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夜中の散歩

作者: みちる

夜というにはあまりに静かな時間帯。

春になりかけのじんわりとした空気。

小さい頃って三月はもっと寒かった気がするけど。


まだ残る冬の空気が頬を撫でるのも夜中を感じられてちょっと気持ちいい。



「葉桜でも夜なら夜桜かな」


「花が散っちゃうまではそうじゃない?前提が夜なのかどうなのかとか……」


「あっ前提とかあるならやめとく」


会話を中断されてスマホを見ると表示されてる時刻は二時。

丑三つ時のむやみに静かな住宅街。

こんな時間にコンビニにアイスを買いに行くって青春っぽいよね?

同意を求めるように葉桜を見上げてる彼女に問う。



「こう……ちょっと大学がこなれてきたときのさ、サークルの飲み会のあと的な」


「キミ、友達いないのにそういう想像はしっかりしてるよね。院では大丈夫そうなの?」


「そりゃ学部内にはいないけど。まあ平気」


「たしかに仲良しこよしで研究するわけじゃないか」


体だけ順調に大人になったのに、ぼくの心はまだ幼いままな気がする。

横断歩道では白いところを踏んで渡りたい。車がないときは縁石の上を歩きたい。

そういうことを思うとぼくは精神的な成長ができなかった失敗作と感じてしまう。


だからきっと、仲良しの人が就職でここを離れるということが素直に喜べないのかも。

さみしいし、置いていかれたような気分。



「なんのアイスにしようかなぁ。まだ氷の気候でもないし。モナカはいつでもおいしいし」


「アイスの旬って冬だからね」


「そうなの?」


「僕がいま決めた」


なにそれ、と笑う声が夜に溶けて深夜の酸素と一緒に胸の中に満たされる。

まわりの家はすでに眠りに入っていて空気は澄んでどこか苦しい。


暗い公園は街灯だけがやけに目立つ。ああ、もっとこうやって過ごしたかったのかもしれない。

できるかもしれないけれど、きっともうどこかが変わっていく。

そしてその変わっていくものも愛おしいって思ってる。



「まあ気にしないで。僕はチョコにしようかな」


いまこの時間が永遠じゃないことを。

だから一瞬を重ねていって、今見てるコンビニの光だっていつか懐かしいねって一緒に笑顔でいたい。これからも。


願わくば同じ気持ちで。


せめて帰ったら始発が出るまで抱きしめさせて。

さっき渡した指輪と紙と、この気持ちごと。

ふたりの新しい関係に名前をつけようか。

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