第6話 頭に乗せたもの
「セド、それが全然息苦しくなくて、海の中でも息ができるんだ」
「ほんとうか?お前のスキルすごくないか!!」
「いつまで潜り続けられるかはわからない。これから試してみないと」
「最初だからあまり無理はするなよ。でも大丈夫そうだから、俺も周辺を見てくるよ」
「セド、心配かけてごめん」
「いや、俺が勝手に心配しただけだから」
魚を海水でよく洗ってからマジックバッグにしまった。
しかし毎回戻ってきて魚を仕舞うほうが体力を使いそうな気がする。
毎回、砂浜に戻ってこずに魚を海で保管できる方法を考えないといけない。
午前中で30センチ前後の魚を10匹獲った。
それから不思議なことに海からあがっても、ズボンが濡れていないことに気づく。
海の中でズボンが体にまとわりつかなかったし、おまけに全然体が疲れていないのだ。
これもスキルのお陰なのだろうか?
午後はシャツを着た状態で潜ってみるか?
セドも戻ってきた。
昼食を食べながらセドの話を聞く。
木々が生い茂っていて枝を切りながら進むため、ほとんど進めてないそうだ。
「枝は乾燥させて薪用にできるからな」
なるほど、今は乾燥した枝が周辺にたくさんあるが、薪用にするには時間がかかるし、今後のことを考えれば枝を切り落としていくほうがいい。
しかしこれだと開発にはいつ着手できるのかと思ってしまう。
ただ今はお金を稼ぐことができるのは私の素潜りだけだ。
魚を売りに行って稼ぐからには大物が欲しい。
今は始めたばかりだから、慌てずに確認しながらやっていこうと思う。
セドは午後、砂浜周辺の密集している木々の枝の伐採を、私は引き続き海に潜ることにした。
夕方、今日の成果をセドに報告する。
午後はもう少し沖にでて潜ると50センチから80センチの魚を16匹獲ることができた。
「さらに沖にで大きい魚を獲ったのに、午前中より魚の数が多いのはどうしてだ」
私が朝獲った魚にハーブソルトをまぶして、フライパンで焼いたものを食べながらセドが聞いてきた。
「試しに獲った魚を左手に持った状態で、右手でモリを突いても魚が獲れたんだ」
海の中では魚もモリも重さも感じなくて、服を着た状態で潜っても服が重くならないこと、海からあがっても服が乾いていると話した。
「はぁ?!お前のスキルおかしくない?」
「私もそう思う。すごく便利でありがたいのだけれど・・・・」
「いつか大物を素手で倒すかもな」
「まさか、さすがにそれはないよ」
セドの言葉に笑った私だった。
翌日、砂浜に戻っていたセドに海の中から手を振る。
気づいてくれたセドに一度潜って蟹を頭にのせ蟹を見せてから、また蟹を海中に戻してもう一度セドに手を振った。
状況を理解したセドが、慌ててマジックバッグを持って泳いで私に近づく。
「昨日の今日だぞ」
「そうなんだけれど、とりあえず、マジックバッグにしまいたいから手伝ってよ?」
私は体長3メートル近くの蟹を持っていたからだ。
3メートルとはいっても、足の長さも入れての大きさだ。
甲羅だけなら1メートルぐらいか?
ただ片方のハサミが大きいのが特徴の蟹だ。
海の中では蟹の重さをまったく感じないのだが、海から出ると途端に蟹が重くて持つことができない。
だから蟹が重く感じないギリギリのところの海の中にいる状態だったのだ。
テントの日よけの下で、夕食を取りながら話す。
「セド、さっきは助かった」
「それよりどうやってデカイ蟹を獲ったのか教えろよ」
私は息継ぎなしで、どこまで行けるか潜った状態で泳いでいたら蟹と遭遇したこと、大きなハサミで私に攻撃してきたけれど、なぜか事前に左右どちらから攻撃があるか察知できて避けることができたこと。
そしてある一点が異様に光って見えたので、モリを投げたら命中して蟹が倒れたことを話した。
「俺、あんなに大きな蟹みたことないぞ!」
「私もだよ。なんて名前の蟹かもわからないし、売れるかなぁー」
「しかし、お前のスキル、本当によくわからないな?」
「もっと何ができるのか試さないとね。明日はハンスが来るから、明後日この島に沿って潜ってみようと思う」
「一日で島一周とかさすがにできないだろう」
「たぶん。途中で引き返えすから大丈夫」
「無理はするなよ」
夕食を食べていると、セドが周囲を見だす。
「セド、どうした?」
「なんか今日一日、誰かに見られているような視線を感じるんだよ」
「獣の足跡とかあったのか?」
「いや、ない。木に爪痕とかもないんだ。やっぱ気のせいかな?」
「無茶はしないでくれよ。一緒に奥に行くか?」
私は心配になったのでセドに提案するが、セドは首を振る。
「今の稼ぎはダルだけだ。開拓をするのには、はやり人がいる。無茶はしないと約束するよ」
翌日の早朝、ハンスが慌ててやってきた。
「どうした?」
「近くでクラーケンが出たんだ。だからダルとセドも一旦街に戻ってほしい」




