第35話 提案
「私は何をしたらいい?」
ナディーヤが私の問いに答えてくれる。
「ダニエル様、船内が戦闘になった場合、船の揺れを最小限にしていただけないでしょうか」
以前私が船底を持って安定させたのが、海賊を早く捕まえることができたらしいため、今回もお願いしたいと言われた。
「任せておいて。あとハンスのことは頼むよ」
「はい。彼に護衛はつけますし、近づけさせません」
ナディーヤは自信ありげにほほ笑んだ。
無人島のアジトに近づいたため、私以外はみんな剣を持ち臨戦態勢になる。
島側にいる海賊も、海賊船に乗っているのが仲間ではないと認識したらしく、武器を手に持った状態でいると騎士から声がかかる。
「ダル、海賊たちは船に乗り込んできそうだ。悪いが船が揺れないようにしてくれ」
セドの指示で、甲板から私は海に飛び込んだ。
船が進む横を一緒に泳ぐ。
船が島の桟橋に接続されると、船の揺れが激しくなったので、海賊が船に乗り込んきたようだ。
私は打ち合わせ通り、船底を持って揺れをなくす。
結構長い間船の揺れを感じたがだんだんと感じなくなったので、一度船底から手を放し、様子を確認するため浮上しようとしたら、海を泳ぐ人を見つける。
セドたちから逃れた海賊のようだ。
私は背後から近づき、海賊の片足を握ると一気に海の中に引き込み、すぐさまお腹に1発パンチを食らわせる。
海賊は気絶したようなので、急いで海面に顔を出す。
甲板から海を覗いていたセドと目が合う。
「一人海に逃げた奴がいるが、それ以外は捕まえた」
セドが大きな声で私に向かって叫ぶ。
「セド、逃げた海賊は私が捕まえて、今気を失っている。意識が戻る前に縛りあげたい」
船内にいる騎士に声を掛けるとセドが走って行った。
私は海に中で待っていると、アラン副隊長とセドと騎士1人が戻って来て、先端が輪っかになったロープを投げてくれた。
意識を失っている海賊に輪っか部分をかけてロープを縛り合図を送ると、甲板にいる3人が引き上げる。
そのあと縄の梯子が降りてきて、私はそれを使って船に戻った。
「ダニエル様のお陰で、海賊をスムーズに捕まえることができました。そして逃げた海賊まで捕まえてくださりお見事です」
アラン副隊長が私をねぎらってくれた。
「ありがとう。ところで島に逃げ込んだ海賊はいないの?」
アラン副隊長から、リカード隊長たちが周囲を確認しにいっていると教えてくれた。
そして捕まえた海賊は27人だそうだ。
昨日捕まえた海賊と合わせれば、ほぼ捕まえたのではないかということだ。
島の開発を安心してするためにも、海賊たちに本拠地を吐かせてできるだけ早く潰してしまわないといけない。
リカード隊長たちが戻ってきた、周囲に逃げた形跡が見つからなかったそうだ。
ここに泊まらずに子爵領に戻る方が安全とのことで引き上げることになる。
私は子爵領に戻っている航海中に、エスペランサとアウローザのメンバーがいるところへ行って声をかける。
「作戦通り上手くいったのは、みんなが協力してくれたおかげだ。ありがとう」
「俺たちは依頼を遂行したまでです」
シオンの言葉にエスペランサのメンバーだけでなく、アウローザ全員も頷いた。
「海賊たちを尋問してからにはなるが、できれば海賊の本拠地を潰したい。引き続き討伐の依頼を受けてくれないだろうか?」
「しかし、本拠地を探すには時間がかかるのではないでしょうか?」
シオンさんが私の提案に懸念点をあげた。
「もし、時間がかかるようなら、私からの別の依頼を受けて待つというのはどうだろう?」
私はシオンさんからの問いに、無人島を開発中で職人たちの護衛と島の探索を提案した。
今度はディアナから質問される。
「それって、ナディーヤが受けている依頼ですよね。その依頼に私たちも参加していいということですか?」
「そうだよ」
「私たち、アウローザは依頼を受けたいと思います」
ディアナさんが即決する。
ディアナさんに勝手に決めるのはよくないと私は言おうとしたが、アウローザの他のメンバーから反対意見が出ないし、嬉しそうにしていたから、私のほうが逆に戸惑ってしまった。
私の戸惑いに気づいたディアナさんが、ナディーヤから島の探検が楽しい、しかも見つけた巨大な芋虫が吐いた糸が、とても高級な生地になったとか、アグネスの料理がおいしいとか聞いたらしい。
やっぱり、君たちはナディーヤ崇拝者だね。
エスペランサとしても父上の依頼の中に海賊討伐もあるし、詳細を詳しく聞いたうえで前向きに検討してくれるそうだ。
子爵領に戻ると海賊たちのことは、リカード隊長たちや子爵領の騎士に任せる。
エスペランサとアウローザは宿で2日休養後、屋敷で今後の詳細を話すために来てもらう約束をして別れた。
私とセドとナディーヤは屋敷に戻らずに、ブレナン、アグネスたちに会いに行く。
海賊を捕まえたこと、なだ別に本拠地があるため油断はできないため、護衛を増やす予定だと正直に話したが、みんな島に戻ることに了承してくれる。
ブレナンとジェイ、リアムは島ですぐに家を組み立てできるような状態にしてくれていて、現在2棟分できているらしい。
まだ家は必要なので追加をお願いする。
アグネスには島に滞在する人たちが増えるため、助手を探してほしいこと、冷蔵庫など必要な物をリストアップして、ヘレンさんと相談して見積もりを出してほしいことを伝えて屋敷に戻った。
翌日ヘレンさんが屋敷にやって来た。
持ってきたのは、父上が冒険者ギルドに申請していたマジックバッグだった。




