表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

2.「例のピンク髪」

 当時の王家、男爵家、大公家、その他諸々がまたまた揉めに揉めまくった結果、婿をあてがってカーラに子を産ませ、その子に男爵家を継がせることになった。


 そんな斜め上の展開になったのには、いくつか理由がある。


 この国の王室典範では、継承権を持つのは嫡出の子だけなので、生かしておいても王家は特に脅かされないというのが一つ。

 前王太子の子ならば、魔力に優れた子が生まれる可能性がそれなり以上にあるので、もったいない?というのが一つ。

 前王太子を溺愛していた当時の王妃が、せめて孫は殺さないでほしいと懇願したのが一つ。


 他にも色々と裏事情があったのだろうが、なにはともあれ貴族学院でカーラに熱を上げていた貴公子達の中から、カタリナの大叔父がカーラの婿に選ばれ、オスク男爵となった。

 彼が選ばれたのは、後妻が産んだ七男で継ぐ家も爵位もなかったこと、国一番の金満貴族であるサン・ラザールが後ろ盾になるなら、なにかトラブルが起きても金の力で適宜なんとかしてくれるだろうという雑な見込みのためだ。

 サン・ラザール側にはたいして旨味はなく、もともと弟を甘ったれの愚物と評価していたカタリナの祖父はだいぶ反対したそうなのだが、一応王家に貸しを作る機会だとカタリナの曽祖父が判断し、二人は結婚した。


 月満ちてカーラが産んだのが、今のオスク男爵。

 だが、男爵はカーラの複製かというほどそっくりで、父親の要素はどこにもなく、本当に王太子の子だったのか、それとも婿であるカタリナの大叔父の子なのか、はたまた別の男の子なのか、どうにも判じかねるという結末になった。

 期待された魔力も、オスク男爵家に多い火風の二属性のみで、魔力量もそこまでではない。


 ちなみに、カーラの父である先々代オスク男爵は、カーラの結婚と同時にほぼ強制引退させられ、突然やって来た入婿に爵位を譲ることになった。

 本来、男爵家を継ぐはずだったカーラの兄弟は、はじき出されて他国へ移住。

 既に嫁いでいた長女はとにかく、妹たちは大スキャンダルの余波で貴族との縁談は見込めなくなり、格下の騎士や地主に嫁ぐか神殿入りする羽目になった。

 オスク男爵家は、次女カーラに乗っ取られ、一家離散したとも言える。


 といっても、それが彼女に良いことだったのかどうかはわからない。

 カーラとカタリナの大叔父は、社交界ほぼ出禁のまま領地に引きこもって暮らし、ほかに子も生まれないまま、一人息子が成人してまもなく、相次いで病没してしまったのだから。


「で。サン・フォン、どうしてあなたが王家の特使を拝命したの?」


 カタリナは、不思議そうに訊いてきた。

 サン・フォンは王立騎士団の憲兵だが、まだまだ下っ端。

 特使を務めるような立場ではない。


「あー……いや。違います。

 特使はノアルスイユで、俺は護衛してきたんですが、馬車が立ち往生して。

 後から来る予定ですが、夕方になるか夜になるか」


「あらま。彼らしいといえば彼らしいわね」


 ノアルスイユとカタリナも長い付き合いだ。

 ノアルスイユは、見かけはいかにも切れ者風で、実際秀才なのに、どうにもポンコツ感が漂う眼鏡。

 王立大学の法科を首席で卒業した後、宮廷庁に出仕している。

 まだ見習いの立場だが、今回はただ書類を届けるだけの仕事なので、若いんだから強行軍でも大丈夫だろうと雑に押し付けられたのは、サン・フォンご同様。

 といっても、今回は「国王の代理」という立場なので、馬車は王家のものだし、サン・フォンのほかにも護衛が一人ついているのだが。


 ふふっとカタリナは笑うと、ま、とりあえず男爵家に行きましょう、とサン・フォンを促した。




 乗ってきた馬は、カタリナが連れてきた公爵家の執事アドバンが移動させてくれることになり、サン・フォンはカタリナの馬車に乗って、男爵家へと向かった。


 泊まっている客はカタリナと、カタリナが連れてきた執事と侍女の三人だけなので、サン・フォンやノアルスイユ達も余裕で部屋を融通してもらえるだろうと言われ、サン・フォンは驚いた。


「他の客は、なんで泊まってないんですか?

 普通は、出席者も何日か滞在するでしょうに」


 領地の館で挙式をするなら、招かれた親戚縁者一同は泊まり込みが前提だ。

 男爵領の領都から離れた、こんな田舎だ。

 街道添いに商店や酒場が何軒かあったが、貴族が泊まれるような宿はないだろう。


「わたくしも、全然お客がいなくてびっくりしたのだけれど。

 隣領のエーラン子爵家の別邸がここから馬車で2時間ちょいだとかで、そっちに泊まってるらしいのよ」


「なるほど。エーランって、ここと縁続きでしたっけ?」


「そ。『例のピンク髪』こと先代男爵夫人カーラの一番上の姉が、先代エーラン子爵夫人。

 ここは雇い人がありえないくらい少ないし、十分な世話が出来ないから、エーランが引き受けているってことなのかしら。

 わたくしも、昨日着いたばかりだから、勝手がわからないのだけれど」


 カタリナは、眉を寄せた。


「とにかく色々おかしいのよ、ここ。

 そもそも、まだ喪中なのに、結婚式を挙げるところから意味がわからないし」


 去年の冬、オスク男爵の唯一の男子、レオンは20歳の若さで亡くなってしまった。

 領内での落馬事故だったという。

 跡取りが亡くなったら、1年くらいは喪に服すものだ。


「それに、花嫁を急に差し替えた件もありますしね」


 サン・フォンとノアルスイユが急行する破目になった理由は、それだ。


 2年ほど前、オスク男爵は長女「クリスティーナ」とヘクター・ドラモンの婚約の許可を王家に申請した。

 ヘクターは、オスク男爵家の支族の出身で、クリスティーナの4歳年上。

 子どもの頃、貴族並みの魔力があることが判明し、男爵家の援助の元、魔導師となった。

 特に魔導工学で才を発揮し、魔導院でも高く評価されているという。

 そんな彼を男爵家が囲い込む婚約なのはあからさまだったが、別に問題があるわけでもなし、普通に許可された。

 長女はできるだけ格の高い家に嫁がせるものだが、オスク男爵家の場合、以前のゴタゴタのせいで良縁が見込めないのと、実子がレオンとクリスティーナの2人だけで、近い親戚もあまりいないので、外に出すより、手元に留めた方が良いという判断だったのだろう。


 なのに先月、オスク男爵の養女「クリスティーヌ」とヘクターの婚約の申請書が、いきなり宮廷庁に送りつけられたのだ。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
実娘「クリスティーナ」と養女「クリスティーヌ」って、この紛らわしいさ(笑)になんかカラクリありそう臭がプンプン。 それともミスリードを誘う罠かしら? ますます続きが楽しみです!!
「クリスティーナ」と「クリスティーヌ」? なんだなんだ!?\(◎o◎)/ (眼鏡キャラのノアルスイユ君、ちょっとポンコツ♡)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