第78話 商談(前編)
グレン会長を子爵館へ案内しようとしたら、商品を見たいとの意向で、ヘレンのエクラ商会に行き先を変更する。
エクラ商会には、なぜかジョージさんがいた。
しかもヘレンには見えないように、柱の影からこちらをチラチラと覗いている。
ジョージさん、何やってんのさと言いたいが、今は大事な取引中だから、見なかったことにした。
案内された応接室で、グレン会長が先に見本の品物をマジックバッグから取り出してきた。
商人でマジックバッグを持っているとなると、相当裕福でないと無理だ。
私は新興の急成長で信用できる商会を希望したが、ナビア王家は大商会を紹介してきたのかと、内心焦りながらも平静を装う。
だけど私がマジックバッグを見ていることに、グレン会長は気づいたようだ。
「マジックバッグは時間停止機能がついていないものですが、商人にはありがたい物です」
他国に商談に行った際に手に入れたそうだ。
やっぱりやり手の商人さんだ。こちらの表情を見逃さない。
テーブルに出された品物の説明が始まる。
オパールと言われる虹色に輝く宝石、色ガラスに金で装飾されたとても華やかなワイングラスや花瓶、ティーカップはカップとソーサーがカラフルな無地の色で、内側が白色とこの国では見ない色合いだ。
そしてウィスキー、リキュールというお酒がテーブルに並べられた。
お酒はストレートでもいいが、果実で割って飲むとか色々あるらしく、ヘレンにはあとで実演して試飲してほしいとのことだ。
どれもこの国にはない珍しい物だった。
「失礼ですが、これらの品物はナビア王国の物ではありませんよね」
ヘレンがグレン会長に話しかけた。
「よくおわかりになりましたね。これらは私が他国から購入したものです」
グレン会長の話だと、ナビア王国と隣接している国々の特産品らしい。
ただナビア王国内では、高級品として出回り始めている商品。
しかし我が国のアレクシオ王国や、我が国の南側の国々には珍しい品ではないかと持ってきたそうだ。
「ナビア王国の品はアレクシオ王国の商会で販売しているはずですから、同じ品だと負けてしまいますからね」
グレン会長の言葉にヘレンもうなずく。
「グレン会長とは考え方が似ているようで、末永くお付き合いさせていただきたいです」
ヘレンの言葉に私は思わず口を開く。
「ヘレン、それって我が国の商品以外に他国の品があるということ?」
ヘレンの笑顔を見ると正解のようだ。
「まずは我が領内の特産品から」
ヘレンは、暖かい絹生地、芋虫のランクの落ちる生地、ムームーの生地、チエリ貝の装飾品、小粒の真珠もどきの装飾品をテーブルに出し、グレン会長に説明を始める。
グレン会長の目が鋭く品定めをしているが、一点、一点手に取り見ていくにつれて笑顔になっていく。
「これがすべてこの子爵領の特産品?国内でも売れるのではないですか?」
「実際、売れています。しかし価値を下げたくないのです」
グレン会長の言葉にヘレンが返答する。
暖かい絹生地、芋虫のランクの落ちる生地は生産量を拡大しているから、国内に卸す量を現状維持で、増えた分をグレン商会に卸すとヘレンとは話し合っていた。
「これは真珠ですか?」
グレン会長が見ているのは、私が見つけてきた真珠もどきの装飾品だ。
ヘレンは小粒を3連、5連のブレスレット、3連をひねった豪華なネックレスなどを作っていた。
「鑑定では真珠と同じ成分らしいのですが、私が海で見つけたものなので、真珠と呼んでよいのかどうか・・・・」
私が答えるとグレン会長が提案してくる。
「小粒とはいえ輝きも真珠と変わらない、しかも粒の大きさはそろっています。真珠の名前をつけても良いと思います」
「今後も見つけられるか不明なのですが・・・・」
私が渋るとグレン会長は笑い出す。
「それこそ希少性から商人としては売りやすいですよ」
ヘレンにも同じようなことを前もって言われていたから、この件は2人に任せよう。
次にヘレンが出してきたのは、ラム酒、砂糖、こげ茶の豆だった。
「この豆は飲み物で、これからお出しします」
ヘレンが一度外に出て指示を出すと、従業員が私たちの前にカップとケーキを置いて下がった。
カップの中を見ると黒い液体だった。




