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第18話 難破船

ハンスが島に来たのでヘレンさんに至急来てほしいと伝言を頼むと、翌日ヘレンさんがやってきた。


「ダニエル様、お呼びと伺いましたが、グロースシューレが見つかったのですか?」


「3匹獲れたけれど、別件。見てもらったほうが早い」


私は海に入り難破船を海面まで持ち上げ、すぐに海の中に戻して砂浜に戻る。


「な、難破船ではないですかぁー!!」


砂浜で絶叫していたヘレンさんは、戻ってきた私に詰め寄った。



「ダニエル様、船内には入ったのですか?」


興奮したヘレンさんが早口でまくし立てる。


「いや、白骨化した遺体もあると思うと・・・・」


「失礼しました。確かにそうですね」


それからヘレンさんはマジックバッグから玉のようなものを取り出す。



「ダニエル様、この玉は写し玉といって映像を残せるものです」


写し玉は、1度だけ転写でき映像は何度も繰り返し見ることができる代物だそうだ。


だからたくさんの人に映像を見てもらえば、持ち主がわかるかもしれないと教えてくれる。



「写し玉って聞いたことがないから貴重なものではないの?」


「そうですね。最近ある錬金術師が開発して出回り始めたものです。あと船内に貴重品が残っていればそれなりの謝礼も出ますよ」


私はヘレンさんの提案に賛成して、写し玉に映像を残すために海に潜って、難破船を海面に持ち上げる。


最初は船底を持ち上げていたけれど、海の中にいれば全然重くないから、試しに船首部分を持つだけで難破船を海面へ押し上げてみたらできた。


だからハンスの舟が難破船の周りを回っている状況を、海の中でも確認できるから楽になった。



ハンスの船が砂浜に戻っていったので私も難破船を下ろして砂浜に戻ると、先に戻っていたヘレンさんが難しい顔をして待っていた。


「先端に紋章らしきものがありました。確認すれば持ち主がわかるかもしれません」


「任せてもいい?」


「もちろんです。船内に高価なものがあるか、確認しなくてもよろしいのでしょうか?」


「別に謝礼とかを期待していないし、私だとどうしたらいいかわからないから任すよ」


「わかりました。最善を尽くします」



ヘレンさん持参のマジックバッグに映し玉をしまうと結果がわかれば報告しますと言って、ハンスをせき立ててそのまま帰って行った。


あっ、グロースシューレを渡すのを忘れていた。


まだ時間あるから次回でいいか。





「エインズワース伯爵様、お時間をいただきありがとうございます」


早急に極秘で話したいことがあると子爵領のギルド長から連絡が来たので、何とか時間をやりくりして会っている。


「いやいい、ダニエルが世話になっているからな。早速だがグロースシューレの件ではなく、急ぎで伝えたい用件とは何だ」



ギルド長の話は、ダニエルが難破船を発見して、引き上げに成功したという話だった。


「難破船だと?」


「はい、船内の確認はしておりませんが、幸い紋章ははっきりと残っておりました。その紋章がナビア王国の紋章でございます」


「なんだと!」


「幸い私が写し玉を保持しておりましたので、見ていただければと思い参りました」


「もしかして……」


「断定はできませんが、伯爵様と私の考えの通りだとすると今回の国際会議で……」



伯爵がそれ以上言うなと片手を前に出して話を中断させた。


「わかった。まずは写し玉の映像を見せてくれ。それから対応を考える」


映像を見終わったあと、アーカンソーから商業ギルド長は辞任して商人に戻ったと話があった。


アーカンソーはダニエルが今後も何かするのではないか、できれば傍で手助けしたいという。


商人としての感ですがと笑って言っていたが、ダニエルにはもう味方が出来ているようだ。



あれは不思議と人に好かれる、オーガストが嫉妬している原因の一つだろう。


オーガストにもっと伯爵家の仕事を任せてみるか、自信がつけば落ち着くかもしれない。



「あともうひとつご相談があります」


「まだあるのか?」


アーカンソーの話は掌に痣のある獣、ダニエルは神獣と呼んでいたそうだが、【スキル:獣語】を持つ者と会話ができ、無人島の開拓を手伝ってくれているらしい。


ダニエルから神獣のことは隠したいと言われているが、伯爵家で読んだ本に書かれていたという。


「その本を見つけて内容を知りたいということか」


「はい、是非お力を貸していただきたく存じます」


「わかった。調べてみよう」





私は宰相様にアポを取り、アーカンソーを連れて宰相室にいた。


「宰相様、急な訪問お許しください」


「国際会議の料理でいい食材を見つけてくれたエインズワース伯爵だ。さて今日はどういった要件だ」


私は息子のダニエルが難破船を発見したこと、船内の確認をしていないが、船にナビア王国の紋章がついていることを話した。



「その話は本当なのか?」


いつもは冷静な宰相様がこちらに身を乗り出した。


「こちらにいる商人が、難破船を映した写し玉を持ってきております」


「わかった、映像を確認させてもらおう」



「これはまさしくナビア王国の紋章だ。もし我々が思っている船だとしたら、あと1隻が近くにあるはずだ。探し出して引き上げてほしい」


「もう1隻ですか?」


「そうだ、ダニエル君に何としても見つけ出して貰いたい。しかしダニエル君ははずれスキルだといわれていたが、まったく違ったな。今回の件が成功すれば彼は陞爵されるぞ」


「お待ちください。息子は子爵家を継ぐ予定です」



ただ宰相様は、陞爵はしなかったとしても、はずれスキルといわれるものは我々の教えの通りだと教会が動くだろうから、いずれにしてもダニエル君は注目されるだろうおっしゃる。


難破船についても当時のことをもう一度調べ直しておくと約束してくれた。



写し玉は宰相様にお預けすることになった。


宰相様は国王陛下やナビア王国の外交官に映像を見せるとおっしゃられている。


難破船は両国の関係性の悪化した原因だから改善につながればいい。



しかしダニエルの評価が高まるのは嬉しいが、注目され過ぎるとオーガストが騒ぎ出しそうで頭が痛い。


だが両国の関係性改善のほうが大事だから、やはりオーガストに伯爵家の仕事を与え忙しくさせれば、後継ぎとしての自覚が出てくることにかけてみるしかないか。


オーガストもダニエルが絡まなければまともだから、もっと視野が広くなれば大人になるだろうか。



話は纏まり、宰相室を退出する。


王城の廊下を少し後ろで歩いているアーカンソーに話しかける。


「すまなかったな。緊張したであろう」


「とんでもございません。私のような地方の商人が、お目にかかれるような方ではございません。ご配慮感謝いたします」


ただの顔つなぎだが、どこかで役立つときもあるからな。


アーカンソーはわかっているようだ。



「アーカンソー、詳細はダニエルに話さず、難破船をもう一つ探し出すよう話を持っていってほしい」


「それはかまいませんが、本当にダニエル様にお話ししなくてよろしいのですか?」


「ああ、ダニエルに余計なプレッシャーを与えたくない」


「承知いたしました」



「あと写し玉については、私の方で早急に手に入れてそなたに渡そう。もう一隻見つけたら映して持ってきてほしいが、無理はするな」


確かに国際会議までに2隻見つければ一番いいことだが、1隻はあるのだから見つからなくても大丈夫だろう。


ダニエルが無人島を開拓したいと言った時は失敗すると思っていたが、短期間でここまで活躍するとはな。

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