表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/30

第13話 妹の推理力は抜群?

 夜の帳が下りた、まさにその瞬間。

 辺りはすっかり暗くなっていた。

 橋本悠一(はしもと/ゆういち)が自宅近くにたどり着いたのは、夜の七時ちょっと前。


 今、悠一の頭の中は悩みのタネで溢れかえっていたのだ。


 ああー、どうして最後の最後で大きな失態を犯してしまうんだよ!


 悠一は心の中で、叫びたくなっていた。


 悩みのタネというのは、もう一点ある。

 それは――


「まさか、弥生から告白される事になるなんてな……」


 幼馴染の渡辺弥生(わたなべ/やよい)とはただの友達だった。

 こんな形で付き合う事になるなんて、どうしたものかと悠一は頭を抱え、少々俯いた姿勢でトボトボとした足取りで家までの距離を歩く。


 気が付いた頃には自宅の玄関の扉前。悠一は軽く深呼吸をついてから、重い足取りで近づいて玄関の扉を開けた。


「ただいまー……」


 悠一の声は小さく、テンションは地を這うレベル。

 例えるならば、戦場から帰還した敗残兵のようだ。


「おかえり、お兄ちゃん!」


 リビング方面から弾けるような声が飛んできた。

 悠一が顔を上げると、その視界の先には制服を着たままの妹――月空詩(つくし)の姿があったのだ。


「ん? 月空詩って、まだ制服のままなのか?」


 妹の制服姿は物凄く似合っている。

 中学時代の制服も良かったのだが、高校生の制服となると魅力的だ。

 明るみのある黒色をベースに作られた清純派アイドルが着てそうなモノ。

 制服に魅了され入学する子なんかもいて、妹もその内の一人らしい。


「うん。だってさ、一五分前に帰宅したばかりだったからね」


 今日、如月絃葉(きさらぎ/いとは)を途中まで送るために遠回りしていた事も相まって、いつもより帰るのが遅くなっていた。

 察するに、詩が地元の駅に着いたタイミングと、悠一が喫茶店を出たのがほぼ同時だったらしい。

 地元駅には、六時二〇分過ぎに到着する電車がある。きっと、その一本で帰ってきたんだろう。

 悠一の中での推測が完了した。


「ね、お兄ちゃん! 夕飯とか、まだ何も作ってないんだけど、どうする?」


 月空詩は、自宅玄関に佇む悠一の近くまで歩み寄ってくるなり、そう問いかけてきたのだ。


「……なんでもいいよ……」


 悠一の声は、電池切れかけのロボットみたいに投げやりな口調だった。


「なんでもって、適当じゃないかな? んー……もしや、お兄ちゃん、絶対何かあったでしょ? ほら、顔に何かあったって書いてあるよ!」


 その時、ジト目を向ける月空詩の鋭いツッコミが炸裂した。

 さすが、昔から同じ屋根の下で生活してきた妹の事だけある。その観察眼はハンパなかった。


「いや、別に……」


 悠一は視線を泳がせる。

 まだ否定的な態度を見せるのだ。

 妹には心配をかけさせたくなかったからである。


 刹那――、妹の目がキランと光った。


「ふーん、怪しいなー。お兄ちゃんが視線を逸らすってことは、絶対何か隠してる証拠!ほら、さっさと白状してよ。その方が楽になるよ、お兄ちゃん!」


 月空詩は意味深な笑みを浮かべ、玄関先に置かれた外用スリッパに足を乗せ、さらにグッと近づいてくるのだ。


「うッ、そ、それは……」


 今の妹の瞳は、探偵のよう。

 悠一限定の――


「隠しても無駄だよ! さ、お兄ちゃん!」

「わかった、わかったよ! 月空詩に隠し事なんてできないな……」


 まさしく、それは探偵のような判断力。


 悠一はため息をつきつつ、玄関で靴を脱ぐ。

 心の中では、すでに白旗を振っていたのだ。


「ね、お兄ちゃん。相談に乗るんだからさ、今夜は出前でいいよね?」


 月空詩の声が、急に子供っぽくなる。

 いつもの妹のような立ち振る舞いだった。


「出前?」

「うん! 今から料理作るのって大変だし。それに、冷蔵庫見たら空っぽだったの。スーパー行くのも面倒でしょ、だから出前! あと、お兄ちゃんの奢りでね」

「え⁉ 俺の⁉」

「相談料だよ、相談料! それに私、ピザが食べたい気分なの。お兄ちゃん、ピザでお願いね」

「……しょうがないな」


 悠一は肩を落とす。

 今抱えている悩みを解消する手がかりを得られるならば、安いものだと思った。


 妹の月空詩は駆け足でリビングの中に入って行く。

 悠一も同様にリビングへと向かった。


 リビングに移動した悠一は、棚から出前メニューの一覧がファイリングされたクリアフォルダーを引っ張り出すのだ。


 すでにリビングのソファに座っている妹は満面の笑みを見せ、楽しそうな心境を表すかのように足をじたばたさせていた。

 よっぽど、ピザを食べたかったのだろう。


「それで、どのピザが食べたいんだ?」


 ――と、悠一は問いかける。

 その声には、なぜかちょっとだけ笑みが混じっていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