第70話 滞在記(3)
次はレンタルドレスを見るため、隣の部屋へ移動する。
部屋に入ると目に入ってきたのは、女性用のレンタルドレス。
しかし各サイズごとにハンガーラックに掛けられているが、3着ずつしかなく、まだまだこれからという感じだった。
しかもよく見ると各サイズのドレスのデザイン、生地の色など、すべて違うようだった。
男性用も各サイズは3種類で、黒、紺、グレー色のジャケットとスラックスのセット。
こちらも各サイズともデザインは違った。
「こちらは王都で仕入れた中古服を手直ししたものです」
ダスティンの話だと、どれも絹生地らしい。
領民たちが普段は着ない物で特別感を出したとのこと。
王都に行ったときに仕入れて、徐々に数を増やす予定だとか。
「ダスティンさんたちがデザインした服は?」
私の問いに、ディスプレイして売れ残ったものをレンタルに回す予定とのことだった。
王女様がダスティンに質問をする。
「実際、問い合わせや予約は入っているのかしら?」
「はい、普段着ることがないドレスを着られることで、見に来られる方はいます」
ただ意外だったのが、結婚式に参列する家族。
特に女性たちから、花嫁よりは控えめで素敵な服を着たいというニーズがあるらしく、今度王都で色々仕入れてくる予定らしい。
家族でレンタルドレスを見に来るらしく、自分たちもお洒落したいということみたいだ。
私はダスティンさんの側に行き、こっそり尋ねる。
「まだお店始めて間もないのに資金は大丈夫なの?」
どうやらこのレンタルドレス事業と既製服事業に、ダスティンさんの実家が興味を示して王都でやりたいと言い出したそうだ。
そのためダスティンさんにノウハウを教えてもらう代わりに、それなりの資金をくれたそうだ。
あと魔道具も何とか手に入れられないかと打診されているらしい。
なるほど、王都の方が需要は高そうだ。
まぁ、成功すれば参入が増える可能性はあるが・・・・。
レンタル事業の話は終わり、先ほどいた部屋に戻る。
今度は暖かく感じる生地で普段着ドレスを作るため、カリナのデザイン画を王女様とアイリスは見始めた。
マクファーソン伯爵も、シャツを暖かくなる生地で作りたいとダスティンさんと一緒に1階に降りるため、私も伯爵について行った。
翌日は島に渡った。
領民たちの出迎えは不要で仕事をしてほしいとの王女からの依頼で、島の住民は宿舎にはいない。
王女たちが宿泊として使う建物は、作りかけの建物を大急ぎで完成させた。
民が寝泊まりする宿レベルだが、テントよりはいいと思う。
少し部屋で休んだ後は、亀様と応接室で対面だ。
亀様は自分の部屋にいる間は、結界を張って私や島の住民たちも入れないようにしている。
私が王女様、マクファーソン伯爵、アイリスを応接室に案内すると、すでに亀様は応接室のテーブルの上にいた。
「亀様、お待たせして申し訳ありません」
『よい、我も用が済んだから、ここで休憩していたにすぎない』
私が声をかけると、亀様は話しながら宙に浮かび移動する。
『そなたたち、ソファーに座ればよい。我がそなたたちの視線に合わせよう』
亀様は1人用ソファーに移動して、そのまま宙に浮かんでいる。
亀様を挟んだ左右の長ソファーに、王女様とアイリス、私とマクファーソン伯爵が分かれて座った。
私から亀様に3人の紹介をし終えると、王女様が立ち上がり話し出す。
「神獣様、お初にお目にかかります。わたくし、ルドヴィカ・アレクシオと申します。アレクシオ王国、国王の第2王女です。国を代表いたしまして、神獣様の我が国への滞在、歓迎いたします」
亀様に向かって王女様が一礼する。
亀様は大きく顔を下げて頷かれ、王女様に座るようにと言った。
王女様はソファーに座ってから、また話し出す。
「お供えとして色々な種類のお酒を持参いたしました。指示をいただいた場所へお持ちしたいのですが、どういたしましょうか?」
『ふむ、お供えならば受け取らなくてはな。私の部屋に置いてくれればよい』
亀様なので表情はわからないが、喜んでいるような気がする。
王女様たち、しっかりと亀様の好みを捉えているよ。
ドアにノックがあり、私がドアを開けると王女様付きの侍女が、アグネスから受け取ったお菓子を持ってきたようだ。
茶葉は王家から持参した物で入れてくれるらしい。
目の前に置かれたお菓子は2切れのヨウカンだった。
亀様のお気に入りだね。
よく見ると、一切れはいつも食べるヨウカンだったが、もう一つは黄色い粒がたくさん入っているヨウカンだった。
『気づいたか。栗を粗めに刻んだものを入れたヨウカンだ』
亀様がアドバイスしてできたヨウカンらしい。
「まぁ、神獣様が協力してできた新作のお菓子なのですね。皆様、味わって食べましょう」
王女様が率先してヨウカンのお皿を手に取り、まずは普通のヨウカンを一口食べたあとで、栗ヨウカンを食べている。
事前に毒見は済んでいるとのことで安心した。
「なめらかで優しい甘さですね。栗入りも感触が変わっていいアクセントになっているようです。一粒まるまる入ったものも、また感触が変わりそうですね」
王女様が感想を言えば、亀様が反応する。
『そうなのだ。最初は一粒まるまるで試作したのだが、そうなると一切れが大きくなってな、人数分用意するのが大変だから、こちらになったのだ』
以前もアグネスと料理談義をされていたが、このお菓子も協力してくれたみたいだ。
アグネスの料理気に入っていたから余計にかもしれない。
そのあとは亀様おすすめの料理、ここで食べた方がいい料理を王女様は聞きだしている。
エーグラーの唐揚げまで亀様が話してしまった。
王女様は私を見てにっこりする。
「できるだけご用意いたします。ただエーグラーを見つけられるかは微妙で・・・・」
私が言いかけると、王女様はさらに笑顔を向けてきた。
「ご期待に沿えるように頑張ります」
言葉ではない圧が凄すぎて、そう言うのが精いっぱいだった。




