第20話 壮大な美術館内に驚きの連続⁉
「ようやく着いたぁ……」
初めて訪れる場所であり、橋本悠一は少々道に迷い、予定していた時刻よりも若干遅れてしまっていた。
「でも、ちゃんと辿り着けて良かったね。それにしても、ここの美術館って、かなり人が多いね」
悠一の隣に佇んでいる如月絃葉は、目の前に広がる美術館の威厳ある建物を見上げ、思わず声を漏らしていた。
土曜日の昼下がり、しかも今は世界的に有名な絵画が集まる特別展の真っ只中。
そういった理由もあって、人であふれているのも納得だ。
チケット売り場には外国人の姿もチラホラ。まるでテーマパークのようだった。
「橋本君、いつまでもそこにいないで、そろそろ入ろッ!」
すでに先に行動していた絃葉は、会場の入り口付近に佇んでいる。遠くの方から長い黒髪を揺らしながら手招きしているのだ。
「ちょっと待って、いつの間に⁉」
悠一は驚きつつも気合を入れ、会場前にあるちょっとした石段を上り、彼女の元へ駆け寄って行く。
二人は会場入り口近くにあった受付でチケットを渡し、広々とした館内に足を踏み入れた。
て、天井が高いな。
悠一は初めて訪れる館内の全体を見渡し、衝撃を受けていたのだ。
壁は真っ白で、どことなく神聖な雰囲気を感じられる。
建物自体がすでに芸術物だと思ってしまうほどに、さすがは美術館だと思ってしまう。
少し進むと、さっそくドカンと視界に入ってきたのは世界的に有名な絵画――モナ・リザ。
テレビや教科書で何度も見た事はあるが、実物を見て、その迫力を肌で感じていた。
「す、すごいな……なんか、なんていうか、上手く表現できないけど」
悠一は絵を前にして立ち尽くし、感動で言葉を失っていた。
素晴らしい経験をすると語彙力が欠如するというが、まさにそういう感覚だ。
テレビの画面越しでは絶対に味わうことができない臨場感に目を輝かせていた。
色使い、筆のタッチ、全部が生きているみたいだ。
隣にいる絃葉も、モナ・リザの絵にくぎ付けになっていた。
「す、すごいね。ね、橋本君、あっちの方にも凄い作品があるみたいだよ」
「え? 本当? じゃあ、行こうか」
二人はワクワクしながら次の展示室へと向かう。
そこには現在アートのコーナーが広がっている。
漫画風のイラストから、有名なクリエーターらが現代の技術を駆使して描いた作品がズラリ。
歴史的な名画に比べるとカジュアル寄りだが、作家としての個性が全面的に押し出されおり、これもこれで見応えがあった。
さらに進むと、今後はトリックアートの部屋がある。
壁に描かれた絵が飛びだしてきたり、床がグニャッと歪んで見えたりと、普段の日常じゃ絶対に味わえない体験に頭がバグるのだ。
悠一と絃葉は、楽しく笑みを見せ、その瞬間を楽しんでいた。
「如月さん、ここの場所では撮影がOKらしいし、スマホで撮影しよ」
「そうだね。楽しそう!」
悠一はスマホを構え、トリックアートの背景をバッグして、ピースサインを見せている絃葉をパシャリと撮影する。
そんな中、悠一はふと思う。
小学生の頃、社会科見学で地元の美術館に訪れた時は、ただ楽しいという感想しか抱いていなかったが、今は芸術を心から楽しんでいる。
高校生になって、漫画やアニメで目が肥えてきたからだろうか。
芸術の凄さが、肌や心を通して強く感じられるのだ。
二人は交互にスマホで写真を取り終えた後で、音とアートが融合した部屋に訪れる。
絵画の前に置かれたボタンを押すと、その絵の背景をイメージした音楽が流れる仕組身になっていたのだ。
実際に悠一がボタンを押すと、荘厳なオーケストラの曲調が響き渡る。
