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森の中の学舎

作者: 口羽龍

 辰彦たつひこは白樺林の中を走っていた。もう何十分も白樺林の中だ。だが、辰彦は知っていた。この中に、とても珍しい円形の校舎がある事を。円形の校舎は一時期流行したらしいが、残っているのはあんまりないという。


 どれぐらい進めばみられるんだろう。辰彦は不安になってきた。もう何年も前に廃校になっている。ひょっとして、崩壊したのでは?


 辰彦は廃校舎をめぐるのが好きで、よく写真を撮っている。そしてそれを、ホームページに公開している。


 しばらく走ると、やっと校舎が見えてきた。これが糠寄ぬかよろ小学校の跡だ。この辺りは、鉱山で賑わった。だが、エネルギー革命によって閉山になった。国鉄の駅までを結ぶ鉄道も作られたが、廃止された。そして、集落自体もなくなってしまった。


「着いた・・・」


 辰彦は車を停め、その校舎を見た。写真で見たとおり、見事に残っている。白樺林の中にこんなのがほぼ完ぺきに残っているとは、奇跡だ。


「ここが校舎の跡なのか」


 辰彦は車から降りた。辰彦は廃校舎の前に立ち、見上げた。昔はどんな町だったんだろう。全く想像できない。だが、とても賑やかだったのは想像できる。


「すごい! 円形校舎がこんなに完ぺきに残ってるとは」


 だが、辰彦は思った。こんなに完ぺきに円形校舎が残っているのに、どうして残せないんだろうか? ここが不便だからだろうか?


「どうにかしてこれを残せないんだろうか?」


 辰彦は写真を撮り始めた。これをホームページに掲載して、みんなに見てもらうんだ。きっとみんな驚くだろうな。


「何度見ても素晴らしいな・・・」


 と、辰彦は思った。中に入ってみよう。時間は立っているものの、中はしっかりしていそうだ。崩落の危険はないだろう。


「中に入ってみよう・・・」


 辰彦は中に入った。廊下は円を描いている。階段はらせん状だ。


「すごい・・・。本当にカーブを描いている」


 こんな内部だったんだな。どれぐらいの子供たちがこの廊下や階段を行き来したんだろう。子供たちの楽しそうな声がしたんだろうな。そう思うと、あの頃に戻って、その様子を見て見たいと思えてくる。だが、それはできない。タイムマシンがあればいいんだがけど、そんなものはない。


「昔はとっても賑やかだったんだろうな」


 と、辰彦は廊下の張り紙に、ある写真を見つけた。それは昔の小学校の写真だ。そこには、授業を受ける子供たちが写っている。外には、炭住や鉱山の建物の写真がある。昔はこんな風景だったんだな。今はただの白樺林だけど。今の光景からはとても信じがたいな。


「ん? これは昔の写真・・・」


 昔はこんな場所だったんだ。多くの人が行きかい、都会のような賑わいだったんだろうな。だが、閉山、鉄道の廃止があって、そして町自体もなくなってしまった。まるで栄枯盛衰を見ているかのようだ。


「昔はこんな様子だったんだな。多くの人が住んでいたんだ。だけど、今ではもうみんないなくなった・・・」


 辰彦は残念そうに見えた。もうあの頃の賑わいはもう戻ってこない。人はもう戻ってこない。校舎は白樺林の中で朽ち果てていくのを待つだけ。とても寂しそうだな。何とかしてここに人々を戻す方法はないんだろうか?


「あの頃の賑わいはもう戻ってこない・・・」

「ねぇ」


 突然、誰かの声が聞こえた。ここに誰かがいるんだろうか? ここは無人の山林なのに。いったい誰だろう。辰彦は振り向いた。そこには幽霊がいる。子供の幽霊だ。だが、全く怖くない。むしろかわいい。


「うわっ・・・」


 辰彦は驚いた。まさか、幽霊と出会うとは。この小学校の卒業生だろうか?


「びっくりさせてごめんね」


 幽霊は謝った。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。誰も来なかったから、話しかけただけだったのに。


「君、誰?」

「ここの卒業生」


 やはり、ここの卒業生なのか。死んでから、ずっとここにいるんだろうか? 寂しくないんだろうか?


「そうなんだ・・・」

「ここって、昔は賑やかだったんだね」


 幽霊は知っていた。かつてここは鉱山があり、とても賑やかだった。多くの人々が住み、まるで都会のようだった。だが、エネルギー革命によって鉱山は閉山した。それによって、人々はここを離れ、人口が少なくなっていた。国鉄の駅までを結んでいた鉄道は廃止になり、過疎化はさらに進んでいった。そして、人がいなくなり、白樺林になった。


「うん。だけど、鉱山がなくなって、人がいなくなって」


 ふと、辰彦は思った。それは時代の流れなんじゃないかな? もっと豊かな生活を求めて、世界は変わっていった。その変わりゆく世界の中で、鉱山は閉山になり、この町は亡くなってしまったのかな?


「残念だけど、それが時代の流れなのかな?」

「そうかもしれない。だけど、故郷が失われて、小学校もなくなって、寂しいよ」


 幽霊もうすうすと感じていた。だけど、時代の流れには逆らえない。どうしたらいいのかわからない。いつの間にか、幽霊は泣いてしまった。


「その気持ち、わかるよ」

「ありがとう・・・」


 と、幽霊は校舎の外を見た。そこには白樺林しかないけれど、確かにそこに町があった。


「あの白樺林、かつては家がたくさんあったんだ」

「信じられない・・・」


 集落が消えると、こんな風景になるのかな? ここに住んでいた人々は、こうなってしまった故郷を見て、どう思っているんだろうか?


「本当なんだよ。家は取り壊されて、ただの白樺林になってしまった」

「寂しいね・・・」

「うん・・・」


 辰彦は時計を見た。そろそろ次の町に行かないと。早く行かないと、宿のチェックインの予約に遅れてしまう。


「・・・、もう行かないと・・・」

「今日はありがとう・・・。また会いたいな・・・」


 寂しいけれど、お別れだ。今度、誰かが来るのはいつだろう。もう来ないんじゃないかなと考えた。だが、また誰かが来てくれると信じよう。


「会えたらね・・・」

「じゃあね、さよなら」

「さよなら・・・」


 そして、辰彦は校舎を後にした。窓から幽霊が見ている。やがてこの校舎は、朽ち果てて跡形もなくなくなってしまうだろう。だけど、思い出はいつまでも心の中に残り続ける。だけど、現実に残せる手段はないんだろうか? そうすれば、ここの卒業生はとても喜ぶと思うのに。時代の流れに乗れなかった町は、このように跡形もなくなくなってしまうんだろうか? それを防ぐには、何をすればいいんだろう。辰彦は全く思いつかない。

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