔で返答した。

 莉愛も、悠一がやってきた事で、パッと明るい笑顔を見せてくれる。


「ごめんね、急に誘っちゃって」

「いや、別にいいよ。俺、暇だったし」

「ほんと? じゃあ、良かったのかな」


 彼女は嬉しそうに微笑んでいる。


「そう言えば、今日は本屋巡りをするんでしょ?」

「そうそう、そうなの! 小鳥遊先輩からの課題は終わったんだけど。やっぱり、色々な本屋にも行きたいなって思ってね。この前は、中心街の本屋を巡ったでしょ。だからね、今日は郊外の書店に行きたいの。休日なら時間もあるし」

「そうだな。遠出するなら、休日じゃないと出来ないしな」

「問題ないのなら、そろそろ、行こ!」


 悠一は莉愛と共に一先ず駅を出る。それから目的地へ向かって隣同士のまま歩き出すのだ。




 駅から郊外の書店までは、歩いて一五分ほど。

 並んで歩道を歩く二人。

 莉愛は、いつも通りに本について話題を振ってくる。

 休日という事も相まって、テンションは高めだった。


「ねえ、悠一君。この前のホラー小説なんだけどね。昨日の内に全部読んだの」

「早いね」

「普段から本を読んでるから、五時間もあれば、二周くらいは出来るよ。そのホラー作品なんだけどね、物凄く面白かったの」

「へえ、そうなの?」

「うん。最初は怖そうな雰囲気だったんだけどね。でもね、読み進めるとね、ただ怖いだけじゃなくて、人間の心理描写が丁寧だったり、深いテーマがしっかりと描かれていたりね。あとね、知識も豊富で色々と勉強になる内容だったの」


「へえ、ただのホラーではなかったと。それいいね」

「でしょ! ね、悠一君も読んでみる? ほら、今日ねバッグに入れて持ってきたの。貸そうと思って」


 莉愛のバッグから出てきたのは、そのホラー小説と、もう一冊は以前約束していた漫画だった。


「え、持ってきてくれたの?」

「そうだよ。持ってきたよ。漫画の方は読んだら貸すっていう約束だったし。あとね、ホラー小説の方は、読んだら感想を聞かせてよね。悠一君の意見も気になるし」

「わかった、じゃあ、ありがたく借りるよ!」


 悠一は二冊の本を両手で受け取り、感謝の言葉を添えたのだ。

 悠一は、その本を自身のリュックにしまうのだった。




 二人が辿り着いた場所は、郊外にある小さな個人書店。

 昔からあるレトロな雰囲気のあるお店だ。

 店内に入ってみると、棚には珍しい本などが沢山揃っている。


「へえ、こういう本もあるんだね。というか、珍しいライトノベルもあるな。ここの店主は本格的だ。まさか、こんなに昔のライトノベルが揃ってるとは」


 新しい書店では、比較的新しい本を取りそろえているが、現在いる個人書店では、二〇年くらい前の本も取り扱っているようだ。


 悠一が感心しながらライトノベルを手に取り、表紙を見ていると、隣では莉愛が目を輝かせて棚の本を物色中だった。


「これ、こういうのあるんだ。ね、悠一君、この漫画って知ってるかな?」


 莉愛が見せてきたのは、探偵らしき主人公が探偵用のハットを握りつぶしている表紙の漫画だった。


「ん? なんだ、これって、探偵ものなの?」

「そう! でもね、ただの探偵漫画じゃないよ。物理的に事件を解決するぶっ飛んだギャグ漫画でもあるの」

「物理的? 論理思考で解決ではなく⁉」

「そうなの、読むとわかるんだけどね、かなり世界観がカオスで面白いの」


 莉愛の熱弁に、悠一は思わず笑ってしまう。


「杉本さんは、本当に色々な漫画を知ってるんだな」

「だって、本は面白いじゃん。だからね、色々なジャンルの本を読みたくなるの。そうだ、悠一君は何か欲しいのってある?」


 彼女の問いかけに、悠一は本棚をじっくりと眺める。

 すると、ふと目に留まった一冊があった。


「ん? これって……⁉」


 悠一が手に取ったのは、昔ハマっていたラノベ原作の漫画だ。


「なになに、どんなの?」


 莉愛が興味津々な表情で覗き込んでくる。


「これさ、昔好きだったラノベのコミカライズ作品なんだけどさ、途中で打ち切りになったんだよね」

「え、打ち切り? なんで?」

「なんていうか、担当の漫画家が亡くなったらしくてさ。ラノベ原作者が、この人の絵柄じゃなきゃダメだって事で、続編をストップしたらしいんだよね」

「そんなことが、いきなり打ち切りって辛いよね。でも、原作者には拘りがあったんだね」

「そうだな。でも、これ、初回限定版の珍しい奴なんだよな。ここで会うとは、よし、記念に買ってみるか」


 悠一はその漫画を購入する事にした。


 その後も、二人は書店内でレアな本を物色したり、別の大型書店で新刊をチェックしたり。

 途中の漫画喫茶に立ち寄って、個室を借りてジュースを飲んだり、漫画を読んだりしながら過ごしていたのだ。


「悠一君、今日楽しかったね! また本巡りしたいな。また機会があったら、付き合ってくれる?」


 莉愛は満足そうな顔を見せている。

 彼女の笑顔を見て、悠一も幸せだった。


「まあ、時間があったらね。俺も楽しかったよ」

「ほんと? なら、良かったかも。また時間があったらよろしくね」

「こちらこそ」


 二人は笑顔でやり取りを交わす。

 夕陽が街中をオレンジ色に染める中、二人は満足げに帰路につく。


 悠一のリュックには、莉愛から借りた本二冊と、今日ゲットしたレアな漫画が入っている。

 そして、胸の奥にはちょっと特別な一日の思い出が刻まされていたのだった。


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