「す、すごッ! これ、凄くいい感じじゃないか。ちゃんと絵画の雰囲気と音楽がリンクしてるっていうか」
「凄いよね、このシステム。ね、橋本君、次はこっちのボタンを押してみて!」
絃葉の笑顔につられて、悠一はボタンを押す。
今度は、軽快なジャズが流れてきたのだ。
コメディチックな絵の世界観をしっかりと表現している音楽センスに、二人は笑みを向け合うのだった。
美術館を満喫した二人は、近くのお洒落な喫茶店に移動する。
店内はヨーロッパのサロンのようだった。
壁には名画のレプリカが飾られ、クラシックのBGMが優雅に流れている。
店内の入り口近くには、黒髪のポニーテイルに、黒色のタキシード服を身に纏う格好いい系の女性店員が佇んでいた。
二人は、その女性店員に案内され、店内を移動する。
一般庶民にはあまり馴染みのない空間を歩いていると、二人は緊張してしまう。
ようやくテーブルに到着し、二人は向き合うように席に着く。
「こちらがメニューになります。お昼の時間帯は、パスタなども用意しておりますので、デザート以外の商品も選べます。注文がお決まりになりましたら、挙手していただければよろしいので、ごゆっくりお過ごしください」
清潔感のあるキリッと女性店員は紳士らしい口調と態度で軽く一礼すると、二人がいるテーブルから離れていく。
二人はテーブルに置かれていたメニュー表へ視線を移す。
メニューには日本語と英語が併記されており、グローバルな雰囲気を感じられる。
店内を見渡すと、外国人のお客さんの姿もチラホラ。
海外旅行している気分にさせてくれる状況に、二人は視覚的にも現状を楽しんでいた。
「ね、橋本君は何にする?」
絃葉がメニュー表を覗き込み、聞いてきた。
悠一は、彼女が見やすい位置でページをペラペラとめくりながら注文したい商品を選ぼうとする。
だが、コーヒーはエスプレッソ系ばかり。この喫茶店ではデザートに力を入れているようで、美術館近くにある喫茶店だけあって、デザートの盛り付け方にもセンスを感じられた。
「……んー、そうだね、俺はこのカフェラテでいいかな。如月さんは?」
「私ね、カフェモカと……このプリンのアラモードかな! この写真の撮り方、最高に良いよね。弁当屋のメニュー写真と全然違うし」
「そ、それはそうだよ」
悠一は彼女にツッコみを入れた。
「橋本君は、それだけでいいの?」
「そうだな……俺もなんか食べるか。じゃ、このクッキーアイスで」
「決まりね」
悠一が手を挙げ女性店員を呼び、注文を済ませる。
その後で絃葉が、お手洗いに行ってくるねと言い、席を立つ。
悠一は一人、ふぅと口から息をはいて整える。
久しぶりの休日に、充実を感じていた。
でも、壮大な美術館を見て回った事で、楽しくも少々疲れていたのだ。
テーブルに肘をつき、俯きがちにスマホを弄る。
「……悠一?」
肩から力を抜き、のんびりと過ごしていると小さく聞こえる声。
聞き馴染みのある口調に、悠一はハッと顔を上げるのだ。
その視界の先には――
「や、弥生⁉ な、なんでここに⁉」
幼馴染の渡辺弥生が、その場に佇み、私服姿で目を丸くし、驚きながらも悠一の事を見ているのだ。
驚くのは悠一も同じである。
しかも、弥生の近くには、小学生くらいの男女の双子がいるのだ。
その双子は、悠一の方を見つめていた。
な、な、なんでここに⁉
というか、最悪な状況じゃないか⁉
悠一は現状に心臓をバクバクさせながら、額から汗を垂らし、声を震わせていたのだ。
やっと訪れた平和な休日が一転。
絃葉が戻ってくるまでに何とかしようと、胸元を熱くさせながら緊急で対策を考えるのだった。




