第59話 新たな特産品
ヘレンとジョージさんは帰って行った。
ジョージさんは子爵領に戻ったら、ヘレンに懺悔するらしい。
ヘレンがどういう態度に出るかは不明だけれど、ヘレンの周囲が協力しているから、そこまで怒れないかもしれない。
とりあえずわだかまりがないようにしてから、ジョージさんにはこの島へ来てほしいと思う。
ダスティンさんに渡す魔道具を完成させたら、来るようなことをジョージさんは言っていたけれど・・・・。
2回目の長めの島の探検からセドたちが帰ってきたが、たくさんのムームーを連れていた。
いったい何十匹いるのだろう?
ムームーは高さが1.3~1.5メートルと大きめで、家畜の中では足が長い。
頭と胴体は、白か茶色の毛のどちらか一色に覆われていて、もこもこしている。
そして年3回毛が抜け、この毛でできた織物は、軽くて暖かく、光沢もあるから人気がある。
ただムームーは気が荒い。
ムームー同士で毎日のようにぶつかり合いをするため、毛に覆われているけれど、怪我がするものも多い。
そしてその怪我のせいで亡くなることもあり、家畜として飼うのは難しく、希少性からムームの毛織物は高額取引されている。
それが大人しく行動しているから驚いていた。
今回セドたちは、川を上り源泉まで行くことになっていたが、どういうことだろうか?
セドが私に気づき走ってくる。
「ダル、驚いただろう」
セドの話だと、川の水を飲みに来ていたムームーが、冒険者パーティのアステールのルイスさんに近寄って服を引っ張って連れて行こうといたらしい。
それでついて行くとムームーの集団がいる場所に辿りついたとか。
そしてあちこちでぶつかり合いをしていたムームーが、突然大人しくなったそうだ。
原因はルイスさんではないかと、同行者全員の意見が一致したらしい。
「ルイスさんのスキルって何?」
「リラックスだそうだ」
おまけにちょうど毛の抜け替え時のようで、みんなで手分けして毛をむしり取っても大人しくしていたらしい。
ただ遅くなると私たちが心配すると思い、連れて帰ってきたそうだ。
だから至急、毛取りブラシをガルシアさんたちに作くるお願いをしたいと言っていた。
「ルイスさんがいる間はいいが、私たちだけだと牧場は無理だね」
私ががっかりした声でセドに愚痴ると、なんとルイスさんはこの島に残って、ムームーの面倒を見たいと希望しているとのことだった。
ルイスさんは冒険者をしているが、剣の腕前はそれほどではないらしく、自分のスキルが生かせるならやってみたいと意欲的だそうだ。
ルイスさんたちアステールのメンバーが、私とセドのところへやってくる。
「ダニエル様、ムームーたちの居場所ですが、どこにしたらいいでしょうか?」
「ルイスさん、仮の場所として缶詰工場を建てるために更地にしたところかな」
今後のことを考えたらムームー専用牧場を作らないといけない。
「ルイスさん、本当にムームーを任せてもいい?」
「はい、気性が激しいと言われるムームーが、俺にすり寄ってきて甘えるんです。もうこれは俺が面倒みるしかないと思いました」
ルイスさんと話していると、ムームーの中でも大きいのが一頭、こちらにゆっくりとやってきて、ルイスさんの体に頭を傾けてこすりつけている。
これはムームーからの何かのアピールだろうか?
「ムームー、ルイスさんと一緒にいられるから安心して。ただ住む場所はこれから作るから、しばらくは不便になるのは我慢してほしい」
ルイスさんの体にこすりつけていた頭を、私の方に向けて3秒ほど見られてから「ブフォン」と鳴いて、ムームーたちがいるところへ戻って行った。
「今の、理解した、わかったって言ったような気がするのは、私だけだろうか?」
「いや、俺もそう思った」
セドの言葉にアステールのメンバーも頷いた。
ルイスさんたちは、ムームが今まで住んでいた環境に近い場所、なければ作るということで場所の検討をするように指示した。
「ダニエル様、俺、自分のスキルが役立つこと本当に嬉しいです」
ルイスさんは、今まで自分のスキルを話すことはなかったそう。
なんでスキルがリラックスなんだろうと考えることも多かったとか。
冒険者として大物に出くわしたとき、メンバーの緊張を多少和らげることもできたそうだが、基本的にはスキルについてはタブーだったらしい。
でもムームーと出会い、自慢できるようになったと、だからムームーを増やしてこの島で大産業にしますと、とても壮大な夢を語ってくれた。
アステールたちがいつまでここにいてくれるかは不明だが、メンバーが一人抜けてしまうため申し訳ないと思う。
「ダニエル様、仲間としては寂しいですが、ルイスが自分のスキルを自慢できるようになったんです。姉としては嬉しいです」
ありがとうございますと、ルイスさんの姉であるルイーザさんからお礼を言われた。
「私としては島の特産品が、また一つできたことが嬉しい」
だから、こちらがお礼を言わないといけない。
あとルイスさん一人で、ムームーの管理は難しいだろうから、手伝ってくれる人を探さないといけないな。
「なんかこの島に来た人で、今まで自分のスキルが活かせていなかった人が、活躍しているというのも面白いな」
「偶然だとは思うが、私もここに来て自信をもって自慢できるスキルになった。だから一人でも多くの人が私のようになって欲しいと思う」
セドの呟きに私が答えると、アステールのルイーザさんが話し出す。
「もしかしたら、自分のスキルに劣等感を持つ人たちが、この島を目指してくるかもしれませんよ」
「あはは、それはないよ。開拓地だし、生活できるか不安だらけのところへ、噂だけで来ないよ」
もちろん、来てくれた人は歓迎するけれどね。




