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エンディング

(最終ラウンドで流れたオーケストラの壮大なテーマ曲が、より静かに、より感動的なアレンジとなって、スタジオ全体を優しく包み込んでいる。純白の光は、まるで日の光のように穏やかに、4人の論客と司会のあすかを照らしている。彼らの顔には、激しい戦いを終えた者だけが持つ、ある種の清々しさと、互いへの敬意が浮かんでいた)


あすか:「……尊厳、責任、奉仕、そして、謙虚さ。皆様、ありがとうございました。これほどまでに、真摯で、痛みに満ち、そして、未来への愛に溢れた言葉を、わたくしは、かつて聞いたことがありません」


(あすかは、手にしたタブレット「クロノス」をそっと操作する。すると、スタジオの空間に、これまでの議論のハイライトシーンが、光の粒子となって次々と映し出されていく)


あすか:「ラウンド1、私たちは『愛玩』の裏に潜む、支配の顔を知りました。綱吉様の純粋な『仁』の心と、チンギス・カン様の『野生』への敬意が、激しく火花を散らした。ラウンド2、『家畜』との境界線を巡る議論では、ダーウィン様の科学が、我々の信じる常識という名の壁を打ち壊し、フランチェスコ様の愛が、全ての命は等しく尊いのだと、その根源を問い直しました。そして、ラウンド3、『害獣』との生存競争という極限状況は、自然という巨大なシステムの前で、我々がいかに無力で、傲慢な存在であるかを、容赦なく映し出してくれました」


(ホログラムの映像が、最後に提示された四つの契約――『尊厳』『責任』『奉仕』『謙虚さ』という言葉に収束し、静かに回転している)


あすか:「私たちは、たった一つの、絶対的な答えを見つけようとしていたのかもしれません。しかし、辿り着いたのは、答えではなく、むしろ、四つの、異なる方角を指し示すコンパスでした。ですが、きっと、それでいいのでしょう。道に迷った時、私たちは、この四つの光の柱を頼りに、自らが進むべき道を探し、選び取っていくことができるのですから。これこそ、この奇跡の対話が生み出した、かけがえのない宝物です」


(あすかは、一人ひとりの目を見て、深く、深く頭を下げる)


あすか:「最後に、皆様にお伺いいたします。この、あり得べからざる時空を超えた対談を終えて…今、何を感じていらっしゃいますか。フランチェスコ様から、お聞かせ願えますでしょうか」


フランチェスコ:(その顔には、満ち足りた、この上なく穏やかな笑みが浮かんでいる)「ええ…。わたくしには、見えました。聞こえました。初めは、怒りや、誇りや、知識という、硬い鎧をまとっていた兄弟たちの魂が、言葉を交わすうちに、少しずつ、その内側にある、柔らかな、温かな光を見せてくれるのを。言葉は違えど、その根底には、皆、等しく神の光が宿っておりました。ああ、我々は、やはり、皆、繋がっているのです。この奇跡の出会いを許してくださった、父なる神に、そして、愛すべき兄弟たちに、心からの感謝を」


あすか:「ありがとうございます、聖なる奉仕者よ。…では、ダーウィン様」


ダーウィン:(どこか名残惜しそうに、しかし、満足げに頷く)「いやはや、これほど知的興奮に満ちた時間は、ありませんでしたな。ガラパゴス諸島で、フィンチのくちばしの多様性を見つけた時以来の衝撃でした。価値観、倫理観、信仰心…それら全てが、環境に適応するための、実に多様で、実に巧みな『生存戦略』であるという、私の仮説を裏付ける、あまりにも貴重なサンプルを、生で観察することができたのですから。私の探求の旅は、どうやら、この先、数百年は退屈しそうにありません。皆様、素晴らしいデータを、ありがとうございました」


あすか:「偉大なる探求者よ、その知性の光に、感謝を。…チンギス・カン様、あなた様はいかがでしたか」


チンギス・カン:(ふん、と鼻を鳴らすが、その口元には、かすかな笑みが浮かんでいる)「随分と、青臭く、まどろっこしい議論であったわ。俺ならば、三日で結論を出し、逆らう者は、皆、処刑しておる。…だが」


(チンギス・カンは、初めて、他の三人を「好敵手」として認めるような目で、ゆっくりと見渡した)


チンギス・カン:「これほど骨のある者たちと、剣ではなく、言葉で覇を競うのも、悪くはなかった。綱吉、お前の理想は甘すぎるが、その一途さは、時に兵を動かす力となろう。フランチェスコ、お前の祈りは、俺には届かぬが、女子供の心を慰めるには役に立つやもしれん。そしてダーウィン…お前の知恵は、戦の駆け引きにも応用が利きそうだ。どうだ、次に会う時は、我がモンゴル帝国に軍師として仕えんか?世界の半分をくれてやるぞ」


