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佐藤大輝、恋愛相談をされる

流れてくるダンボールを折りたたむ


結局、車は当たり前だが弁償することになり、俺の収入と貯蓄から考えると少なくない借金を背負うこととなった


ポジティブに考えよう

自分の中の価値観と常識をアップデートするにはいい機会だったと

人が悪魔になり悪魔が人を襲う、誰かが常に助けてくれるとは限らない

変わってしまった世界で貯蓄なんてあまり意味がない、5年先の生活より明日の命だ

金はあの世には持っていけない


「佐藤くん、かわるから休憩いっちゃって」


「うっす」

交代でラインに入ってきた田中さんが、下から上へと首を動かし、少し感心したように俺を見る


「鍛えてるの?最近ガッシリしてきたね」


「ええ、まあちょっとばかし筋トレを」


「それはいいことだ。ここのところ急に仕事に来なくなる人が増えていてね、その分佐藤くんにはもっと頑張って貰わないと」


この工場は前から人の入れ替わりが激しかった

俺より長く働く田中さんは当然そのことを知っている

つまり今が異常な状態であるということだ

思い当たる節はある

だからといって俺にはどうする事もてきない

平和の残滓がチリチリと燃えていく気配がした




灰になっていくタバコを眺めていると山田がやってきた


「あ、お疲れっす」

いつもやかましいぐらいの山田だが、今日は元気がない


「おう、お疲れ。どうした?なんか元気ないな」


「わかります?昨日彼女と揉めちゃって」

タバコに火をつけ、初めて見る憔悴の表情で山田が答えた


「そりゃあ…なんだ、その、お前がそこまで落ち込んでるのは珍しいな」

何か気の利いた言葉をかけてやりたいが、残念ながらその方面の経験は皆無

つい最近自覚した初恋でさえ、気が付いた時には手遅れだった


「いやー、俺達ってお互い放任主義っていうか、一緒にいる時以外の事はあまり首を突っ込まずにやってきたんですよ。それでも昨日までは大きなケンカもしたことなくて、仲良くやれてるつもりでした」


「昨日何があったんだ?」

山田のくせに…羨ましい…


「なんか彼女、DDとかいうヤベードラッグに興味があるみたいで、今度そのDDが配られるパーティーに行こうとしてるみたいなんです」

【DD】という名前には見覚えがある

銃を手に入れる為、ダークウェブを見回っていた時に頻繁に目にした名だ


「成る程、それで彼女を止めたと」


「勿論止めたっすよ!俺もクラブとか行くし、草とか紙とかその程度だったらゴタゴタ言うつもりもなかったっす。ただ聞いた話じゃDDってかなりヤバい薬で、副作用とか依存性もハンパじゃないらしくて、なんでも酷ぇジャンキーになってくると化物みたいになるとかいう話も…」


「化物?まあいい、それで彼女はなんて?」

化物、その単語をただの与太話だと聞き流すには俺は化物を知りすぎた

だが山田はそれ以上の情報を持っている様子はない

今は一旦置いておく


「あー…えーと…止めたのが問題っていうか、俺がそれをどこで知ったのかが問題で…」

山田は歯切れ悪く言い淀み、やり場のない感情を胸から追いやる様に煙を吐く


「見ちゃったんです…彼女のスマホ…勝手に…それで彼女ブチギレちゃって…」


「あー、そいつは」

難しい話だ

スマホを勝手に見たのは山田が悪い、でもそうしなければ彼女が危険なドラッグパーティーに行こうとしている事も知り得なかった


「あーもう…どうしよう…」

壁にもたれてズルズルと地べたに座り込む山田

こいつがこれ程まで落ち込むとは…

かける言葉が見つからず、そっと肩に手を置いた



自宅に帰ると、飯も食わず風呂にも入らず、すぐにパソコンを立ち上げた

理由は消費した弾の補充、それと【DD】について調べる為


『なんでも酷ぇジャンキーになってくると化物みたいになるとかいう話も…』

悪魔とは何の関係もないかも知れないし、そうじゃないかも知れない

調べる必要がある

生きるため、そして彼女が何故悪魔になったのかを知るために


表のsnsでも【DD】について少しの情報はあった

ここ最近出回り初めた新薬であるらしい事、これまでにない昂揚感や陶酔感を得られるらしい事、しかしこれだけ


表に見切りをつけてダークウェブを開き調べる

残念ながらそれ以上の【DD】についての情報は見つからない

しかし【DD】そのものを手に入れる事は容易に思えた

DDパーティというのものが不定期に頻繁に行われているらしい

規模は様々で、100人以上の参加者がいるものもあれば10人未満のものもある


パーティ…


勿論犯罪だろうし、危険もある

しかしそのどちも俺からしたら今更だ


この件を放置しておけば山田や山田の彼女に危険が及ぶ可能性がある


俺は正義の味方ではない

それでも、もう後悔はしたくなかった

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