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オープニング

(BGM:静かで荘厳な、古の聖堂に響くようなアンビエントミュージック。かすかに風の音、水の滴る音が混じる。暗闇の中、スポットライトが静かにスタジオの中央を照らし出す。そこに立つのは、司会のあすか。彼女は生命の樹と無数の動物のシルエットが繊細な刺繍で施された、アースカラーのドレスを身にまとっている。手には、黒曜石のように滑らかで、触れると微かに光の粒子が漏れる不思議なタブレット「クロノス」を抱えている)


あすか:「……。」


(あすかは何も語らず、ただ目を閉じている。まるで、この場所に満ちる無数の声なき声に、耳を澄ませているかのように。数秒の沈黙。それが、かえって視聴者の集中力を極限まで高めていく)


あすか:(やがてゆっくりと目を開き、カメラを、その向こうの視聴者を真っ直ぐに見つめる)「ときの海は、凪ぐことを知りません。過去から未来へ、未来から過去へ。絶えず流れ、泡のように無数の物語を産み出しては、消していく。その声なき物語の断片に、そっと耳を澄ます時…私たちは、忘れられた真実の扉を開くことができるのかもしれません」


(あすかは優雅に一礼する)


あすか:「ようこそ、『歴史バトルロワイヤル』へ。わたくしは、自称『物語の声を聞く案内人』、あすか、と申します」


(あすかが「クロノス」の表面をそっとなぞると、彼女の周囲に、ホログラムのように様々な動物の影が浮かび上がり、ゆっくりと回転しては消えていく。クジラが宙を泳ぎ、ライオンが咆哮し、蝶が舞う)


あすか:「今回のテーマは、おそらく人類がその二本の足で大地に立った時から始まった、最も古く、そして最も新しい問いかけ…『動物との共生』です」


(あすかの表情が、少しだけ翳りを帯びる)


あすか:「ある時は友として、ある時は家族として、私たちは彼らを愛し、癒やされてきました。しかしその一方で、ある時は食料として、ある時は労働力として、その命を利用し、支配してきたこともまた、紛れもない事実。その関係は、本当に『共生』と呼べるのでしょうか?このシンプルで、あまりにも根源的な問いに、時空を超えて集いし、最強の論客たちと向き合っていきたいと思います」


(あすかが顔を上げ、決意を秘めた目でスタジオの奥を見つめる)


あすか:「これからお呼びするのは、この問いに、その人生の全てをもって答えを示した、あまりにも強烈な魂の持ち主たち。彼らの言葉は、常識を揺さぶり、心をかき乱し、あるいは、一条の光を投げかけるかもしれません。皆様、心の準備はよろしいですか?」


(スタジオの照明がゆっくりと落ち、背後に設置された巨大な円形のゲート――スターゲートが、地鳴りのような重低音と共に起動する。ゲートの内側で、エネルギーが渦を巻き始める)


あすか:「まずはこのお方!元禄の世に、極端すぎるほどの理想を掲げ、天下に生命の尊さを問いかけた、孤高の将軍!生類憐みの令にて、後世に〝犬公方〟の異名を刻んだ…徳川綱吉!」


(スターゲートが、金色の菊の紋様を描きながら眩い光を放つ。雅楽のような荘厳なSEが響き渡る中から、絢爛豪華な着物をまとった綱吉が姿を現す。彼は、目の前に広がる異様な光景に一瞬眉をひそめるが、すぐに将軍としての威厳を取り戻し、背筋を伸ばしてゆっくりと歩み出す。石のテーブルに用意された自らの席に着くと、怪訝な顔でスタジオの隅々を見回している)


あすか:(その様子を見ながら、穏やかに続ける)「続いては、このお方!草原の民を率い、怒涛の如くユーラシアを駆け、史上最大の帝国を築き上げた、究極のリアリスト!彼にとって馬とは、家族であり、武器であり、そして未来そのものでした。草原の覇王…チンギス・カン!」


(SE:大地を揺るがすような騎馬軍団の蹄の音と、地響き!スターゲートが燃え盛る炎と砂塵のように激しく渦巻き、そこから屈強な体躯のチンギス・カンが姿を現す。その眼光は鋭く、圧倒的な覇気を放っている。手には白樺の皮で作られた杯が握られ、中には白濁した馬乳酒がなみなみと注がれている。彼は、先に座る綱吉を鼻で笑うように一瞥すると、何一つ動じることなく、豪快に音を立てて自らの席に腰を下ろした)


