第21話 俺の休日は――⁉
な、なんで、こうなるんだよ……⁉
目の前の出来事は、悪夢のリアリティショーのよう。どう足掻いても逃げ場のない、超絶気まずい展開に、橋本悠一はただただ困惑する事しか出来なかった。
目の前に佇んでいるのは、幼馴染の渡辺弥生。
そんな彼女はジトッとした目で悠一の事をガン見している。どうして、ここにと言った感じの表情であった。
その近くには弥生の弟と妹がいる。二人は双子の小学生であり、雰囲気がそっくりなのだ。
弟が春哉。妹の方が愛唯。
双子との久しぶりの再会が、こんな形になるなんてと、悠一は頭を悩ませてしまう。
「悠一はなんで、ここにいるの? もしかしてだけど……」
弥生の怪しむ声に、悠一はドキッとする。
「えっとさ、俺はさ、その近くの美術館にちょっと用事があって」
「美術館? 悠一が? ふーん……何か怪しい気がするけど」
彼女のジト目がさらにパワーアップ。
悠一の背中に、冷や汗がダラダラと流れ始める。
今日、悠一はクラスメイトの如月絃葉と共に美術館に来ていたのだ。
知り合いと出会わないように、別の街にある美術館を選んだはずだった。
なのに、丁度、弥生も用事があって訪れているとは予想外過ぎる。
これは運命の悪戯なのかと疑ってしまう。
悠一は、弥生の表情を見て動揺していた。
「そ、そ、それよりさ、弥生こそ、どうして、ここに居るんだよ」
必死に話題を逸らそうとするが、悠一の声は震えていたのだ。
「ん? 私? 私はね、弟と妹がどうしても遊園地に行きたいってうるさかったからね。地元には遊園地とかないでしょ。遊ぶ場所って言ったらデパートや公園くらいしかないし。それでここまで連れてきたの。ほら、すぐ近くに遊園地があるじゃん?」
「え、ああ、なるほど……って、ん? 遊園地? そういう場所って、あったっけ?」
悠一は少々悩む。
思い返してみれば、先ほどスマホで地図を見た時、美術館の近くに遊園地があると表示されていた。
悠一の脳内で納得がいく。
ん……それより。
現在、高級感のある海外風の喫茶店にいる悠一。弥生とこんな場所で大声で話していたら変に目立ってしまうと思った。
周りを見渡すと、海外からやって来ている人たちから、まじまじと見られているに気づく。
悠一は口元に右手を当て、軽く咳払いをした。
「えっとだな、ここで大声で話すと、ちょっとアレだと思うんだよ……」
悠一が慌てて声を小さくすると、弥生の方も現状にハッとし、咳払いをする。
「そ、そうね。落ち着いた方がいいかもね……」
やっと事態が収まりそうになった瞬間の出来事だった――
「え⁉ な、なんでここに渡辺さんが⁉」
最悪のタイミングで絃葉がお手洗いの方から戻ってきたのだ。
その瞬間、悠一の脳内は真っ白になる。RPGのボス戦でHPがゼロになった時の瞬間と似ている。
そんな中、絃葉の方は、現状を目の当たりにして、目を丸くしているのだ。
「え、えっと……ど、どういう状況かな⁉」
絃葉の困惑っぷりは、悠一と完全にシンクロしていた。
対する弥生は、ぎこちない笑顔で絃葉に挨拶していたのだ。
「こ、こんにちは……如月さん……」
絃葉も流れに任せて返事を返すものの、明らかに互いに動揺を隠せずにいるのが丸わかりだ。
この空気感って、なんていうか、まさに修羅場みたいだな……。
助けてほしいと、心の中で悠一は叫んでいた。
弥生は何とか平常心を保とうと必死な様子。
「私はね、弟と妹を連れて午後から近くの遊園地に行く予定で……今はちょっと休憩の為に、ここの喫茶店に訪れていたの」
弥生は一旦深呼吸をした後、状況説明を絃葉に対して行っていた。
「へ、へえ、そうだったんだね。遊園地に行くって、この近くにあったんだね」
絃葉も少しずつ笑顔を取り戻し、場の空気感を和ませようと対応していた。
何とか修羅場環境が平穏化し始めてきた時――
「ねえ、悠一お兄ちゃん! 後で一緒に遊園地に行かない?」
「私もお兄ちゃんと一緒に行きたいかも」
双子の弟に続き、妹までもがテンションを上げて、悠一の事を誘ってくる。
「悠一お兄ちゃんとは久しぶりだしさ、一緒に遊びたいなって。愛唯もその気だし、お姉ちゃんいいでしょ」
弟の春哉が、弥生に無邪気な笑顔で言う。
妹の愛唯も、弥生にキラキラとした視線を向けていたのだ。
「えっと、どうしようかな」
弥生は双子の意見に困っていた。
「ちなみになんだけど、悠一と、如月さんはどうする?」
弥生が困った顔で二人に問いかけてくる。
「んー、私は、どっちでもいいよ。普段は遊園地に行く機会なんてないし、行ってみようかな」
絃葉は別にそれでもいいかなといった態度で返答していた。
前回の事もあって、絃葉は、弥生と悠一の関係をただの幼馴染だと思い込んでいる。
本当はただの幼馴染の間柄なのだが、あの後、弥生から告白されてしまったのだ。
ただ、その事を絃葉は知らないのである。
その事を言うにしても、今は伝えられる状況でもなく、悠一は言葉選びに頭を悩ませていた。
「ねえ、悠一お兄ちゃん!」
「いいでしょ!」
双子の押しには抗う事などできず、悠一はついには一緒に行こうかと口に出すのだった。
双子は笑顔を浮かべ、一緒に遊べる事を喜んでいたのだ。
弥生の方も諦めた感じに、まあいいかとため息をつく感じで言葉を零す。
「じゃあ、絶対だからね!」
「一緒に行こうね1」
双子は、弥生と共に、事前に案内されていたテーブルへと戻って行く。
本当にこれで良かったのか?
悠一が考えていると、テーブルの対面上の席に絃葉が座る。
そんな中、タキシード服姿の女性店員が、配膳ワゴンを押してやってきたのだ。
二人がいるテーブルに並べられる、コーヒーとデザート。
デザートに関しては、盛り付け方に拘りを感じられ、芸術品のように輝かしかった。
そんな中、悠一の心は真っ暗な闇に包まれている感じであったのだ。
「凄いね! 一緒に食べよ!」
絃葉は笑顔でスプーンを持つと、皿に盛りつけられているプリンを掬って、嬉しそうに微笑みながら味わっていたのだった。




