第9話 報奨金
「ダニエル様、漁は初めてですよね。しかもどの魚も傷は頭に一か所だけ。身には傷ひとつないなんて」
全部買取いたしますとギルド長が私の目の前までせまってきて、売らないとは言わさないと気迫を感じて、金額も聞かずに頷いてしまった。
「まぁ、今日はなんていい日なのかしら。腕が鳴るわ、すべて高く売りつけるわよー」
私の頷きを見たギルド長は、めちゃくちゃ笑顔で叫んでいた。
「ギルド長、今は商人ではなく商業ギルド長です。立場を間違えないようにしてください」
副ギルド長がギルド長を冷静に諫めながら、クラーケンとグロースシューレをギルドのマジックバッグと思われるものにさっさとしまっていた。
そしてギルド長に詰め寄られた私が頷いたのを見ていたようで、すぐに魚もギルドのマジックバックにしまっていく。
魚をしまい終えた副ギルド長が私に向かって口を開く。
「ギルド長が大変失礼いたしました。こちらの魚も早急に試算させていただきます」
副ギルド長は私たちに向かって頭を下げて倉庫を出て行った。
ギルド長は気まずそうにしていたが、私たちに話し出す。
ギルド長はエクラ商会長の娘さんらしく、商業ギルド長をする人がいなくて期間限定で父親に命令されたらしい。
しかも他の商会長も賛成されて受けざるおえなかったとか。
副ギルド長に早く譲って商売に戻りたいのに、任期を全うしてくださいと拒否されているとのこと。
「エクラ商会と言えばこの領内一の商会だ」ハンスがつぶやいた。
「ありがとう。でも私は領内だけでなく、この国全域で商売をしたいと思っているわ」
「副ギルド長はできる人のようですが、なぜギルド長になれなかったのですか?」
私の問いにギルド長が教えてくれる。
「私がギルド長になった時、まだ彼はこのギルドにいなかったのです」
副ギルド長は他領の商業ギルドで働いていたが、上司と反りが合わず、この領地の募集に応募してきた人だそうだ。
「優秀そうな人なのに、勿体ないですね」
「えぇ、そのおかげでこの商業ギルドは助かったともいえます」
しばらくして、副ギルド長が戻ってきて、ギルド長に書類を渡した。
読み終えたギルド長が私に書類を渡してくる。
「今回のクラーケン退治の報酬と買取料金の一覧です」
全部で8,0153,000レルだった。
内訳はクラーケン退治報酬500万レル、クラーケン買取100万レル、グロースシューレ買取200万レル、残りが魚の買取料金だった。
この国の国民の年間収入の平均が、300万レルから400万レルと言われている。
そうなると2年分の年収になる。
「少ないかもしれませんが、これが今この商業ギルドで出せる価格になります」
「報酬に不満はありません。ただグロースシューレの買取価格が高くて驚いています」
私が素直に話すと、ギルド長はたくさん捕獲されると買取価格は下がるけれど、1体ほぼ無傷に近い状態で、幻といわれていてなかなか手に入れられないものだから、価値が高くなると説明してくれた。
それからはギルド長室に戻り、書類にサインしたり、ギルドに口座を作ったりと手続きをしていった。
夕方になったのでギルド長おすすめの料理屋に行く。
すでにクラーケンとグロースシューレの足は料理屋に運んで調理を始めてもらっているとのことだった。
白子熊の店と書かれた看板のお店につき、中に入るとすでに人で賑わっていた。
漂ってくる香りも美味しそうな匂いで期待ができる。
案内されたのは奥の個室になっている部屋だった。
お店で変わったものを食べていたら噂になるから、ギルド長たちの配慮に感謝する。
部屋に料理も持ってきた女性がギルド長に声をかける。
「ヘレン、ありがとう。まさか幻の食材を料理できるなんて興奮が止まらなかったわ」
「アグネス、まずは料理を置いてちょうだい。この食材を獲った人を紹介するわ」
アグネスと呼ばれた人は、ギルド長と同年代の女性で私やセドに紹介してくれた。
「まぁ、少年がクラーケンとグロースシューレを、あなたすごいスキルの持ち主なのね」
「いえ、私のスキルは素潜りです」
「えっ、そうなの?」
「はい」
「それでスキルを活かすために漁師になったのね」
「いえ、漁師にはなっていません。ただ無人島を開拓したくて今は資金集めをしています」
「はるか沖に見える、あの無人島?」
「はい」
「ダニエル様は、エインズワース伯爵のご子息なのよ」
ギルド長から私の身分を聞いたアグネスさんの顔が青ざめる。
「申し訳ありません。貴族の方とは思わず、馴れ馴れしい喋り方をしてしまいました。ご容赦ください」
「アグネスさん、畏まらなくていいですよ。これからも私が獲った魚の料理をお願いしたいですから」
「ありがとうございます。ほっとしました。ヘレン、前もって教えてくれないと!!」
アグネスさんはギルド長に文句を言っていた。
「ごめんね。だけど、伯爵のご子息と事前に話していると身構えてしまうでしょう。それに料理も変わると思ったのよ」
「わかったわ。ただ、あまり驚くようなことは今後しないでちょうだい」




