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第22話 黒いオーラが爆発寸前⁉

 午後の日差しがキラキラと辺りを照らす中。橋本悠一(はしもと/ゆういち)は、美術館近くの喫茶店を後に、なんだかんだで、とある場に佇んでいた。


 今いる場所は楽しいアトラクションが沢山ある遊園地だ。

 元々、この場所に来る予定などなかった。

 今日は如月絃葉(きさらぎ/いとは)と美術館に行き、ちょっとしたお店で過ごしたり、欲しいモノがあったら購入する程度で、夕暮れ前には帰宅する。

 そんな感じのラフなスケジュールにしようと考えていたのだ。


「悠一お兄ちゃんッ! 早く早く! あっちのアトラクションに行こうぜ!」

「うわッ、ちょっと待てッ! そんなに引っ張られたら転ぶかもしれないって」


 悠一の近く、双子の小学生――幼馴染の弟妹である春哉(しゅんや)愛唯(めい)が、悠一の服の袖をグイグイと引っ張っているのだ。

 双子は、遊園地のゲートを通り抜けたタイミングからテンションマックスだった。


 春哉は、あのアトラクションに乗りたいとか、あっちのエリアに行きたいと叫びまくり。愛唯に関しては、遊園地内のぬいぐるみショップに行きたいと、目を輝かせて話しかけてきているのだ。


 小学生は本当に疲れ知らずらしい。

 だが、現状、悠一が抱えている問題はそれだけではなかった。


 悠一の背後には双子の姉であり、幼馴染の渡辺弥生《わたなべ/やよい》がいるのだ。

 彼女は、悠一の方をガン見している。


 現在、悠一が付き合っている絃葉と、この遊園地に訪れる事になったからだろう。

 その幼馴染から受ける視線に、ヒヤヒヤの連続だ。


 平和な休日にしようとしていたのに、この仕打ちは大変だった。


 双子は無邪気に笑みを零しているが、弥生からのオーラは凄まじい。

 なんで、絃葉と休日遊んでいたのと言わんばかりの視線と圧力を感じてしまうのだ。


 そんな話を双子の前で話す事も出来ず、取りあえずは、何とかこの現状を乗り越えようと考え、その場所から歩き始めるのだった。




「よーし、じゃあ、今度はあっちの絶叫マシンな」


 春哉が拳を上げて叫ぶと、愛唯はちょっとだけ口を尖らせていたのだ。


「えー、でも、そろそろ、ぬいぐるみショップにも行きたいよー、この遊園地の限定のぬいぐるみもあるし、早く触りたいんだけど」

「えー、なんでだよ。ぬいぐるみなら、帰りに見ればいいだろ。な、悠一お兄ちゃん」

「んー……まあ、そうだな。今、ぬいぐるみを買ってしまうと、荷物がただ増えるだけだし」


 悠一が曖昧に答えると、春哉は愛唯と共に、どっちの優先度が高いかで一触即発のバトルモードになる。

 そんな中、周りの家族連れから不安そうな視線を向けられていたのだ。


「え、えっとさ、じゃ、じゃあさッ!」


 悠一は現状を見て、慌てた感じに仲裁に入る事にした。


「今はさ、アトラクションの列が短いしさ、春哉の言う通り、まずはアトラクションを中心に回ろう。ぬいぐるみに関しては後でも見れるし。ちゃんと時間は確保してあげるし、ゆっくりと選んだ方がいいよな?」


 悠一の発言に愛唯は頬を膨らまし、悩んでいたものの渋々と頷く。


「うーん、しょうがないよね。でも、ぬいぐるみショップの時間はちゃんと取ってね。約束だよ、お兄ちゃん!」

「は、はい、約束します」


 悠一は小学生の愛唯に対して紳士的な対応を施し、一旦話がついた事で、彼女は満足そうに笑顔を見せてくれたのである。


 問題は解決されたものの、悠一は双子に引っ張られながら、遊園地内をダッシュで駆け回る羽目になったのだ。




 昔の出来事になるが、悠一が中学生の頃には春哉と愛唯とは一緒にゲームをしたり、大型連休の際には、橋本家と渡辺家の家族間で二泊三日の旅行にも行くこともあった。

 だが、今は弥生とは別々の高校に通っており、親同士も仕事の都合上休みを取れず、最近は殆ど会う機会もなかったのだ。

 大体二年ぶりに遊ぶ形になり、双子の成長した姿を見られて少し嬉しかったのである。

 春哉はやんちゃで男の子っぽくなり、愛唯の方は身長や髪が少し伸びた気がした。


 色々と大変な事も多いが、双子と関わっていると、そんなことも気にならないほど気分が落ち着いていたのである。

 そんな中、何か黒い気配を感じた。

 チラッと振り返ると、弥生が絃葉と一緒に佇んでいたのだ。


 これから五人で一緒にアトラクションに乗る事になる。

 弥生は、やはり内心では不満を感じているらしい。

 そんな雰囲気を、彼女の表情から察する事が出来ていたのだ。


 それから一時間後、悠一らは何度かジェットコースターに乗ったり、コーヒーカップで遊んだり、最後には観覧車内で五人と共に過ごしていたりしたのだ。


 春哉はジェットコースターに乗り、雄叫びを上げていた。愛唯の方は最初、乗り気ではなかったが、最後には楽しかったと笑顔全開であったのだ。

 他にも色々なアトラクションで遊び、特に観覧車内での気まずさは異常だった。


 絃葉と隣同士でいると、弥生から嫉妬染みた視線ばかり受けていたからだ。

 何とか、気まずい時間を乗り切った後、五人はとある場所に向かって歩いていた。


「やっと、ぬいぐるみショップに来れたぁ、早く見たいよ」


 愛唯がキラキラとした瞳で悠一の事を見上げていた。

 悠一はぬいぐるみショップに到着するなり、愛唯と一緒に入店する。

 春哉の方は乗り気ではなかったが、付き合ってやるか的な感じでついてきたのだ。


 弥生と絃葉も店内にやってくる。

 そんな中、弥生から放たれている黒いオーラも限界を迎えているようだった。

 どこかで解放されなければいいと感じながら、悠一は店内を移動している際、ヒヤヒヤしていたのである。


 ぬいぐるみショップには、遊園地限定のキャラグッズがズラリと揃っていた。

 デフォルメされたクマやウサギなどが、棚のところに綺麗に並んでいるのだ。

 ふわふわのぬいぐるみを見つめる愛唯は、そのぬいぐるみを両手で掴んで、まじまじと幸せを感じていた。

 春哉に関しては、ぬいぐるみとかと口を尖らせながらも、愛唯と一緒にどのぬいぐるみがいいかちゃんと会話していたのである。

 喧嘩する事もあるが、双子はちゃんと仲良しなのだ。


 そんな双子を背後から見守っている中、笑顔で絃葉が話しかけてきた。


「ね、橋本君。このぬいぐるみ可愛くない?」

「そ、そうだね」

「そうだ、記念にお揃いのモノを買いたいんだけど。何がいいかな?」

「え、お、お揃い? う、うん、いんじゃないかな」


 悠一が戸惑いながら答えると、絃葉は笑顔を返してくれる。


 そんな幸せな瞬間も僅かだった。


 背後に佇んでいた弥生から放たれているオーラが爆発寸前。

 言葉はないが、見せつけんなと言わんばかりの空気感が、この場所に漂い始めるのだ。


「え、えっとさ、俺、これでいいよ」


 悠一は慌てた感じに、適当なキーホルダーを手に取り、絃葉にお金と一緒に押し付けた。


「おつりは後で貰うからさ。これで俺の分も買っておいてくれないか?」

「え、ど、どうしたの急に?」


 絃葉がキョトンとした顔を見せる中、悠一はトイレに行くと適当な言い訳を口にして、逃げるように休憩スペースへ急ぐ。


 ショップ内の隅にあるベンチにドサッと座り、休憩スペースにあった自販機で購入したジュースを飲む。


 はあぁ……。


 悠一はベンチに座ったまま肩を落として、ため息をつく。

 今日は本当に大変だ。


 そんな時だった、不敵な笑みを浮かべた弥生が近づいてきたのは――


「悠一? ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな?」


 その笑顔は本気で怒っている時に見せる顔つきだった。


 悠一は、安寧のスペースでさえも、まだ心を休ませることなどできないらしい。


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