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例題《牛の首》について

1984年9月14日、東京都XXX区所在の小学校に於いて未解明事象が発生した。


被害者は当時4年A組に在籍していた児童6名。内訳は9歳の男児1名、10歳男児3名、10歳の女児2名。

放課後、被害者たちは教室内で会話をしていたところ相次いで倒れ、救急搬送されたが、いずれも3日以内に死亡した。

死因はいずれも急性循環不全とされ、明確な外因性要素は確認されなかった。


聞き込みによると当時、9歳の男児1名と10歳男児3名のグループでは所謂都市伝説がブームとなっており、休み時間や放課後になるとオカルト話をしていたとクラスメイトからの証言が得られている。

また、女児2名は事象発生当時、男児グループの近くで雑談に興じていたとの目撃証言が得られている。

扉をくぐって約1時間後、見学を終えて《記録整理課》と外界を隔てる扉を開けて部屋を出ていく新人たちを見送る。

それと同時に室内に満ちていた緊迫した空気も一気に緩むのを感じた。

目の前のPC画面に表示された文言に目を落とし、俺は溜息をつく。


「・・・なぁ《禄記》、本当にこれがお前の・・・導き出したオリエンテーションに最適な例題かよ。」


相馬の声に呼応するかのようにイヤホンから僅かにノイズが聞こえた後、無機質な人工音声が流れる。


「おや、ご不満ですか。答えが分かり切っている問いの方があなた方も気が楽かと思ったのですが。」


記録補助AI《禄記》。

《事象記録整理機関(Event Record Maintenance Agency)》が誇る最新の人工知能だ。

用途はタスクのアサイン、人生相談、関連資料の提示等多岐にわたる。

もっとも俺は基本的には仕事の愚痴程度にしか使用したことがないのだが・・・


例題《牛の首》。

今《禄記》が画面に表示している事件の通称だ。


牛の首、とは怪談である。

しかしながら話の内容は誰も知らない。

何故ならば話を聞いたものはあまりの恐ろしさに三日以内に事切れてしまうと言い伝えられているからだ。


この事件はニュースにもなく、記録にもない。

新人オリエンテーションの為に上層部がでっち上げたと思われる事象に関する証明など誰もやらない。


先にも述べたように牛の首は題名のみで『話の中身がない』話だ。

証明のしようがない、まさしく悪魔の証明・・・

故に毎年出されるこの問題に対して、記録整理課は体裁を保つ為に新人が見学をしている最中は画面や資料に向き合い考えるフリをし、新人が出て行った後で皆一様にデスクに突っ伏すのだ。


そしてこれまた例年通り、俺たちは報告書の欄を一切埋めることなく、送信ボタンを押した。

「タスクの完了を確認しました。お疲れ様です。」とイヤホンから《禄記》の無機質な声がする。


「せめて課内のメンバー全員に別々の例題を用意しろよ。これを新鮮な気持ちで対応出来るのは新人くらいだぞ。」


「善処しましょう。」


《禄記》の回答は去年となんら変わらない。

来年も恐らく今年と同じ作業、そして再来年も同様に意見が取り入れられることはないのだろうと俺は再び溜息をつく。


「上層部も毎年同じ内容って何を考えてんのか分からねぇな。」


ふと時計の文字盤に目を落とせば退勤時間まで残り僅か。

毎年同じ問題、同じ報告・・・見ようによってはボーナスタイムか、と無理やりに自分を納得させれば、帰宅準備を進める五木に向けて呑みに行くぞ、と声を掛けつつ、俺はPCの電源を落とすのだった。


/* 非公開記録 開示 */


1984/09/13 16:40

■■医院。9歳男児(以下、Aと表記)とAの祖父が怪談に関する話を行っていたと看護師の証言あり。

看護師は途中退室。理由:「怪談の類が苦手である為」


1984/09/15

■■医院にてAの祖父と同室の患者2名が自然死。

何れも事件性はなし。


1984/09/16 0:23

■■医院。

Aの祖父死亡。

死因:心筋梗塞による心原性ショック。


事象発生以降、■■医院にて、9月下旬から10月にかけて患者が26名死亡。

死因は何れも心筋梗塞、脳卒中、既往症の悪化とされ、明確な外因性要素は確認されなかった。


/* 音声データ再生 */


(女性の声)

9月16日0時17分、録音開始。

(ノイズ)さんがナースコールを押した為、病室に向かったところ、ええと・・・

(ノイズ)さんが錯乱状態に陥っていた為精神安定剤を投与。

でも何で急に・・・?

 

(別の女性の声)

婦長、知らないんですか?

(ノイズ)さんのお孫さん、昨日亡くなったんですよ・・・


(女性の声)

そうなの?昨日って・・・


(別の女性の声)

そうですよ。同室の患者さんも亡くなっちゃって・・・

何だったかしら、怪談話してたらしいけれど・・・


(Aの祖父と思われる声)

 知っちゃいげねかった・・・


(女性の声)

・・・え?何ですか、(ノイズ)さん?


(Aの祖父と思われる声)

話しちゃいげねかった・・・


(女性の声)

えぇと・・・何を?


(Aの祖父と思われる明瞭な声)

牛の首。


/* 音声データ終了 */


合理的証明の報告:なし


/* 非公開記録 隠匿 */

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