綱吉:(チンギス・カンの野蛮ともいえる振る舞いに、あからさまに眉をしかめ、扇子で口元を隠す)


あすか:「そして、三番目のお方。神の領域とされた生命の謎に、知性という名のメスを入れた、最も物静かな革命家。ビーグル号で世界を巡り、その観察眼で『進化論』を打ち立て、我々人類が何者であるかを根底から覆した、偉大なる探求者…チャールズ・ダーウィン!」


(SE:精密な機械時計が作動するような、リズミカルで知的な効果音。スターゲートが、DNAの二重らせんや、複雑な歯車が組み合わさったような、青白い光のパターンを描く。光の中から、ツイードのジャケットを着たダーウィンが、少し猫背気味に、しかし好奇心に満ちた目で周囲を見回しながら登場する。彼は紳士的にあすかに一礼すると、席に着くやいなや、胸ポケットから小さなフィールドノートと鉛筆を取り出し、目の前の石のテーブルの模様や、壁のレリーフをスケッチし始めた)


あすか:「最後に、このお方。富も名誉も全てを捨て、神の愛をその一身で体現しようとした、清貧の聖者。小鳥にまで法を説き、人を襲う凶暴な狼さえも対話によって改心させたという伝説を持つ、聖なるアニマルコミュニケーター…アッシジのフランチェスコ!」


(SE:天から降り注ぐような柔らかな光と、グレゴリオ聖歌のような神聖なコーラス。スターゲートから、まるで後光が差しているかのように、質素な茶色の修道服をまとったフランチェスコが静かに現れる。彼の足元には、光の粒子でできた数羽の小鳥が戯れているように見える。彼は、威圧的なチンギス・カンにも、訝しげな綱吉にも、観察に夢中なダーウィンにも、等しく慈愛に満ちた穏やかな笑みを向け、静かに一礼して席に着いた)


(BGMが静かにフェードアウトする。石のテーブルを挟み、将軍、覇王、科学者、聖者が向かい合うという、ありえない光景。それぞれの放つオーラがぶつかり合い、スタジオには奇妙な緊張感が漂う。チンギス・カンは杯をあおり、綱吉は扇子で顔を隠し、ダーウィンはペンを走らせ、フランチェスコは静かに目を閉じている)


あすか:「皆様、ようこそ。時空を超えたこの邂逅が、歴史に新たな1ページを刻むことを、わたくしは確信しております」


(あすかは、にこやかに4人を見渡す)


あすか:「さて。ウォーミングアップと参りましょうか。皆様に、まずはお聞きしたいと思います。この『動物との共生』というテーマを聞いて、率直に、どう思われましたか?言い換えれば…皆様にとって、『動物』とは、一体どのような存在なのでしょうか。では、綱吉様からお願いできますでしょうか」


綱吉:(扇子を閉じ、パチンと小気味よい音を立てる。背筋を伸ばし、威厳のある声で)「ふむ。あすかとやら。問いが、そもそも愚問であるな。『共生』とは、即ち『仁』。天が万物の上に置いた我ら人間が、声を持たぬか弱き生命を慈しみ、憐れむは、当然のことわり。余が目指した天下泰平の世においては、それは議論するまでもない、自明の理であった。このような場で、改めて問われること自体、この世が乱れておる証左であろうな」


(綱吉はそう言うと、隣に座るチンギス・カンを、侮蔑を隠さない目つきでチラリと見る)


チンギス・カン:(その視線を受けると、杯に残っていた馬乳酒をぐいと飲み干し、石のテーブルにドン!と無造作に置く。豪快な声で笑い飛ばす)「ハッハッハ!戯言を!『仁』だと?『憐れみ』だと?小僧、お主、冬の草原で凍えたことがあるか?飢えた狼の群れに追われたことがあるか?感傷は死を招くのだ。我らにとって動物とは、我らを生かす糧であり、敵を討つ牙であり、地平の果てまで我らを運ぶ足だ!敬意は払う。我らモンゴルの民は、馬の魂に、鷹の目に、狼の強さに敬意を払う。だがそれは、彼らが持つ『力』に対する敬意だ!お主の言うような、腹が満ちた者の退屈しのぎの憐れみなど、唾棄すべき弱者の戯言に過ぎん!」


