第58話 失敗したな
2週間後、ジョージさんとヘレンが、ガルシアさんたちの首輪解除の魔道具を完成させたと、島にやって来た。
私はその間、子爵領と島とを行き来していた。
ガルシアさんたちを集めて、首輪が本当に解除できるか試すことになった。
ジョージさんが持っていた首輪の留め金をはめる。
そしてジョージさんが両手で丸くなった首輪を、左右に引っ張り外れないのを確認した後、ジョージさんが製作した魔道具を首輪にあてると、パチンと外れた。
「おおー」
「すごい」
「外れたぞー」
などの歓声があがり、ガルシアさんたちがジョージさんの手を握ったり、肩を叩いて「ありがとう」の大合唱。
「首輪が外れてからだよ」とジョージさんが肩を叩かれ痛そうにしていた。
ガルシアさんたちが並び、ジョージさんが首輪に魔道具をあてていく。
パチン、パチン、パチンの音と共に首輪が外れていった。
ジョージさんは本当に天才だよ。
外れた首輪は、解除の魔道具と共に私がすべて受け取った。
これは王都に持っていくことが決まっている。
「ジョージ、お礼を何度も言っても足りない。どうやって返していったらいいのか」
ガルシアさんが嬉しいけれど、魔道具のお金がいくらになるのか気になったようだ。
「ガルシア、魔道具は王家が買い取ってくれる予定らしいから、あなたたちから貰うことはないよ」
ジョージさんの言葉に、ガルシアさんは一瞬ホッとした顔をするが、すぐに真剣な顔になる。
「それでは気が済まない。何か出来ることをさせてほしい」
「僕もここにお世話になる予定だから、複雑な構造をした部品製作をお願いすることもある。実際今回お願いした部品も大変だったと思うからね」
「そんなことでいいのか。お安い御用だ。今回の依頼品は何度か失敗したが、おそらく満足してもらえると思うものが完成している。これから見てくれないか?」
ガルシアさんたちドワーフの人たちは、私にも「本当にありがとうございます」と挨拶をした後、ジョージさんを連れて鍛冶工房に行ってしまった。
ヘレンと2人、置いていかれる形になったが、私はヘレンを出来上がったばかりの島の事務所に案内する。
食堂と繋いだ建物で、入り口は共有だ。
食堂の厨房にいるアグネスに声をかけ、お茶をお願いしてから、応接室へ行く。
1階は担当部門ごとで、集まって話し合いを出来る会議室2つと、応接室が1つ。
2階は将来この島の役場の事務所と、私の執務室があるが、今は使用することがないため何も置いていない。
応接室の調度品は、子爵館で使用していない物を持ってきて利用している。
「ジョージさんの工房、出来上がったけれど、引っ越ししてきて大丈夫かな?」
「ジョージを扱える人が見つからないのです」
ヘレンの話だと、これまで求人に応募してくれた人たちに、ジョージさんへのお茶出しや、昼食を呼びに行く試験をして全滅だったそうだ。
またヘレンの家のお手伝いさんたちが、仕事中のジョージさんと関わるのを嫌がることや、ジョージさんあての仕事依頼を断る役目がヘレンになっている。
そのためヘレンは、遠出の商談ができない状態になっているらしく、ため息交じりで肩を落としている。
ヘレンには食堂でアグネスとしばらく話していたらいいと、気分転換させて、私はジョージさんと話すことにした。
ガルシアさんたちの鍛冶工房を覗くと、まだジョージさんたちは熱心に話し合いをしていた。
「ジョージさん、ガルシアさんとの話はまだかかりそうですか?」
私はジョージさんとガルシアさんに近づき声をかけた。
「話は終わっているよ。作りにくかった部品について聞いていたんだ」
私はジョージさん専用工房に連れて行くため、ガルシアさんたちとは別れた。
ジョージさんと2人で歩いている際に尋ねる。
「ヘレンがジョージさんだけ、この島に来ることを心配していますが、王都ではどうされていたのですか?」
「王都の工房?普通に勤めていたけれど」
「遅刻とかは?」
「ないね」
ジョージさん、ヘレンと絡みたいから、わざとしていたとか言わないですよね。
追及してみるとあっさりと認めた。
逆効果ですよ、ヘレンに嫌われますよと心の中で私はつぶやく。
どうやらジョージさんは、ヘレンの周囲の人たちを味方につけていたようだ。
特にヘレンのお父さんが乗り気だそうだ。
だからヘレンの所のお手伝いさんたちは、ヘレンをジョージさんの所へ行かせるために芝居をしていたようだった。
「ヘレン、すごく疲れていて余裕ないですよ。むしろジョージさんは、手がかかるから嫌だという方向に向かっている気がします」
「やっぱり……そうではないかと思ったんだよ。だからここへ移って作戦変更しようと考えていたんだ」
あとジョージさんの助手というか、お手伝いさんは若い女性が多く、ヘレンが見ていないところでジョージさんを誘惑してきたりと、あまりいい人たちではなかったようだ。
「考えすぎかもしれませんが、誰かに依頼された人たちとか?」
私の意見にジョージさんも、1、2人ならともかく、応募の半数がそうだったらしいので疑っているのだとか。
そしてヘレンさんは求人の件も知らないらしい。
「ヘレンに見限られる前に、すべて話した方がいいですよ」
「えっ?もしかしてそこまで追い詰めてしまったの?」
私はうなずくと、ジョージさんは片手を頭に置いて、失敗したなと呟いていた。




