第14話 妹は何かと頼りになる
夜の八時を少し過ぎた頃合い。リビングのソファ前に置かれたローテーブル上には、橋本悠一が電話で注文したLサイズのピザと、サイドメニューのオニオンリング、そして五〇〇mlのコーラのペットボトルが二本、ドドンと鎮座していた。
総額3300円。
かなりの出費にはなってしまった。
妹の月空詩はというと満面の笑みを浮かべ、ピザの箱に入っている一二等分に切られたテリヤキチキンのピザの一切れ分を小皿に乗せていたのだ。
悠一も手始めに一切れ分取り、それを味わってみる。
普通に美味しく、テリヤキの甘さと肉の柔らかさが融合しており、食べ応えのある味わいになっていた。
「月空詩、そろそろ本題に入ってもいいか?」
と、悠一は取引するかのような口調で言う。
ソファにちょこんと座る妹の月空詩は、両手に持って食べていたピザを小皿の上に置く。それから右隣に座る兄――悠一の悩み相談を始めたのだ。
兄である悠一のややこしい状況を聞きながら、妹はキリッと真剣な眼差しを見せて頷いた。
「ふむふむ、なるほどね~、うんうん。ある程度、事情は分かったよ」
状況を把握すると、月空詩は深く悩み込んだ表情を浮かべていた。
「つまり……今、如月さんと付き合っているのに、弥生さんから告白されたってわけね」
妹は現在生じている問題を前に、さらに難しい顔をし始める。
悠一はちょっと気まずそうに頭をかいた。
そんな中、妹は再び、ピザを両手で掴んで口に含む。
「……」
月空詩は無言で咀嚼し、一切れ分のピザを食べきると、コーラでゴクッと喉を潤す。でもって超真剣な顔で難しくも唸る。
ピザとコーラを味わいきった後で、ようやくリビングの沈黙を打ち砕くかのように、妹が口を開いた。
「それって、お兄ちゃんがハッキリしないのが原因だと思うよ。ストレートに言うとね、優柔不断すぎだよ」
「うッ、そ、そうかな……確かに、俺、ちょっと曖昧だったかもな……」
悠一は撃沈する。
薄々感じていた事ではあったが、直接的に言われると、心に来るものだ。
妹の鋭いツッコミにタジタジであった。
「なんか、お兄ちゃんって、いつも中途半端な気がするんだよね」
「中途半端?」
悠一、どうしてと心の中で思った。
「ほら、お兄ちゃん、中学の頃だって。入部した部活をすぐ辞めちゃったじゃん」
「うッ、それは……まあ、そうだけど……でも、何となく入部しただけだったんだよな」
「それそれ! そういう何となくがダメだと思うの! もっと真剣に考えないと。じゃないと、今後大変な事になるかもよ」
月空詩の言葉はまるで必殺技のようにズバズバと心に突き刺さる。
悠一は完全に言葉を失い、ピザが入っている箱を見つめる事しか出来なかったのだ。
「でさ、お兄ちゃん、如月さんと弥生さん、どっちが本命なの?」
妹から向けられる眼差しが、悠一へと向けられる。
「それは……絃葉、かな。弥生の方は幼馴染というか、友達って感じで……」
「ほほう~、友達ね。でもさ、お兄ちゃん。そこんとこ自分の中でハッキリさせないと、今後大変な事態になるかもよ。モヤモヤしてるなら、今週の休みに如月さんとデートして、本当に好きかどうかを確かめてみた方がいいんじゃないかな? いつまでも弥生さんとは幼馴染でいるのっていうのも難しいかも」
妹から提案されたのだ。
「……そうだな、月空詩の言う通り、その方がいいかもな」
妹に相談してみた事で、悠一が一人で抱え込んでいた心のモヤモヤがちょっとずつ晴れていく。
「今週の休みは絃葉を誘って、デートでもしてくるか」
絃葉との付き合いはまだ始まったばかり。
彼女とは新学期から同じクラスメイトになったばかりであり、まだまだ何も知らないのだ。
絃葉と真剣に関わって、本当に好きかどうかを見極める。
悠一はピザが入っている箱から新しくピザの一切れ分を取り、妹と一緒に頬張り食べるのだ。
兄の悠一の迷いが薄れた事で、月空詩の方も素直に笑みを浮かべてくれる。
二人は夜の九時頃まで、ピザやサイドメニューであるオニオンリングを食べ、アニメについて、いつも通りに語り始めるのだった。




