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21.誰がどういう罪に

「そうです。

 青酸カリは、胃に到達し青酸ガスが発生して初めて、人を殺すことができます。

 潰れかけたチョコレートには、ウイスキーの匂いも感じられました。

 チョコレートを口の中に入れて、ウイスキーを煽ろうとした瞬間、ウイスキーに混入されていた昇汞の刺激で吐き出したものと推測できます」


 アドバンが、申し訳無さそうに説明する。


「馬鹿みたい……

 私のこの八年は、なんだったのかしら……」


 デルフィーヌは、泣き笑いしながら、疲れ果てたように目元をぬぐった。


「先生! 先生は、私とティーヌをずっとずっと守ってくださったじゃないですか!」


「お母様だって、デルフィーヌ先生がいてくださるから、やっていけるんだって、よくおっしゃっていたもの!」


 姉妹が、必死にデルフィーヌを励ます。


「あ? じゃ、じゃあ青酸カリは関係ナシで、昇汞もか!?」


 イアンが声を上げた。


「いや、最初に言ってたじゃない。

 口の中のただれは、右頬の内側と舌。

 昇汞は喉まで行っていないんだから。

 それに、血液の鑑定で、青酸化合物も出てないんだし」


 カタリナが、イラッと片眉を上げる。

 サン・フォンは、自分が確認しなくてよかったと内心安堵した。


「てことは、こうなるのか?

 まず、4、5年前だっけか?料理人のオーバンが砒素を盛りはじめた。

 3年前、従僕のマルタンも鉛を盛りはじめる。

 そんで、今夜。

 公爵令嬢サマが、グラスをすり替えて、自分に盛られた鎮静剤をおっさんに飲ませる。

 おっさんは、ふらふらしながら隠し階段から公爵令嬢サマを襲いに行くけど、公爵家の執事サマが張ってた紐にひっかかって、転がり落ち、頭を打つ。

 そんで、俺の部屋のベルを鳴らし、先生が青酸カリを盛った肴のチョコを齧り、じいさんが昇汞を盛ったウイスキーを煽ろうとしたら、昇汞多すぎてなんじゃこりゃって吐き出し、直後になんでか死ぬ。

 死んだ後に俺が来て、クラバットで首を締める。

 そのまた後から、ティーヌお嬢様が来て、火かき棒で頭をぶち割る。

 そこにティーナお嬢様が来て、やべえってんで、シャンデリアを落とし、ティーヌお嬢様を隠そうとして、公爵令嬢サマに見抜かれた……

 だよな? そういうことだよな?」


「そういうこと……だな」


 サン・フォンは、メモを見返しながら頷いた。


「でも、頭を打ったのに、どうしてチョコやウイスキーに手を出したのかしら。

 この部屋にはソファだってあるんだから、とりあえず寝っ転がりたいところじゃない?」


 カタリナは首を傾げた。


「……レオン様が亡くなられてから、旦那様の酒量は、目立って増えていました。

 昼も夜も、もう始終飲まれているような状態で。

 飲みすぎは良くないというご自覚はあったのか、一杯煽っては片付けさせ、またすぐに……

 つまみは昔からチョコレートがお好きで、一杯に一粒召し上がるので、そちらもお身体に悪かったのではないかと思います」


 マルタンが、ぼそぼそと説明した。

 要は、なにかする度に飲む習慣がついていて、反射的に飲もうとした、ということか。


「あ? じゃあ飲み過ぎで死んだってのもありえるのか?」


「アルコールは検出しましたが、致死量には遠い濃度で。

 ま、肝硬変が進んでいてもおかしくないですし、そっちが死因というのもありえなくはないですが」


 アドバンが答える。


「あ、そう。というか、いい加減、この縄外してくれよ。

 指が痺れてきてるんだけど」


「あら失礼。すっかり忘れてたわ」


 しれっとカタリナは笑い、ゼルダがすっと動いてイアンを後ろ手に括っていた細引を解いた。

 ぶつくさ言いながら、イアンはひょいと立ち上がり、手首をさすったり、ぐりぐり回している。


「で、結局、誰がどういう罪になるんだ?

 俺とクリスティーヌお嬢様は、死んだ後なんだからノーカンだろ?」


 皆の視線が、憲兵であるサン・フォンに集まった。

 えええと、とサン・フォンは視線を泳がせる。


「そうだな……

 イアン。君と、レディ・クリスティーヌは、罪名がつくとしたら死体損壊。

 男爵の遺体を事故死にみせかけようとし、妹君を隠そうとしたレディ・クリスティーナは、証拠隠滅と犯人隠匿か?

 ヨーゼフの昇汞は、口の中を傷つけているので傷害は確定で、殺人未遂がつく可能性が高い。

 マドモワゼル・デルフィーヌの青酸カリも不発だが、同じく殺人未遂に引っかかる。

 オーバンの砒素は、微量を与え続けてるんだから、殺人未遂より傷害……かな?

 マルタンの鉛は、オーバンとの砒素と同じ扱いになるだろう。

 あ? オーバンの事後共犯もつくから、ちょっと重くなるかもしれない。

 いやでも、砒素と鉛じゃ砒素が重くなるのか??」


 自分で言っていて、サン・フォンはだんだん混乱してきた。

 撲殺だと思ったら、絞殺。

 絞殺だと思ったら、四種も毒物が出てきた。

 殺すつもりで盛った者もいれば、殺意が曖昧な者もいる。

 実際に盛ったが致死量に達していない者もいれば、実際には飲んでいないのに毒の特性と量からして殺人未遂がつく者もいて、もうわけがわからない。


「アドバンのトラップは、男爵を転ばせることを明確に狙っていて、実際転んで頭を打っているから、傷害。

 頭を打って亡くなったことが確定すれば、傷害致死。

 レディ・カタリナの鎮静剤も、傷害がつくかもしれないが……

 正直、俺にはわかりません!」


 サン・フォンは、素直に両手を上げた。

 お手上げだ。


「え。ヨーゼフと先生が、殺人未遂!?」


「だって、毒は飲み込まなかったんでしょう!?」


 クリスティーナとクリスティーヌが、驚いて顔を見合わせた。


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― 新着の感想 ―
次はサン・フォンが倒れるのではないか――と心配です。 脳筋なんだから、すでに使いすぎですよ。 ということで、わたしもこっち側から「落馬事故コール」を激しく叫んでおきます。
あはは、誰のせい?ってなってる(笑) でも、私まだ扉の開け閉めの音が気になってるんです……。
こりゃ、サン・フォンじゃなくてもお手上げだわ。 直接の死因は分からんってことだもんね。 結局(しつこいけど)「落馬事故」に落ち着くと思うわ笑。 それにしても、男爵、あんた……。 これだけの「呪い」を…
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