第65話 兄弟だけで・・・
「少しでもお前が仕事を引き継げば、父上の負担が減り、休んでいただける」
兄上が予想外の話をし出した。
「父上に何かあったのですか?」
「この前、倒れかけたが大丈夫だ。・・・・ただ10年以上のオーバーワークだ。医者からこのままの状態が続くと、いつ体調を崩されてもおかしくないと言われたよ」
「そんな・・・・」
珍しく嫌味ではない兄上からの話は続く。
「考えてみればわかることだった。お祖父様がいらっしゃったときはまだよかったが、管理人がいるとはいえ2つの領地を見ているのだ。負担は大きかったと思う」
2つの領地にそれぞれ管理人がいるが、父上の性格からして、報告書にすべて目を通していたと思う。
そうなると兄上がいうように、無理をしていたということだ。
いつも仕事に追われていて、会えば
「伯爵家の人間にふさわしいふるまいをするように」とか「勉学に励むように」など・・・・。
とにかく伯爵家の品位を落とすなみたいなことしか言われなかったから、私たちに興味がないと思っていた。
でも伯爵領、子爵領共に領民たちが、穏やかに暮らせていることを思えば、父上が領民のために常に目を光らせていたからだとわかる。
さらにここ最近、子爵領絡みの案件で、父上は王都と子爵領を何度も往復しているし、王家側への報告も任せっぱなしだった。
私は下を向いていたが、顔をあげて兄上を見て話す。
「あと1年、いえ8か月後くらいから、引継ぎを少しずつ始めると父上に言われています。ご忠告、感謝します」
私が兄上に軽く頭を下げると、兄上は顔をそむけて話し出す。
「お前のためではない。今父上に倒れられると私が困るからだ。だから父上からアドバイスは受けても、出来るだけ自分の領のことは、お前自身で片付けろ」
兄上は私が子爵領を継ぐのが嫌なのだと思っていたが、今の話だと違うような気がする。
突っ込んで聞きたい気持ちはあるが、本心を話してくれるとは限らないし、機嫌をそこねて嫌味の応酬になるのもいやだ。
「わかりました。努力するようにします」
兄上は硬い表情のままうなずいて、先に部屋を出ていった。
私たち兄弟が仲良くなることはないだろうが、今の話の感じだと兄上が子爵領にちょっかいを出すことは、なさそうな気がする。
少し休憩を取った後で、父上の書斎に行った。
執務机に座っている父上は、少しやせた感じがするのは気のせいだろうか?
私の表情が硬いことに気づいた父上が口を開く。
「私が倒れかけたことを聞いたのか?大丈夫だ。オーガストが伯爵領の仕事を手伝ってくれるようになったから楽になった」
「しかし私のせいで、仕事量は減っていないのではないですか?」
「宰相様に報告に行くくらいだから、そこまでの負担増ではない」
「しかし・・・」
父上は私の言葉を遮り、顔を左右に軽く振る。
「時間がもったいない、報告を聞こう」
私はソファには座らずに、執務机を挟んで立ったままで報告をしようとしたら、父上が執務椅子から立ち上がると同時にソファに行くよう言われ、対面する状態で座る。
父上の足取りはしっかりしているから、大丈夫そうだからとりあえずは安心した。
私からの報告が済むと父上が口を開く。
「我が国にはない物だが、奴隷がする首輪か。しかも解除できる魔道具を作ってしまう魔道具師がいるとはな。あと結界の魔道具、神獣の亀か、驚く話ばかりだ」
父上は手に入れた2つの魔道具を王家に渡すことは賛成してくれた。
魔道具の仕組みについては王家側で調べればいいと同じ意見だった。
「ジョージだったか、元いた商会が渋るはずだな。いい人物がお前の所に来た」
ジョージさんが海水を真水に変える魔道具も作ったことを話したため、父上の感想だ。
父上はジョージさんが思ったよりもすごく優秀なことに驚いていた。
「私に興味があってではありません」
ジョージさんが、ヘレンに一目惚れした結果だから、私の手柄ではない。
「それでも彼がお前の領地にいたから、助かった人たちがいるのも事実だ。あと神獣と女神に愛されし動物たちの本来の意味がわかったのなら、この本は不要になったな」
父上はテーブルに置いていた1冊の本に手を置いた。
どうやらヘレンが父上に話していたみたいで、伯爵家に仕えている本好きの人に探してもらったようだった。
「お手数をおかけしたのに申し訳ありませんでした」
「いや、この本の話が違うとわかっただけでも、意味はあるから気にするな」
そこから島での新たな特産品の話と、船を活用したい相談や、明日の宰相様との面談についての打ち合わせを終えて、私は部屋に戻った。




