第1話 スキル判定
スキル判定の水晶玉に手を置き私は判定を待つ。
「あなたのスキルは素潜りです」
「はい?!」
「ですから素潜りです」
司祭から伝えられた言葉に絶句する。
司祭も私に何か言われる前に、ドアを開け退出するように無言で促してくる。
今日は12歳になったので教会でスキル判定を受けに来たのだ。
まったく思いもよらなかったスキルで混乱中の私だが、待ってくれている侍従長の元へ向かう。
「ダニエル様、お疲れ様でございます。お屋敷で旦那様もお待ちですから、戻りましょう」
侍従長に促され馬車に乗り込むが、混乱は収まらない。
私が何も言わないから、侍従長もあまりよくないスキルだと察したようで、黙ってくれている。
私の名前はダニエル・エインズワース、伯爵家の次男だ。
ヘーゼルナッツの色の髪で長め、瞳はブルー、背丈も同年代の平均で特技が別にあるわけではない。
強いて言えば、将来のことを考えて勉強をしているから、物知りぐらいか?
この世界は、この世界を創ったとされる女神ヴェネルディーネ様より、12歳になると他人より優れたスキルが1人につき1つ与えられる。
有名どころでは、錬金、言語、計算、調合、剣術、鍛冶、射手などがある。
そして知られていないスキルははずれといわれ、女神様が試練を乗り越えられる人物に与えるといわれている。
どういうことかというと女神様は、人を試すために時々スキルがなくても大丈夫な人間に試練を課して、その課題を達成できた者には、さらに女神様から祝福されるというというのが教会での教え。
だからはずれスキルで、蔑まれることはないとはいわれているが建前上だ。
貴族というのは、揚げ足を取るのが好きだからな。
あと女神様から与えられた試練を達成できたという人は、正直聞いたことがない。
はずれまたは聞いたことがないスキルを、使いこなそうという人がいないからだ。
私のスキルは素潜りだ。
要は海に潜ることが容易になるということだろう。
なら漁師になれといっているのだろうか?
平民なら生活で苦労しないスキルとして喜ばれるだろうが、成人後は父上が管理している亡き祖母の実家の子爵領を貰って、子爵として独立する予定だった。
子爵領は亡くなったお祖母様の実家で、後継者が病気で亡くなった。
だから父上の妹、私にとっては叔母上が婿を貰って継ぐ予定だった。
だけど叔母上は侯爵家の嫡男に見初められて嫁に行ってしまったため、私にまわってきたのだ。
でも素潜りというスキルでは、父上が予定を変更する可能性もある。
このスキルだと貴族間で笑いものになる可能性は高い。
伯爵家が一番大事な人だから、自分の子供であっても私を切り捨てるかもしれない。
それなりに頑張ってきたつもりだけれど、このスキルだとなぁー。
兄上は大喜びするだろうな、いつも私を目の敵にしている人だから。
「父上、ダニエルです」
「入れ」
「失礼します」
執務机に座っている父上から、手でソファーへと指示されたので、座って父上の仕事が一区切りつくのを待つ。
「待たせたな、スキル判定の結果を聞こう」
父上は執務机に座ったまま話し出した。
「私のスキルは素潜りでした」
「なに?!」
「ですから素潜りです」
「・・・・・」
父上はふっーと息を吐き、椅子にもたれかかる。
「お前はこれからどうしたい。スキルを活かすのか、それともスキルは無視して、予定通り子爵家を継ぐのか」
「・・・・すこし考える時間をください」
「わかった。結論が出たら来なさい」
「はい、お時間をお取りしてすみませんでした」
私はソファーから立ち上がり、父の執務室をでた。
とりあえず父上はスキルを聞いても、私に子爵家を継いでもいいといったが、スキルを活かすのかとも聞いてきた。
やはり私から継がないと言い出すことを期待しているのか?
「ダニエル、はずれスキルだったそうじゃないか」
廊下で大きな声で話かけてきたのは、3歳年上のオーガスト兄上だった。
侍従長を問い詰めて、ここで待っていたのだろう。
「だとしたらなんなのですか。別に兄上に迷惑をかけるわけではありません」
「何をいう。はずれスキルだと知れたら伯爵家を笑いものにする輩もいるではないか。私も対処せねばならぬからな。だから確認に来たのだ」
もっともらしいことをいっているが、あなたが社交界に広めるのでしょう。
あなたがこの伯爵家を貶めていることをいい加減、理解してほしいよ。
兄上はエインズワース伯爵家の嫡男だが、私が気に入らないらしく、いつも私の荒探しをして、私を見下すことが大好きな人だ。
同じ両親から生まれているのだが、正直ここまでされると好きになれない。
しつこく絡まれるくらいなら、ここで話していた方がいい。
「スキルは素潜りですよ」
「素潜りとは、海で魚を捕るときにする素潜りか?」
「そのようですよ」
「あはははー、伯爵家の次男が素潜りだってー。聞いたことがない。よっぽどお前は女神様に嫌われたのだな。いつも私を見下しているからだ」
「私がいつ兄上を見下したのです。私が伯爵家を奪うとでも思っていたのですか?」
「ふん、父上に気に入られているからと生意気な。本当に可愛げがない。父上もそのスキルでは子爵家を継がさないのではないか?今のうちに身の振り方を考えておくんだな」
あはははーと大笑いしながら去っていった。
私が父上に気に入られている?
なにをいっているのだ、あの人。
父上は伯爵家が大事であって、私も兄上も家の存続の駒でしかない。
兄上が今のままなら、父上からはいい顔されないだろうな。
まぁいい、こっちもさっさと独立してやるよ。




