表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/30

第10話 放課後の時間はなぜか気が休まらない?

 昼休みのドタバタをなんとか乗り越えた橋本悠一(はしもと/ゆういち)は、ようやく放課後の教室で一息。席に座ったまま、グーッと背伸びをしていると、隣から聞き慣れた声が飛んできた。


「ねえ、橋本君! 一緒に帰ろっ!」


 右側を見やると、隣の席の如月絃葉(きさらぎ/いとは)がニコッと笑ってる。放課後の教室はクラスメイトの楽し気な声に包まれつつあるが、彼女の声はなんだか妙に優しく感じる。

 付き合っているから、そう感じるのかもしれなかった。


「うん、ちょっと待ってて!」


 悠一はサッと席から立ち上がると、通学リュックの中に課題のノートや教科書をガサゴソ詰め込みながら、笑顔で答えた。


 今日は、絃葉と一緒に帰ることが決定したのだ。

 目指すは、街中のキラキラした雰囲気だ。二人は昇降口で外履きに履き替えた後、学校の門をくぐり、街まで歩き始めた。


「ねえ、悠一。どこか行きたい場所ってある?」


 隣を歩いている絃葉が、気さくな感じで話しかけてくる。


「うーん、今日はさ、喫茶店とかどうかな? 今日のお昼は結構な量を食べたし。放課後は、ゆっくりとした空間で過ごしたいんだけど」

「喫茶店! いいね! えっと、ここらへんだと、どういう喫茶店があるかな」


 悠一と共に歩いている絃葉は、ポケットからスマホを取り出すと検索し始めるのだ。彼女の指が画面をスワイプするたび、ちょっと楽しそうな雰囲気が漂ってくる。


「ねえ、このお店はどうかな? 物凄くおしゃれな感じじゃない?」


 絃葉がスマホをグイッと差し出してくる。画面には、昔風ながらも落ち着いた店内に加え、美味しそうなケーキやコーヒーが並んだ写真が喫茶店のサイトが映っているのだ。

 レビューも「居心地最高!」「デートにもオススメ!」と、かなりの高評価具合。


「へえ、いいじゃん! ……って、あれ? これ、よくよく見るとこの辺じゃないね」

「え、そ、そうだね。なんか私たちの地元周辺にある喫茶店みたいよ。どうする? ここでいい?」

「んー、まあ、そこでもいいかな」


 悠一は考え込みながら呟く。

 どの道、家に帰るのだ。

 立ち寄るにしても、地元の方がいいと思った。


「なんというか、地元の喫茶店なら、学校近くのバス停から直接駅まで向かった方が良かったかもね」

「確かにそうね。でも、運動の一環ってことで駅まで走らない?」


 絃葉が提案してくる。

 悠一は首を縦に動かし、その提案に乗る事にしたのだ。


「じゃあ、競争って事で!」


 悠一は笑顔で言うと、絃葉と共に駅へ向かって駆け出すのだった。




「いらっしゃいませ~!」


 扉を開け、店に足を踏み入れた瞬間、奥から爽やかな声が響いてきた。

 店内はサイトの写真通りに、綺麗に整っている。

 地元の駅の裏通り、去年から駅を利用しているが、こんなにも洒落た喫茶店が隠れているなんて驚きだ。

 絃葉の検索スキルには感謝しかなかった。


「お客様、何名様でしょうか?」

「二人でお願いします」


 声の主は、店内の奥からやってきた女性店員。容姿からして大学生くらいで、ナチュラルな可愛らしさを感じられた。

 悠一はサラッと答えると、絃葉と一緒に女性店員の案内に従う。窓際の席に案内され、二人は向き合うように腰を下ろす。


「ねえ、橋本君! このお店、ネットの写真通りに雰囲気がいいよね? 昔ながらの雰囲気もあっていい感じかも」


 絃葉がキラキラした目で店内を見回しながら言う。

 確かに彼女の言う通り、昔ながらの良さを残しつつも、今の時代に合った新鮮な風を取り入れた雰囲気を感じられる。

 こういう空間にいると、特別な放課後を過ごせている感じがして、心地よかった。


 悠一もつられて笑顔になりながら、店内をグルッと見渡した。

 テーブルには、シンプルだけどおしゃれなメニュー表が置いてある。コーヒーやケーキがメインみたいだ。


「ね、どれにする?」


 絃葉がメニューを覗き込みながら、楽しそうに聞いてくるのだ。


「うーん、私、イチゴケーキが大好きだから、これにしようかな」


 絃葉が指さしているのは、フワッとした生クリームの上に、真っ赤なイチゴが映えるケーキ。

 ただのショートケーキではなく、沢山のイチゴをふんだんに使ったケーキであり、豪華さを感じられたのだ。


「悠一は?」

「俺はね、チョコケーキかな。濃厚なやつ、こういうの好きなんだよね」

「へえ、悠一ってチョコ派なんだぁ」


 絃葉がちょっと驚いた顔を見せつつも、少々考えた顔も見せる。その後で、彼女は意味深な笑みを浮かべていたのだ。

 何を考えているかはわからないが、嬉しそうな表情である事は間違いなかった。


「でさ、橋本君、コーヒーは何が好き?」


 メニューを見やると、コーヒーはドリップとエスプレッソの二種類。ドリップはブレンドやアメリカンなど、落ち着いた感じ。エスプレッソはカフェラテやカプチーノなどがあり、コンビニで見るようなオシャレなラインナップだ。


「うーん、俺はシンプルにカフェラテでいいかな。絃葉は?」

「私もカフェラテかな。ミルクの甘さが好きなんだよね~」


 二人の間で注文したい品が定まる。


「そろそろ、店員を呼ばない?」


 絃葉が頷いたところを確認した悠一は、椅子に座ったまま軽く手を挙げる。

 さっきの店員さんが笑顔でやってきて、悠一は簡単に注文を済ませるのであった。




 テーブルには、注文したイチゴケーキとチョコケーキ。それから、甘めの香りが漂うカフェラテが二つ。

 対面上の席に座っている絃葉が「ん~、美味しそう!」と言いながら、キラキラした笑顔で二つのケーキを眺めている。


 悠一はこの瞬間に幸せを感じていた。


 元カノの恵麻(えま)との嫌な思い出は、もう遠い過去。絃葉との時間は、心が穏やかになる。このまま良い関係性で過ごしていきたいと考えつつ、悠一はカフェラテを一口飲み、幸せな気分に浸っていた。

 それからケーキを一口。

 普通に美味しかった。

 これこそが、高校生の青春だと心で感じていたのだ。


 絃葉はフォークで掬ったイチゴケーキを口に入れ、それを頬張りながらも「ん~、最高!」と言い、目を細めていた。


 そんな平和的な最中――


 チリン!


 店の扉の鈴が鳴り、穏やかな空気を切り裂くように新しいお客が入ってきたのだ。


「こちらの席へどうぞ~!」


 女性店員の明るい声に導かれ、そのお客が二人の近くのテーブルまでやってくる。なんとなく視線を感じ、悠一がチラッと目をやると――


「……え?」


 その瞬間、目がバッチリ合った。


「悠一?」

「や、弥生……⁉」


 そこにいたのは、ツヤツヤの黒いショートヘアがトレードマークの幼馴染――渡辺弥生(わたなべ/やよい)。整った顔立ちに、優しそうな瞳が特徴的な女の子。昔から変わらない、雰囲気がある。


 弥生とは高校が違い、中学を卒業してからは殆ど関わる事が無くなっていたのだが、こんなタイミングで、しかも初めて訪れた喫茶店で鉢合わせるなんて驚きしかなかった。


「橋本君? どうかしたの? えっと……その子とは知り合いなの?」


 絃葉は悠一の方をまじまじと見、首をかしげていた。

 悠一は、彼女の声でハッと我に返る。

 物凄く気まずかった。

 そんな中、弥生からの視線がガンガンと刺さってくるのだ。

 悠一は冷や汗ダラダラで、瞳をキョロキョロ。


 この空気感、大丈夫なのか⁉


 絃葉と二人きりだった放課後。急展開を迎え、悠一は対応に困り始めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