第36話 聞き取り調査
父上が冒険者ギルドにヘレンさんを立会人に指定していて、契約書は私が保有者だと認められた書類のようだった。
マジックバッグの中身を出していくと、宝石類と金貨や白金貨など高価なものがたくさん入っていた。
「これはすごい!!」
「海賊はため込んでいたな」
私は思わす声をあげたたが、セドは冷静に貴金属品を眺めている。
ヘレンさんから説明を受ける。
「ダニエル様、この貴金属の中で3点ほど紋章が入ったものがあります。他国ですが持ち主が買い取るとなると今の時価の1/3になり、それ以外はすぐに現金化可能です」
「よく、他国の紋章などわかったね」
「いえ、この国の貴族の紋章と合致しなかったため、他国と判断したのです。これから他国の商業ギルドに問い合わせることになります」
「ヘレンさん、悪いが貴金属は換金したい。島の開発資金が入用でね」
「ダニエル様が、職人募集をしたことは聞いておりますので、急いで参りました」
私が資金繰りに苦慮していると思って急いでくれたのか。
ヘレンさんには、本当にいつも助けてもらってばかりだ。
それから芋虫の糸を使った生地を2つ、ヘレンさんが見せてくれる。
よく見るとクリーム色なのだけど、よく見ると色合いが違っているように見える。
そのことを指摘したら、正解だったらしく、ヘレンさんが笑顔で頷いた。
糸鑑定スキルを持つダスティンさんに確認すると、2回目の糸にうっすら青みかかった糸が混じっているそうだ。
ただ同じ芋虫の糸で間違いはないらしい。
「わざわざ王都まで行ってダスティンさんに確認してもらったの?」
私の予想は違っていて、ダスティンさんは子爵領に来ていたようだ。
どうやら婚約者と一緒に子爵領に引っ越して、紳士服の店を引き継ぎ、紳士服と婦人服両方の服飾専門の店にするらしい。
そうなると、私やセドは毎年頼むだろうから、貴族御用達の店と子爵領に認識されれば、利用者も増えるだろう。
「ヘレンさん、芋虫についての研究はすぐには難しいよ」
「大丈夫です。糸についてはダスティンさんに確認した後で、生地にしようと思います」
ダスティンさんが引っ越してくるなら確認は楽になるし、鑑定料も入る。ダスティンさんにとっては、店が軌道に乗るまでは少しでも収入が増える話だ。
「ところでマジックバッグについて、父上は何か言っていたかい?」
「ダニエル様の判断にお任せするそうです」
「このマジックバッグは時間停止つき?」
「そうです」
「ならこの持ち主はセドにする手続きをお願いします」
「ダル、それは駄目だ!!」
今まで横で黙って私とヘレンさんの会話を聞いていたセドが、強い口調で自分名義にすることに反対した。
私はセドに今後島の探索や、開発が進む。
そうなると私とセドどちらかが開発場所を不在にすることもでてくるため、食料や貴重品の管理をセドでもできるようにしたいと説得する。
「それなら、子爵家名義のものを預かるというのは?」
セドがどうしても抵抗があるようだ。
「なら今までセドに給与を支払っていない。今までの給与分と今後の給与の半分をマジックバッグ代金として徴収するのはどうだろうか?」
セドはしぶしぶ頷いて、ヘレンさんにマジックバッグの買取値段の見積もりをお願いしていた。
セドには無収入でも支えてもらっていたから、お礼にしたかったが仕方ない。
ヘレンさんから、別件で芋虫の糸の買取金額の受け取り配分を聞かれる。
私はセドとナディーヤに折半して渡すように指示をする。
「ダル、それはいけない。今後のこともある」
セドがこれから来る冒険者たちが、島で何かを見つけたときのことも考えて駄目だと言った。
「ダニエル様、私もセドリック様の意見に賛成です。島の開発をされるのならなおさらです」
ヘレンさんもセドと同意見みたいだ。
「なら、どうしたらいい?」
私の問いにセドが提案してくれる。
「ダルが雇用して島を探索しているから、基本ダルの物だ。だけど冒険者たちにやる気を出させるなら、2割ぐらいは渡してもいいのではないか?」
なるほど・・・・雇用料金を払っているから、ボーナスという位置づけか。
ヘレンさんを見ると、頷いてくれた。
「わかった、セドの案を採用する。ヘレンさん、それですすめてください」
ヘレンさんが帰った後、アラン副隊長が報告にやって来た。
2つ目の海賊船にあった宝飾品は、商業ギルドで査定と元保有者がわかる品か確認で依頼済。
「2つ目の海賊船にマジックバッグはなかったの?」
「はい、ですが鍵が開かない小さい金庫がありました。1つ目の海賊船でマジックバッグが金庫に入っていたと聞いていますので、鍵を探しています」
私はセドと顔を見合わせた。
「もしかしたら、同じ隠し方かもしれない。俺が確認してくるよ」
セドが私に提案してきたので、お願いすることにした。
また誘拐された人達の聞き取り調査が終わったらしく、誘拐された人たちはすべてラクトゥーワ王国の人だそうだ。
ただ国に戻っても変な目で見られる可能性が高いため、きちんとした仕事につけるのなら、ここで暮らしたいと言っている人が多いらしい。
数人は戻ることを希望しているため、伯爵に連絡を取ってラクトゥーワ王国の使節団に話しを通せないか確認してほしいとのことだった。




