転生したら大国の大統領だった件 ~魔法に200%の関税をかけたら平和になった~
異世界転生ものはたくさんありますが、今回は「大統領」という立場から異世界を平和に導こうとする物語です。ヒーローでも勇者でもない、しかし強引すぎるくらい現実的な主人公が、ファンタジー世界にどんな風を吹かせるのか。少し風刺がかったコメディとして、お楽しみください。
「……え、ここどこ?」
目を覚ました瞬間、小川は天井の高い黄金の部屋でソファに座っていた。絢爛たる内装に目を奪われていると、黒スーツの美女が目の前に立ちふさがった。
「大統領、次の演説まであと五分です」
「え?」
「補佐官のミナです。ご記憶が混乱しているのは魔法転移の副作用かと」
小川――いや今やユカイ国大統領レオニダスは、脳内で起きている事象を整理する間もなく、壇上へと連れ出された。
◆
初演説。
目の前には何千、何万という市民と魔導通信を通して見守る何百万の視線。
(やばい、人生で一番緊張する……)
脳裏に浮かぶのは、元の世界で苦しんだブラック企業の記憶。理不尽なルール、意味不明な会議、上司の逆ギレ、深夜残業――そして、絶望。
彼はマイクを見つめ、口を開いた。
「魔法のせいでこの国が乱れるなら、いっそ魔法には――200%の関税をかけよう」
一瞬の静寂の後、万雷の拍手が起こった。
(え、ウケた?)
この日、魔法課税法案が誕生した。
◆
魔法が自由に使われる世界。
それは便利だが、平和とは限らない。
貧民層は魔法を買えず、富裕層だけが「火球」や「治癒」を私有化。
犯罪に使われる魔道具、戦争を引き起こす魔晶兵器。
レオニダスの決断は一見過激だったが、経済と治安に安定をもたらした。
「関税収入の一部を、公共教育と福祉に回します」
「国内魔法学校は無税です。地産地消が基本ですから」
ミナの冷静な補佐により政策は整備され、市民の魔法依存は徐々に減っていった。
◆
次に着手したのは、紛争地帯のモンスター問題だった。
レベル3以上の高位モンスターが跋扈する地域では、軍も治安も機能しない。
「モンスター管理法により、紛争地域からレベル2以上のモンスターは国外退去処分とする」
「人権は?」と記者が問うた。
「レベル3オーガが人の言葉を理解したら考えよう」
こうして、危険モンスターの一掃が始まった。
代わりに、弱いレベル1モンスターたちが住民と共存するエリアが増え、農村の平和が戻ってきた。
◆
国際会議。
魔法輸出国アズワール共和国の大魔導師は怒り狂っていた。
「ユナイ国のせいで我が国の魔法経済は破綻寸前だ!」
「破綻するほど依存してるのが問題なんじゃないですか?」
静かに答えるレオニダス。
「我が国は武力を一切行使していません。ただ、魔法を買うなら正当な税を払ってもらうだけです」
◆
数年後、世界から戦争は消えた。
魔法の流通が制限されたことで、国家間の力のバランスが安定。
ユナイ国は強引な政策により批判されながらも、最も安定した国として評価されていた。
「大統領、また他国から非難声明が出ています」
「いいよ。言わせておけ」
レオニダスは笑った。
「平和ってのは、全員が納得するもんじゃない。誰かが腹をくくるもんなんだ」
ミーナは静かに頭を下げた。
「…あなたは悪役かもしれません。でも、この国は笑っています」
――その日、大国の大統領はまたひとつ関税を上げた。 誰にも見えない未来を、ひとり静かに背負いながら
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
異世界×政治×風刺という、ちょっと異色な組み合わせでしたが、楽しんでいただけましたら幸いです。「異世界の勇者」はもうたくさん見ました。ならば、次は“異世界の悪役大統領”でもいいじゃないか。そんなノリで書きました。
もし続きやスピンオフを読みたいという声があれば、ぜひ感想で教えてください!