第17話 面倒な奴は突然やってくる
放課後の街中。
オレンジ色の夕日がアーケード街を染める中、橋本悠一は街中に到着するなり、杉本莉愛と共に街中をアーケード街の出入り口付近に佇んでいた。
「ねえ、悠一君。どこの本屋に行く?」
莉愛の方から提案してくる。
街中にある本屋は三か所ほどあるのだ。
一つ目は、この前訪れた、アーケードの通りにある書店。
他にはデパート内にある書店コーナーと、少々郊外にはなるが個人経営の書店の計三店舗だ。
「んー、だったらね、この場所から近いのが……この前行った場所だよね」
悠一は少々考え込んだ顔を見せた。
「悠一君は、そこからでいいかな?」
「うん、そうだね。まずはそこからでってことで」
莉愛からの問いかけに、悠一は表情を明るくして頷く。
二人の間で今日の書店巡りの作戦を立て終えると、多くの人が行き交うアーケードの通りを進み始める。
悠一は普段から好きな本は重点的に読んでいるものの、流行となる本はたまにしか読まないのだ。
この機会を利用して、新しい価値観を磨いてもいいだろう。
心の中でそう考えるのだった。
本屋に到着すると、店内では今絶賛放送中のアニソンの曲が流れていた。
「あれ? このアニソンって、確か、あのアニメの主題歌だよね?」
莉愛の方が先に気づいていたようで、表情をハッとさせていたのだ。
彼女は目を輝かせつつ、耳を澄ませ、その曲を聴いていた。
放送中のアニメの曲だけあって、新鮮味があって心地よい感じが伝わってくる。
悠一は漫画や小説は読む。
ただ、小説といっても大半がライトノベルではある。
ラノベ原作のアニメならばある程度把握しているが、それ以外が原作のアニメに関してはたまにしか見ない為、少々疎いのである。
「このアニメって、主題歌がとてもいいの」
「そうなのか?」
「うん、悠一君も聴いてみた方がいいよ。動画サイトとかで無料で聴けると思うし」
テンションが上がる曲調であり、気分が高まる。
今日でも、家に帰ってからしっかりと聴いてみようと思った。
「でも、アニメ自体は、うんって感じなんだけどね」
「え? そうなの?」
「そうなのよね、曲がいいだけに残念って感じ。私、一話目からリアタイで見てみたんだけど、普通かなって感じ。物凄く悪くはないんだけどね。視聴者の事は意識してるけど、見慣れた展開が多いの」
「そ、そうか。うん、何となく察する事が出来たよ。それ以上の感想は聞かないでおくよ」
悠一は苦笑いを浮かべ、その話を強制終了させる事にした。
「まあ、それより、流行の小説を調査しないとな」
「そうね」
二人は店内を移動し始める。
最初に向かうのは、予定通りに書籍コーナー。
二人は沢山の本が揃っている本棚を見渡す。
漫画は、通っている学校ではNGになっている。
基本的、学校の図書館には文字だけの小説が重点的に置かれているのだ。
やはり、活字からしか得られない学びというものだってある。
文芸部の小鳥遊先輩も言っていたが、小説を読む事で想像力と読解力を身につけられると。それに加え、学生の内しか感じられない感情もあると、先輩は言っていた。
「ね、悠一君。この本はどうかな?」
莉愛が手にしていたのは、今年の文学系の新人賞を獲得した話題の小説。
その小説の表紙が見える形で、悠一に渡してきたのだ。
棚前にある平台には、好評発売中と記されたポップと共に新人賞の小説が数十冊も置かれてあった。
小説の表紙は独特な感じで、奇抜なデザイン。
内容が複雑な人間関係を表現した作品であり、人の目では見る事の出来ない感覚を、その特殊なイラストで表現しているのだろう。
「ん? というか、この出版社って、毎年人気の作家を発掘しているところだよね」
その新人賞作品の書籍を手にしている悠一は裏側を見、その出版社名に驚く。
悠一は普段、文芸作品を読む事は無いのだが、出版社名自体が世間的に有名ですぐに気づいたのである。
「そうだよ」
莉愛は頷いていた。
「それに、今は爆発的に売れているし、これは流行作品でしょ!」
「確かに」
悠一は納得するように言葉を零す。
「まあ、他にも流行の本はあると思うし、もっと他の本とかもチェックした方がいいよな」
「そうだね」
「俺はあっちのコーナーに行くから、莉愛はそっちの方を頼むよ」
「うん、わかった。役割分担をした方が、色々な情報をたくさん集められるしね。私、言ってくるね」
「ああ、頼むよ。十五分後に、再びここに集合って事で」
「了解!」
彼女は敬礼するかのような手の動きを見せた後、二人は別々のエリアへと向かって行くのだった。
悠一が本の海を泳ぐように、棚にある新刊作品をチェックしていると近くから何かを感じ取る。
嫌な感じが……。
悠一が別の本棚に移動した時、その曲がり角の先で見知った姿の子が佇んでいた事に気づいたのだ。
え、なんで、恵麻が⁉
悠一は咄嗟に逃げようとするが、丁度、彼女と視線が合う。
「悠一、こんなところで何してんの?」
北桜恵麻は気づくなり、にやりと笑いながら近づいてくる。
蠱惑的な、その笑顔に、昔はドキッとした事もあったが、今では嫌な感じしかしなかった。
「いや、別に……って、なんで君がここに?」
「偶然だよ、偶然ね。ね、せっかくここで会ったんだし、一緒にどこかに行かない?」
「いや、いいよ。遠慮しておく。俺は忙しいんだ」
悠一は拒否反応を見せた。
「ねえ、悠一ってさ。他の女の子とこの店入っていたよね?」
「え、なんでそれを?」
「だって、二人が入るところを見ていたからよ」
尾行されていたのか?
全然気づかなかったんだけど……。
完全に油断していた事を悔やむも時すでに遅かった。
恵麻のペースに飲み込まれそうになる中、彼女の方からさらに畳みかけてきたのだ。
「ね、悠一。もう一回、付き合ってくれない? 私たちの話って、まだ終わってないからね」
その蠱惑的な笑みに嫌な予感しかしない。
悠一は絶望を感じ始めるのだった。
恵麻が言葉を続ける。
「実はね、昔の友達と集まる予定が出来たんだけどね。彼氏を連れて来てって話になってさ。で、悠一をって事にしたの」
「いや、なんでだよ、なんで俺が⁉ というか、別の人と行けばいいと思うけど」
「それっさ、前に言ったでしょ。私が振ったって!」
なんか嘘くさい気がする。
が、これ以上彼女に追求したところで話がややこしくなるだけだ。
多分、何の解決にも繋がらないと思い、聞き返す事はしなかった。
「でも、俺は無理だから」
悠一はため息交じりに突き放すような言い方をし、それからクルリと背を向けるのだ。
悠一は急いで店内にいる莉愛を探しだし、半場強引な形で別の本屋に行こうと言葉を切り出して誘導する。
「え? 悠一君? ど、どうしたの? なんでそんなに慌ててるの?」
莉愛は驚いていた。
なんせ、悠一は何も考えずに、莉愛の手を繋いで店屋から連れ出していたからだ。
莉愛の表情は少しだけ紅潮していた。
悠一は詳しい話は後で話すと言い、とにかく先に進む事だけを考える。
背後から、恵麻の声が薄っすらと聞こえるが、聞こえないふりをして、ひたすらアーケード街の通りを莉愛と共に進み続けるのだった。




