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15/30

第15話 今週の休日はなんか色々と忙しくなりそうだ

 翌朝。橋本悠一(はしもと/ゆういち)はいつもより軽い足取りで教室に滑り込んだ。

 昨日の夕食時に、妹の月空詩(つくし)に相談にのってもらった事で、大分、心がスッキリとしていた。


「おはよう、橋本君!」


 フワッと甘い香りとともに、隣の席の如月絃葉(きさらぎ/いとは)がニコッと笑顔を見せて教室に入ってきていたのだ。

 彼女は自身の机上に、通学用のバッグを置く。


「おはよう、如月さん!」


 悠一は平静を装いつつ挨拶を返す。

 現在、心臓がドギマギとしている。昨日、幼馴染の弥生(やよい)から告白された記憶が脳裏をよぎっているからだろう。


「昨日の喫茶店、物凄く良かったよね」

「う、うん、そうだね」


 幼馴染についての話題を振ってくることが無く、悠一は安心しきっていた。

 が――


「橋本君。確認なんだけど。昨日のあの子、ただの幼馴染だよね?」


 真剣さを表したかのような絃葉の瞳が、悠一の姿を正面から向けられているのだ。


 やはり、その質問か……。


 悠一はドキッとしつつも、逃れられない運命だと悟り、冷静さを保つように軽く息をつく。


「そ、そうだよ! 幼馴染! ただの! う、うん」


 冷静に対応しようと思っていても難しいものだ。


 悠一は額から冷や汗がダラダラと垂れ流しながらも答える。

 絃葉は疑うような目で一瞬ジトッと見てくるが、すぐに笑顔に戻った。


「そっか! そうだよね。昨日ね。家に帰った後、やっぱり、幼馴染なのかなって考えちゃっていて。でも、問題がないなら大丈夫かな。じゃあさ、橋本君、今週の土日って空いてる?」

「え、うん、空いてるけど?」

「じゃ、土曜か日曜、どっちかで遊べない?」


 絃葉の方から、積極的に遊びに誘ってきたのだ。

 悠一から誘おうと思っていたのだが、これはチャンスかもしれない。


 絃葉に抱いている自身の感情が本物かどうかを調べるのには打ってつけの機会になるだろう。


 悠一は、このチャンスを逃すことなく、彼女との会話を続ける。


「奇遇だね。実は俺も如月さんを誘おうと思ってたんだ! 土曜でいいなら、丁度空いてるしさ」


 悠一はハッキリと言葉を伝えた。


「土曜ね。わかったわ、それで決定ね! 私、楽しみ!」


 絃葉の笑顔が眩しすぎる。

 話にひと段落着くと、彼女は自身の席に座るのだ。


「橋本君は行きたいとかってある感じ?」


 絃葉は席に座るなり、体の正面を悠一に向けながら話題を振ってくるのだ。


「まだハッキリとは決めてないんだよね。んー……そうだね、休日だと街中は混むだろうし、ちょっと外れたとこでもいいかな?」


 悠一は考え込みながら彼女に問う。

 元々、今日彼女と会話して、行き先を決めるつもりでいたのだ。


「うん、いいよ!」

「ちなみになんだけど、如月さんは、どんな場所が好き?」

「んー、普段行かない場所がいいかな。美術館とかかな! 街中から少し離れた場所にあるはずだし、丁度いいかなって」

「いいね、美術館!」

「じゃ、美術館で決定ね。土曜日が楽しみ!」


 絃葉が楽しそうにはにかんでいた。


 悠一はスマホを使い、美術館の場所を検索し、完璧なスケジュールを作ろうとっ試みていたのだ。


 丁度、その頃には、担任教師である浅倉美優(あさくら/みゆ)がしっかりとスーツを着こなし、教室へと入ってきていたのだ。

 壇上前に立ち、朝のHRの準備をし始める担任。

 教室内にいたクラスメイトらも次第に静かになり、各々の席に座り始めるのだった。




 午前の授業が終わり、今は昼休み。悠一は絃葉と共に校舎の屋上のベンチに座り、昼食を取る予定でいた。

 しかし――


「ごめん、如月さん! 図書委員の仕事が急に入っちゃって! 一緒に過ごすのが、ムリになった」


 悠一は席に座ったまま、隣の席にいる彼女に対して申し訳なさげに伝えた。


「え、そうなの?」


 絃葉は椅子に座ったまま体の正面を悠一の方へ向け、ちょっと残念そうな顔を見せていた。


「うん、急遽ね。今日担当予定の一年生が休んじゃって、それで俺がピンチヒッターになってしまったわけで」

「そっか。じゃあ、しょうがないね。頑張って」


 突然の変更にも臨機応変に対応してくれる絃葉は優しい笑顔を見せてくれた。


「今日はごめんね。じゃあ、午後の授業でまた」

「うん」


 悠一は席から立ち上がり、教室の出入り口まで向かう。

 絃葉は、手を振って見送ってくれていたのだ。


 悠一は校舎一階の購買部でパンを一つ購入すると、別校舎の図書館までダッシュ。パンを握り潰さないよう気をつけつつ、図書館に到着すると、すでに本の整理を始めている子がいた事に気づいたのだ。


「悠一君! ちゃんと来てくれたんだね」


 笑顔で出迎えてくれたのは、同じく図書委員の杉本莉愛《すぎもと/りあ》。去年から一緒に活動している事も相まって、安心感があるのだ。


「悠一君って、昼食、食べた?」

「まだだよ、今から食べようと思って」


 悠一は手にしていたパンを彼女に見せた。


「なら、急いで食べた方がいいよ。あと五分くらいで本を借りたいって人がくると思うし。ごめんね、急に相方の子が休んじゃって。悠一君には話しかけやすかったから、助っ人にお願いしたんだけど、大丈夫だったかな?」

「いや、いいよ。気にしないで!」


 莉愛の明るさに癒されつつ、図書館の入り口近くの廊下で袋から出したパンをかじる。窓の外から見える景色を眺めながら、深呼吸をしていると、誰かの気配を感じたのだ。


「橋本と杉本。ちょっと来てくれるかな?」


 突然の声に、悠一は体をビクつかせる。

 振り返ると、そこには文芸部の部長――小鳥遊たかなし先輩が佇んでいたのだ。


「な、なんでしょうか、小鳥遊先輩?」


 図書館内にいた莉愛は首を傾げつつも、廊下の方へ姿を現す。

 何事かと思い、パンを食べている途中ではあったが、しっかりと咀嚼しながら悠一も先輩の元へと近づいて行く。


「単刀直入に言うとね。今週の休日に、本の調査してほしいんだよね」

「「本の……調査ですか?」」


 悠一と莉愛は揃って、頭上にクエスチョンマークが出現したかのような顔を浮かべる。


「今年度から、図書館に今どきの本を置きたくてね。今の図書館って、数年前の本が多くてさ。新鮮な風を入れたいよ。二人で本屋巡りしてさ、流行りの本をチェックしてきてほしいんだけど」

「え? でも、なんで俺たちなんでしょうか?」


 土曜日には絃葉とのデートがあり、急なミッションに悠一は思わず声がデカくなっていた。


「まあ、なんていうか。今日の図書館の当番が君たちだったからよ。たまたま目に入ったから丁度いいと思ってね。調査結果は月曜の放課後まででいいから早めに頼むね。私は文芸部部長で忙しいんだよね。じゃ、そこんところ、よろしくね!」


 小鳥遊先輩は背を向け、図書館前の廊下を歩き去って行くのだった。


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