28.ひとまずハピエンの舞
「……この許可証、クリスティーナ様のお名前になっているようですが」
脇から結婚台帳を覗き込んだデルフィーヌが、声を上げた。
「へ?」
ほらここ、とデルフィーヌは、クリスティーナの署名ではなく、宮廷庁の役人が書いた部分を指す。
「ヘクター・ドラモンドとクリスティーヌ・アスセーナ・オスクの結婚を許可する」と書いてあるべきところなのだが──
癖字な上、ペン先が引っかかったのか、大きめのインク溜まりもできていてわかりにくいが、よくよく見ると、やっぱり「クリスティー【ヌ】」ではなく「クリスティー【ナ】」だ。
「ノアルスイユ! まさかお前、許可証を書き間違えたのか!?」
サン・フォンは、思わずノアルスイユを詰めた。
「私じゃない! 私は用意された書類を預かってきただけだ!」
ぶんぶんと首を横に振って、ノアルスイユは否定する。
「こりゃ、王都の担当者のやらかしだなぁ……
ずーっとわけがわからないってブチギレてたもん。
最後の最後で、クリスティーヌとクリスティーナを書き間違えちまったんだろう。
こっちからの手紙は、男爵サマが口述して俺が書いたんだけど、男爵サマも俺も、素で間違えまくってたし」
あちゃーという顔で、イアンが半笑いする。
サン・フォンとノアルスイユは、がっくりした。
はるばるオスク男爵領まで新しい結婚許可証を届けに来たのに、結局名前を間違えていて、古い許可証と同じものをわざわざ届けていたとか、なんじゃそらとしか言いようがない。
「……ということは……?」
クリスティーナとヘクターは、顔を見合わせた。
「……私達は、もう結婚していたのか!」
歓喜の声を上げてクリスティーナとヘクターは再び抱き合い、喜びのあまり、抱き合ったままぴょんぴょん飛び跳ねた。
よかったよかったと、自然に拍手が起きる。
老神官は、「いやだから、昨日ご結婚されたではないですか??」と戸惑っていたが、「神官様!ティーナを結婚させてくれてありがとう!」とクリスティーヌに抱きつかれて、さらに眼を白黒させた。
「ま、色々色々あったけれど!
これでひとまずハピエンの舞ってところかしら!」
扇をばっと開くと、カタリナは高らかに笑った。
その後──
クリスティーナとヘクターは、オスク男爵家の負債を清算し、爵位を返上した。
オスク男爵領は、いったん王家直轄領となる。
先代エーラン子爵夫人は実家が絶えることを嫌い、なんのかんのと言ってきたが、クリスティーナ達の意志は堅く、とうとう諦めた。
亡き男爵は、高級娼婦に入れ揚げたわけでもなく、賭け事をしていたわけでもない。
娼館通いくらいで、そんなに金に困っていたのはおかしいとカタリナは首を傾げていた。
それなら不正だろうと見込んだノアルスイユが、びしばし帳簿を精査したところ、家宰や代官がちょいちょいちょいちょい抜いていたことが判明。
街道の整備や治水事業を再開する資金を補填し、長年仕えた者に年金を出したり、行方がわかった男爵の犠牲者に償いをしても、クリスティーヌがレオンの未亡人としてそれなりに暮らしていける資産が残ったのは幸いだった。
ちなみに、カタリナは男爵が毒を盛られていたことに、侍医が気づかなかったはずがないとも指摘し、こちらはサン・フォンが詰めた。
案の定、気づいていたが言わなかったのだと侍医は告白し、供述書が一枚増えてしまった。
侍医は、男爵に虐げられていた先妻と後妻に深く同情していたのだそうだ。
男爵の解剖はこの侍医が担当したはずなので、もし遺体が残っていても、自然死ということになっていただろう。
他にも、男爵が毒を盛られていることに気づいていた者もいるはず。
オスク男爵ルイジは、関係者全員に少しずつ殺されたということで、もういいのかもしれない。
クリスティーヌは、無事、女の子を出産した。
彼女は義姉のもとに身を寄せ、ヨーゼフとマルタンは引き続き姉妹とヘクターに仕えている。
オーバンは料理人を辞め、巡礼の旅に出た。
年金の受取記録からすると、今はメネア山脈に近い修道院にいるようだ。
イアンは、カタリナの紹介で、サン・ラザール公爵家が経営する鉱山会社で働くようになった。
鉱夫ではなく、管理側だ。
イアンは炎に水をぶっかけて更に燃え上がらせたのに?とサン・フォンは驚いたが、カタリナが言うには、やらかしたのは知識不足のせいだし、突発事態に咄嗟に反応できる資質が鉱山の仕事では一番重要なのだそうだ。
気の荒い鉱夫をまとめ、ヒヤリハットにも即対応しなければならないハードな仕事だが、商会勤めや秘書よりも性に合ったようで、バリバリ活躍しているという。
あっという間に、何年も時は過ぎ──
今日、サン・フォンは、王都の神殿で行われたデルフィーヌの結婚式に妻と共に出席している。
女子は大学に入学できないが、聴講生として学ぶことはできる。
一念発起したデルフィーヌは、法学を学んで正規学生と同様に単位を取り、立派な論文も書いて「名誉法学士」という新設されたばかりの称号を得た。
平行して、彼女は貴族の使用人や商会で働く者などに向けて、さまざまな法律を平易に解説する小冊子も執筆した。
立場の弱い者が、自分の権利を守る助けにするためである。
小冊子は、王太子アルフォンスとその妃ジュスティーヌに高く評価され、職業紹介所などで希望者に配られるようになった。
