第42話 訪問
「ダニエル君、待たせたかな?」
マクファーソン伯爵がソファーに腰掛けると私に声を掛けてきた。
「いえ、急な訪問なのにお会いいただきありがとうございます」
「それよりも成人後は伯爵とは、おめでとう。子爵領に行って数か月で、色々な成果をあげてすごいとしか言いようがないよ」
「ありがとうございます。偶然が重なったのですが、自分でも驚いています」
そこからはキャロライン王女の件、クラトゥーワ王国の使節団が海賊に襲われていた件を話せる範囲で教えて欲しいといわれて話をした。
「ダニエル君、アイリスとの婚約は継続で構わないね」
マクファーソン伯爵は、今話したことについての感想は言わずに婚約の件を確認してきた。
「はい、当時は子爵家を継がないつもりでエインズワースの家を出ました。嫌なお話をしたにもかかわらず、アイリスとの婚約継続を認めてくださりありがとうございます」
前回の時、婚約は保留とマクファーソン伯爵に言われたのだが、振り回したのは事実だから、私からマクファーソン夫妻とアイリスに頭を下げた。
マクファーソン伯爵は頷く。
「アイリスがヤキモキしていたから安心したよ。これからもよろしく頼む」
アイリスが口を開きかけたが口を閉じる。
「今回、ダニエル君が伯爵になるから、他からもっと良い縁談話が来ると我が家とは・・・・と思っていたところもあってね」
伯爵がアイリスをチラリと横目で見ながら予想外な話をしてくるため、私は驚きを隠せなかった。
「そんなことはありません」私は慌てて否定した。
伯爵の話だと、王太子殿下の覚えが良く、そしてナビア王国とクラトゥーワ王国とも縁が出来た私に、高位貴族から縁談話が来ないとも限らないらしい。
基本は父上が私には婚約者がいると断るだろうが、私が王都のパーティーに出席する際は気をつけなさいと用心するように言われ、マクファーソン伯爵夫妻はアイリスを残して退出した。
「アイリス、私の勝手に振り回してごめん」
私の言葉にアイリスは首を横に振る。
「あの時、ダルは貴族の地位を捨てる気だったから、わたくしに誠実に話してくれただけ。すごくショックではあったけれどね」
「本当にごめん」
アイリスは私にそんなに謝らなくていいと苦笑いしていた。
そして服の中に隠していた首のネックレスを見せながら話し出す。
「でもダルは貴族辞めると言いながら、わたくしにこんな高価なネックレスを贈ってくれたから、希望は持っていたのよ」
私が贈った白色の部分が多めの薄いピンクのチエリ貝のネックレスだった。
「ネックレスしてくれていたんだ。ありがとう。でも高額になるピンク色のチエリ貝は売却したからプレゼントできなくてごめん」
アイリスが慌てるように話し出す。
「ダル、チエリ貝のネックレスなんて持っている人は少ないのよ。この色合いだって素敵だわ」
アイリスは気に入っているようなのでいいだろう。
「マクファーソン伯爵が言っていた、もっといい縁談話って、何かあったのか?」
気になっていたことをアイリスに尋ねると、ちょっと嫌顔をする。
どうやら1週間ほど前にあったお茶会で、婚約者が決まっていない令嬢たちに嫌味を言われたらしい。
私がどういった嫌味だったのかと聞いたが、これは女の戦いだから気にしないでと教えてはくれなかった。
そのあとは島の開発の話や、エインズワースの屋敷でオーガスト兄上と衝突していないのかとか、アイリスが手伝えることはないのかなど、質問ぜめにあったあとは、王都の最近の情報をアイリスが教えてくれて楽しく過ごした。
ダルが帰った後、わたくしはお父様の書斎に行くと、お母様と一緒にお茶を飲んでいた。
「ダニエル君は帰ったのか?」
お父様カップを持ったまま私に尋ねてきた。
「はい、今見送ってきたところです」
「本当は侯爵への陞爵だったのではないかとの噂はわかったのか?」
「いいえ、ただダルは伯爵になること、困っているように感じました」
「その様子だと、何も知らないようだな」
「はい、島の開発だけに専念する期間を1年と短縮されたと、あとダルが引き継ぐ王都の屋敷を采配する人を探すようです」
わたくしはダルから聞いたことを両親に話した。
「エインズワース伯爵が、ダニエル君が成人前にもかかわらず領地の引継ぎを始めるか・・・・」
お父様は、ダルが考えている手に入れた海賊船で、他国との交易など自分で領地の采配をできるようにするために、エインズワース伯爵は引継ぎを前倒しで始めるのだろうこと。
もしダルがしている島の開発や交易が成功すれば、縁を結びたい貴族が動く可能性があるから、わたくしに外出する際は護衛を増やすこと、お茶会などに呼ばれた際は食事にも十分気を付けるようにと言われた。
「手っ取り早いのはアイリスがダニエル君に嫁げなくなるような事件、未遂であっても疑われるような事が起こればいい」
わたくしの顔が強張ったのがわかったのか、お母様がわたくしの隣へやってくる。
「お父様の話は最悪の話だわ。でもね隙を見せたらありえない話ではないのよ。だからアイリスが気を付けなければいけない」
お父様からマナーのレベルを上げるためにレッスンの時間を増やすこと。
それからダルを支えるために、他国の言葉を習うのはどうかと提案されたので習うことにした。
今はダルの手伝いはできないけれど、将来できるようにしていこう。