あすか:「草原の覇王よ、その揺るぎなき力強さに、敬意を。…それでは、最後に、綱吉様。お願いいたします」


綱吉:(その目には、大粒の涙が浮かんでいた。しかし、その表情は、決して悲しいものではなく、何かを悟った者のように、晴れやかだった)「余は…この座において、己の小ささを知った。そして、己が目指すべき『仁』の道の、本当の広さと、その険しさを知った。余の憐れみは、あまりに独りよがりであったのかもしれぬ。じゃが…じゃが、それでも!憐れむ心、慈しむ心、そのものだけは、断じて、間違いではなかったと、今、確信しておる!」


(綱吉は、涙を拭うこともせず、カメラの向こう、未来を生きる人々に向かって、魂の底から叫んだ)


綱吉:「この時代の者たちよ!この我らの学びを、決して、決して、無駄にしてはならぬぞ!忘れずにいてくれ!いのちを…!犬も、猫も、鳥も、虫も、全ての…全ての生命いのちを、どうか、慈しむのですぞ…!」


(彼の悲痛なまでの願いが、スタジオに響き渡る。あすかは、その言葉を、しかと受け止めるように、深く頷いた)


あすか:「その尊いお言葉、未来永劫、忘れません。皆様、本当に、ありがとうございました。名残惜しくはありますが…物語の魂が、あるべき場所へと還る時が来たようです」


(SE:キィィィン…スターゲートが、再び、穏やかで神聖な光を放ち始める)


あすか:「聖なるアニマルコミュニケーター、アッシジのフランチェスコ様。あなた様の愛が、我々の荒んだ心に、光を灯してくれました」


フランチェスコ:(静かに立ち上がり、全員に深く一礼する)「兄弟たちに、神の平和を」(彼は、光の中へと歩み寄り、穏やかな微笑みを残して、その姿を消した)


あすか:「偉大なる進化論の探求者、チャールズ・ダーウィン様。あなた様の知性が、我々の蒙を啓いてくれました」


ダーウィン:(ノートを小脇に抱え、紳士的に一礼する)「実に有意義な観察でした。では、また、いずれかの時空で」(彼は、何か新しい発見を思いついたかのように、少し早足で光の中へと消えていった)


あすか:「草原の覇王、チンギス・カン様。あなた様の絶対的な力が、我々に『責任』の重さを教えてくれました」


チンギス・カン:(豪快に立ち上がり、最後に一度、スタジオを見渡す)「フン、さらばだ、弱き者どもよ。せいぜい、生き延びるがいい」(彼は、背を向けると、一度も振り返ることなく、覇王の威厳を保ったまま、光の中へと消えた)


あすか:「そして、慈悲深き犬公方様、徳川綱吉様。あなた様の涙が、私たちに『尊厳』の本当の意味を教えてくれました」


綱吉:(涙を拭い、威厳のある、しかし、温かい眼差しであすかに頷きかける)「…達者でな」(彼は、日本の未来を案じるかのように、最後に一度、深く頭を下げ、光の中へと静かに消えていった)


(四人の英雄が去り、スタジオには、あすか一人だけが残された。スターゲートの光が静かに消え、元の、荘厳な静寂が戻ってくる。BGMも、静かにフェードアウトしていく)


あすか:(一人になったスタジオで、ゆっくりと、視聴者に向き直る。その表情は、穏やかで、澄み切っている)「……物語の声は、聞こえましたか?」


(あすかは、番組の冒頭と同じ問いを、しかし、全く違う響きで、語りかける)


あすか:「彼らはもう、ここにはいません。しかし、その魂の叫びは、その葛藤の熱は、確かにこの場に、そして、あなたの心の中に、深く、刻まれたはずです」「『尊厳』『責任』『奉仕』『謙虚さ』。この四つの、あまりにも重いコンパスを手に、明日から、あなたは、目の前の小さな命と、どう向き合いますか?その答えを出すのは、歴史に名を残した英雄ではありません。他の、誰でもない。あなた、自身です」


(あすかは、その言葉を言い終えると、これまでで最も深く、そして、美しいお辞儀をした)


あすか:「それではまた、次の『歴史バトルロワイヤル』で、新たな物語の声を聞く、その時まで。ごきげんよう」


(あすかがゆっくりと顔を上げると、その姿は、光の粒子となって、静かに霧散していく。誰もいなくなったスタジオに、番組ロゴだけが静かに浮かび上がり、やがて、それもゆっくりと消えていく。完全な暗闇と無音。長い、長い余韻を残して、番組は終わる)


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