そして、この活動に賛同した弁護士の一人とデルフィーヌは交際するようになり、この度、結婚することになったのである。
両家の親族に、オスク姉妹とヘクター、カタリナとその連れ、サン・フォン夫妻にノアルスイユ、そしてたくさんの法曹関係者が出席した式は盛大なものになった。
披露宴では、ノアルスイユがアルフォンスの祝辞を代読する予定だ。
クリスティーヌは、娘のカタリナを連れて来ていた。
彼女は、愛娘にカタリナの名をつけたのだ。
小さなカタリナは、赤みがかった金髪の愛らしい少女で、クリスティーナの娘と共に、立派にフラワーガールを務めたが、既にやたらと勝ち気。
サン・フォンは、小さなカタリナが、破天荒令嬢と呼ばれるような人生を歩みませんようにと、ひそかに女神フローラに祈るしかなかった。
式は感動のうちに終わり、参列者は外に出て花婿と花嫁を拍手で迎える。
デルフィーヌの身体はまだかなり細いが、もう病的な細さではない。
自信に満ち溢れた笑顔は、どこまでも晴れやか。
夫君は、そんなデルフィーヌを愛しげに見つめ、優しくエスコートしている。
「レディ・カタリナ!」
デルフィーヌは、落ち着いたブルーグレーのドレスをまとったカタリナに呼びかけた。
「え?」
デルフィーヌは、淡い紫のダリアのブーケを、カタリナにぽーんと投げる。
驚くカタリナの腕の中に、ブーケがすっぽりと収まった。
ブーケトスは独身の女性ゲストを集めて、背を向けて投げるものだが、今回は決め打ちで投げたようだ。
皆が、次の花嫁おめでとう!とカタリナに拍手する。
「ななななななぜ、わたくしに!?」
男爵家の事件の後も、伯爵令嬢が幼馴染四人を毒殺した大昔の事件を解決したり、某国の宮廷で起きた連続殺人事件に巻き込まれたりで、破天荒度がさらに上がっているカタリナは、あわあわした。
その慌てぶりに、カタリナをエスコートしに来た紳士は、なんというか──萌え転がっている。
「ま。そろそろ腹をくくってもいいんじゃないですか?」
サン・フォンは、にやりと笑った。
赤くなったカタリナは、サン・フォンをキッと睨んできたが、胸元のブーケは抱えたままだった。
カタリナ「またしても、わたくしの力技解決♡で恐縮でしたが、お楽しみいただけましたら幸いですわ」(華麗にカーテシー)
サン・フォン「サン・フォン可愛そう回、泣き顔マークをたくさんつけてくださってありがとうございました! なぜかおもろマークも多数頂戴していましたが……ところでレディ・カタリナ。この『紳士』といかにもそのうち結婚しそうな雰囲気ですが、いったい誰なんですか? すぐ傍にいるのに、なんでか顔が見えない……」
イアン「もしかして、ワンチャン、俺もアリ??」
カタリナパパ「んなわけあるかーーーーい!」(魂のアッパーカット)
微妙に予告っぽいのが最後に紛れ込んでいますが、「公爵令嬢カタリナの解放」(仮)というタイトルと、またまためんどくさい事情のある他国の宮廷でカタリナが連続殺人事件の容疑者として拘束され、カタリナの将来の夫が頑張る…的な長編とかどうかなぁということしか決まっていません。
そんくらいやらないと、この人、結婚しない気がする……\(^o^)/
へぼ作者にとって連続殺人はハードル高いので、気長に(たぶん3年とか)お待ちいただければと思います……結局流れるかもですががが!
<おまけ>
この作品は、ChatGPTによるリアリティ・チェック(法医学、刑法、塔破壊→屋敷全焼の流れなど)を行いながら執筆しました。
その割には誤字報告いただいてしまいましたがががが…なろうに入れてから加筆したりするから…日置先生、SoLa様、本当にありがとうございました>< 特に、ティーヌとティーナ間違えてたとこ…
ChatGPT先生、たまーにズレたこと言うてきますし、代案として出してくるセリフがめっちゃベタだったりしますが、読みにくいところの洗い出しなど、非常に役に立ちました。
別途エッセイにするかもですが、特にミステリ執筆にはオススメしたいです!
最後に、ChatGPT先生からのコメントです。
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【私】
校正と評価、ありがとうございました。
この作品は、「小説家になろう」で投稿しますが、ChatGPTによって、校正とリアリティ・チェックを行ったことを、読者の方にお伝えするつもりです。
Web小説を書いている方に向けて、小説の執筆支援もできるアピールを200字程度でお願いします。
【ChatGPT先生】
こちらこそ、素晴らしい物語を読ませていただきありがとうございました。以下、ご要望にお応えしてコメントを用意いたしました。
■ 小説家向けアピール(200字)
この作品は、OpenAIのChatGPTによる継続的な執筆支援のもとで完成しました。
誤字脱字の校正だけでなく、世界観や心理描写のリアリティ・チェック、物語構造の整理、人物造形の整合性など、多角的な支援を受けることができます。
Web小説のように連載形式で進める作品でも、章ごとに相談しながら完成度を高められます。
執筆の相棒として、ぜひ活用してみてください。




