第11話 かなりピンチな修羅場なんだけど……
な、なんでこんなことに⁉
橋本悠一の頭の中は、まるでパニック映画のクライマックス状態。
地元の喫茶店で、まったりとした時間を過ごしていたはずが、目の前には最悪のシナリオが展開中だ。
右には付き合いたての彼女――如月絃葉。左には、突然現れた幼馴染――渡辺弥生。
まるで修羅場の前哨戦みたいな空気が漂っていた。
ど、どうすりゃいいんだよ、これは⁉
悠一は絃葉と弥生をチラチラ交互に見比べる。
絃葉のキラキラした瞳には「説明、待ってるからね?」みたいなプレッシャーが見え隠れしていた。
対する弥生からは、ニコニコ笑顔の裏に何か企んでそうなオーラが漂っていたのだ。
こんなときこそ冷静に……シンプルに説明すれば。
悠一は心の中で自分を鼓舞し、深呼吸を一度つく。
それから再び、彼女らの方を見やったのだ。
「えっと、まずは説明させてくれ。こっちの子は俺の幼馴染で。小学生の時からの友達みたいな間柄なんだよ」
「ふーん、幼馴染……ね?」
絃葉の声が一瞬低くなる。
まるで何か隠してるでしょと言いたげな視線が悠一の心に突きささり、思わず背筋を伸ばす。
一方、弥生は自然な流れで自己紹介を始めた。
「初めまして! 私は渡辺弥生。悠一の幼馴染です。よろしくね」
弥生の表情は眩しかった。
絃葉も負けじと、キリッとした笑顔で応戦する。
「如月絃葉、よろしくね、渡辺さん。私、悠一の彼女で、今はこうやってデート中だったの。ね、悠一?」
「え、あ、う、うん……まあ、そんな感じ」
悠一は焦りすぎて、声が裏返ったりして、テンパってしまう。
絃葉の彼女アピールに、なぜか心臓がバクバクする。すると、弥生の笑顔が一瞬だけピクッと固まったような気がしたのだ。
喫茶店内に微妙な緊張感が漂う中、悠一の頭の中は少々パニック状態だった。
「お客様、こちらのお二方とご一緒ですか? でしたら、椅子をお持ち致しましょうか?」
突然現れた女性店員の明るい声が、修羅場寸前の空気をぶった切るように響いた。
丁度いいタイミングでの救世主の登場に、悠一の心は一瞬でも救われていたのだ。
だが、根本的な問題は解決していなかった。
女性店員が別の場所から椅子を持ってきて、悠一と絃葉の間らへんに置く。弥生が悠一の右隣に座った瞬間から、絃葉の視線が鋭くなった気がしたのだ。
久しぶりに弥生に会えたのは嬉しいが、この緊張感に胃がキリキリと痛む。
「ねえ、悠一ってさ、彼女いたんだ?」
弥生がニコニコしながら探りを入れるような口調で切り込んできた。
「う、うん、まあ……一応な! ほら、絃葉とは最近付き合い始めたばかりで」
悠一は焦りすぎて声が裏返っていた。
悠一の話を聞いていた絃葉のふーんといった視線が心を突き刺すかのようだ。
「へー、そうなんだ。悠一って、中学の頃と変わったね、なんか……昔より表情明るくなったというか」
「そ、そうかな? いや、別にそんな大きな変化はないと思うけど」
「えー、あるよ! 中学の頃なんて冴えないオーラ全開だったじゃん!」
そういう毒舌発言はやめてくれ。
そんな話を如月さんに聞かれたくないんだけど……。
二人の話を聞いている絃葉の視線が悠一へと向かう。
すると、弥生がニヤリと軽く笑い、さらに爆弾を投下してきたのだ。
「まあ、彼女ができてよかったじゃん。でもさ、悠一って冴えないのに昔、いろんな子に告白しまくってたよね?」
「え⁉ そ、そんなことないよ。せいぜい一、二回だろ! って、絃葉が変な誤解するようなこと言わないでくれ」
悠一は必死に弁解しようとするのだが、絃葉のジト目顔が怖すぎる。
そんな状況なのに、対する弥生は楽しそうな表情で、悠一の方へとグイッと身を寄せてきたのだ。
「でもさ……悠一。私には告白してこなかったよね……?」
何の前触れもなく、弥生が耳元で囁いて来て、ドキッとする。
「まあ、それはそうと。悠一との昔話だけだと、如月さんもつまらないでしょうし。この話は終わりにしましょうか」
話を切り上げた弥生はテーブルのメニューを手に取り、注文を決め始めたのだ。
弥生が注文してから、たった五分。たった五分なのに、修羅場の緊迫感が時間を引き伸ばしているみたいだった。
悠一の心臓は、ドキドキを通り越してバクバク状態だ。
やっとのことで、弥生の注文したベイクドチーズケーキとカフェマキアートがテーブルに到着。フワッと甘い香りが漂う中、弥生はその魅力的なケーキを前に笑顔を浮かべていたのだ。
弥生がケーキを一口食べた後から、三人は当たり障りのない会話を始める。
内容としてはこの頃の天気や、最近学校であった出来事などだ。
そんな中、絃葉の顔つきが少しずつ緩やかになっていく。
雑談を始めた時は、絃葉からの疑いの眼差しがあったのに、今ではただの幼馴染なら仕方ないかみたいな穏やかな表情になっていた。
悠一は、絃葉と弥生をチラチラ見比べつつ、胸を撫で下ろす。
だが、今後、どうなるかはわからない。
慎重に様子を見る事にした。
そう決意しつつ、悠一は目の前のカフェラテを一口。ミルクのまろやかな甘さが、ちょっとだけ心を落ち着けてくれる。
なんとか場を和ませようと、悠一が率先してアニメの話題を振る。
が、二人とも、そこまでアニメに詳しくはなく、少し苦笑いを浮かべていた。
二人にもわかるような国民的アニメの話をするとすぐに理解してくれて、大分話が盛り上がったのである。
さっきまでの緊迫した空気感は薄くなっていた。
それから二〇分ほど経つと、テーブルの上は見事に空っぽ。ケーキは跡形もなく消え、コーヒーカップもカラカラ。戦場を生き延びたかのような達成感を少しだけ感じていたのだ。
「ね、悠一。そろそろ帰る?」
弥生がニコッと笑い、軽い口調で切り出してきた。
絃葉もそろそろといった感じで小さく頷いている。
スマホの時計を確認すると、六時十五分を少し過ぎたところだった。
喫茶店の窓から見える外の景色は薄暗く、道端にある電灯の灯りが光り始めている。
帰宅するのには打ってつけだ。
がしかし、この後で何か問題が生じてしまえば一環の終わり。
最後の最後まで緊張感を持って、二人と関わって行こうと内心考えていたのだ。




