第22話 冒険者になった理由
ナディーヤさんは、アウグスト子爵の長女で、セドや私より2歳上。
セドと同じ代々騎士の家系の家柄だそうだ。
ただ家族にナディーヤさんのスキルでは、王城の騎士団に入っても迷惑だから、入団試験を受けるなと言われ、家出したらしい。
「私のスキルは防御膜なんだ」
「防御なら女性皇族の護衛にはピッタリではないのですか?」
私が尋ねると、どうやら防御壁とかではなく、ナディーヤさん本人の体全体に防御膜がかかるだけだそうだ。
「なおさら、護衛にいいスキルなのではないですか?」
だってもし王族の代わりに刺されたとしても、無傷か傷が浅い可能性が高い。
傷は負って欲しくないけれど、他の騎士より生存率が高くなるわけだから、近衛騎士団で活躍できそうなスキルだと思う。
ナディーヤさんは私の意見に首を振る。
「家族には自分だけを護るようなスキルを、王城や女性王族の護衛の時に使ってほしくないとはっきり言われたよ」
「ナディーヤ先輩、ルーファス先輩たちが、女性王族に信頼されそうなナディーヤ先輩のことを妬んでではないですか?」
セドいわく、ルーファス先輩たちというのは、ナディーヤさんの上の兄2人だそうだ。
セドと一緒で、自分たちよりも活躍しそうな妹が邪魔だったということか?
セドがナディーヤさんを知っているのは、同じような騎士家系の子供たちを集めて、定期的に練習試合や合宿などしていたためらしい。
「王城の入団試験、たぶん受かったとは思う。スキルを使わずに剣だけでもね。だけど兄たちを叱らない、擁護する両親に愛想がつきて家を出たんだ」
今は単独で冒険者をしているらしく、Cランクだそうだ。
冒険者ランクは一番下がGから始まり、最高ランクはS。
スキル判定後に冒険者を始めたのなら、2年程度でCランクになるなんて、相当な腕前だと言える。
ナディーヤさんからは雇い主なんだから、先輩もさんもいらないとまで言われてしまった。
セドは抵抗あるみたいで、嫌だと言っていたが、ナディーヤに丸め込まれてしぶしぶ頷いていた。
アグネスさんも、呼び捨ては・・・と抵抗していたが、今更ですよとこちらも丸め込まれてしぶしぶ頷いていた。
笑っていた私に対してアグネスさんも、今後は名前にさんをつけなくていい言ってきた。
アグネスたちを新居に案内するのはブレナンに任せて、そのまま砂浜に残りセドと話す。
「セド、騎士の家系で剣が上手いとなると、スキルが悪くても女性王族の護衛として活躍できるよね。普通兄弟が妬むかな?」
セドは最初、ナディーヤの兄2人が妬んだのかと思ったけれど、よく考えたら兄2人はナディーヤを可愛がっていて、変な虫が寄ってこないように、練習試合とかで周囲を威嚇していたらしい。
だから話している途中で違うなと思い直したそうだ。
「ナディーヤ先輩って美人だろ。だからいい縁談話があったのではないか?」
セドの話だと騎士の家系の子供たちの定期的な練習に、10代の騎士たちが稽古をつけてくれる時もあるらしい。
ようはお見合い、出会いの場にもなっているそうだ。
あぁ、なるほど。
年2回ある騎士団の入団試験は、13歳から18歳まで受験ができ、合格すれば入団できる。
ただどんなに優秀な人でも、すぐに近衛騎士になることはない。
入団から3年ほどは王都警備をしながら騎士として鍛え、王城警備、近衛騎士と優秀な人は出世していくからだ。
王族警備に配置されるとなると最短でも18歳以降だから、騎士団に入って活躍したい女性は婚期が遅れる。
だからいい良縁があれば受けて欲しいという親心、兄心とかもしれない。
そのことに気づいたナディーヤが、縁談が纏まる前に家を出たと、それなら納得だな。
「キャー」
屋敷の方から女性の叫び声がしたので、外にいたみんなが走って駆けつけると、食堂がある大きな部屋で、アグネスとナディーヤが、メルとナナとご対面をしていた。
ナディーヤはアグネスの前に出て警戒しているが、攻撃はしていない。
「リアム、アグネスたちの間に入って、通訳してやれよ」
セドに言われたリアムは頷き、メルたちに近づいて行った。
ブレナン、メルとナナのことをアグネスたちに話していなかったのかな?
「さっきは迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
アグネスが私たちに頭を下げている。
「アグネス、ブレナンから話を聞いていなかったの?」
「聞いていたのですが、まさか家で出会うとは思っていなくて・・・大騒ぎになってごめんなさい」
この2階建ての建物は、キッチンと食堂の間に壁があるけれど、壁の一部をくり抜いていて、料理を食堂で受け取れるようになっている。
そしてメルとナナの部屋と食堂を、ドアで行き来できるようにしている。
食事はメルとナナも一緒に食べるからだ。
そして1階には洗面所、風呂場、トイレがあり、ブレナン、ジェイ、リアムの部屋といっても4帖半の部屋。
2階は6帖部屋が5室あり、私とセド、アグネスとナディーヤが使う。
1、2階どの部屋も施錠できるようにしてある。
そして食堂がみんなでくつろぐ場所になる。
メルとナナの部屋の掃除は、リアムが受け持つ。
以前メルとナナの毛並みが綺麗なので何かしているのかと尋ねると、以前いた場所の近くに小川があり、水浴びしていると教えてくれた。
そして今も2日おきに水浴びに行っている。前の飼い主さんが清潔にするようにメルとナナに言い聞かせていたらしい。
だからいずれ、その小川から水を引きたいと話しているところだった。