綱吉:「なっ…!この無礼者!貴様、余を誰と心得る!生類を道具と見なすその浅ましき心根、獣にも劣るぞ!」


チンギス・カン:「獣に劣るだと?我らは獣と共に生き、獣のように戦い、そして獣を食らって帝国を築いた!それが生きるということだ!貴様こそ、命の何を知る!」


ダーウィン:(二人の怒号が飛び交う中、全く動じず、むしろ目を輝かせながらペンを走らせている。興奮を抑えきれない、といった様子で口を挟む)「おぉ、素晴らしい!実に興味深い!お二人のお話は、まさに対照的な環境における『生存戦略』の顕著な発露と言えます!綱吉様の『仁』の思想は、安定した社会において共同体を維持するために、血縁者以外にも利他的行動を広げる『相互扶助』の精神、その究極的な発露と分析できます。一方でチンギス・カン殿の思想は、資源が限られた過酷な環境下で、直接的な利益をもたらすもの以外を排除し、生存確率を最大化するための、極めて合理的な戦略です。どちらが正しい、間違っているという倫理的な問題ではなく、どちらも『生き残るため』という点では、全く等価な生命の在り方なのです!いやはや、これほど見事な対立軸を、生で観察できるとは!」


(ダーウィンは一人で興奮し、早口でまくし立てる。熱弁を振るうダーウィンに、綱吉もチンギス・カンも、毒気を抜かれたようにポカンとしている)


あすか:(くすりと微笑み)「ダーウィン様、ありがとうございます。その分析もまた、一つの真理でしょう。…では、最後にフランチェスコ様。この混沌とした状況、どうご覧になりますか」


フランチェスコ:(それまで静かに目を閉じていたが、ゆっくりと目を開く。その瞳は、嵐の後の湖のように静かで、深い。彼は争う三人を、等しく慈しむような眼差しで見つめ、静かに、しかし、スタジオの隅々にまで響き渡るような、芯の通った声で語りかける)「おお、愛しき兄弟たちよ。なぜ、そうして争うのですか」


(その一言で、スタジオの空気が変わる。チンギス・カンの覇気も、綱吉の怒りも、ダーウィンの興奮も、その静かな声に吸い込まれていくようだった)


フランチェスコ:「兄弟チンギス・カン。あなた様がお持ちの、その嵐のような強き力も。兄弟綱吉。あなた様がお持ちの、その万物を慈しむ優しき心も。そして兄弟ダーウィン。あなた様がお持ちの、真理を見通す聡明な頭脳も。全ては、我らが父なる神が、あなた方に与えてくださった、素晴らしい贈り物なのです。

狼も、小羊も、そして我々人間も、父なる神の目から見れば、等しく愛おしい子供たち。どちらが上で、どちらが下ということはありません。共生とは…支配することでも、憐れむことでも、分析することでもない。ただ、我ら全てが神に創られた兄弟姉妹であると気づき、互いの存在に感謝し、共に神の偉大なる栄光を賛美すること。わたくしには、それ以上も、それ以下も、考えられないのです」


(フランチェスコはそう言うと、胸の前でそっと手を組んだ。彼の言葉は、誰を否定するでもなく、ただ、あまりにも大きく、そして根本的な愛を提示していた。綱吉は、その博愛の精神に何かを感じ入ったようにハッとし、チンギス・カンは「神だと?」と理解不能なものを見る目で眉をひそめ、ダーウィンは「ふむ…『信仰』という、高度に社会的な精神活動。これもまた、人類という種が共同体を維持するために獲得した、極めて強力な生存戦略の一つ…」と、新たな分析をノートに書き込み始める)


あすか:(満足そうに微笑む)「ありがとうございます。将軍の『仁』、覇王の『力』、科学者の『理』、そして聖者の『愛』。四つの魂が、それぞれの立場から、最初の問いに答えてくださいました。ですが、どうやら、まだ入り口に立ったばかりのようですね」


(あすかがクロノスに指を走らせると、石のテーブルの中央にある羅針盤の意匠が、静かに光を放ち始めた)


あすか:「ここから、さらに深く、皆様の物語の奥底へと、潜ってまいりましょう。歴史バトルロワイヤル、最初のラウンドの幕開けです」


(BGM:これから始まる激しい議論を予感させる、緊張感のある音楽が静かに流れ始める)

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