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7話 魔壊士

 まさにそれは寝耳に水だった。

 俺に魔力があるなんて思ってもみなかったからだ。

 だって、ホムンクルスって魔力が無いって話じゃなかったっけ?


「でも本当に……この子に魔力が?」

「間違い無い。そうでなければ、こんなことは不可能だ」


 クルトは手にあるガラスの切断面をディアナに見せる。


「魔角の形までは、まだはっきり分からないが、ネロが教えてくれた形は輪を成していた。なら、少なくとも三角以上であるということは間違い無いだろう」


 三角? そういえば、最初に作った形がそれだったな。

 角数が何かと関係しているのだろうか?

 疑問に思っていると、クルトが勢い良く俺を抱き上げた。


「わっ……!?」

「ははっ、凄いぞ、ネロ! お前は常識を覆したんだ! 素晴らしいことなんだぞ!」


 それは大変な喜びようだった。

 彼は俺を抱き上げながら、その場でグルグルと回ってみせた。

 目が回るって!


 それはともかく、どうやらその魔角というのがあると魔力があるということらしい。

 となると、体内に感じていたあの熱い流れは魔力だったのか?


 なら俺は、ホムンクルスに魔力が無いという常識をなぜ覆せたのだろうか?

 可能性として考えられるのは、自ら成長反応を起こしにいったことくらい。


 普通は細胞から肉体を得る最初の一回しか成長反応は起こらない。

 それを何回も繰り返したのだから、当然常識の範疇からは超えている。


 俺は早く外に出たい。

 出たら魔物にすぐやられてしまわないような体が欲しい。

 ただその思いだけで、成長反応を起こしてきただけだったのだが、それが結果的に魔力を得ることになってしまったのだと思う。


 そんな事ができたのも俺が前世の記憶を持っていたからだ。

 赤ん坊では思い付きもしないし、そもそも完成された思考を持っていない。

 転生者である俺だけのボーナス特典ということか。


「きっとお前は強い魔壊士になれるぞ! なにしろ俺達の子だからな!」


 クルトは嬉々とした顔で俺に向かってそう言う。

 魔壊士ってなんだろ?

 魔を壊す戦士? 魔物と戦うってことか?


「あなた……ネロを戦いの世界に向かわせる気なの?」


 ディアナが心配そうに言ってきた。


「俺だって心配さ。そもそも、そんなつもりで赤ん坊を授かろうと思ったわけじゃないからな。お前だってそうだろう? ディアナ。二人でこの子を守って行こうと決めたからホムンクルスに手を出したんだ」

「ええ……」

「でも、状況は変わった。この子には魔力がある。この世で魔物に関わらずに済む場所なんて無いのだから、生き抜く為には魔力が無いより、あった方がいい。この子はツイてるんだ。だったら、その力を上手く使えるようにしてあげることが、結果、ネロ自身を守ることになる。そうだろ?」

「そうね……」


 その時、ディアナの顔に覚悟の色が見えた気がした。


「分かったわ。でも、それ……私にも手伝わせて」

「もちろんさ。一流に教わらない手はないだろ?」


 ディアナは微笑みを浮かべた。

 なんか二人の間で話がまとまったようだった。


 俺は俺で、会話を聞いているうちに疑問が増えてゆくばかり。

 やっと外に出られたことだし、少しずつでもこの世界のことを把握してゆきたいところ。


 しかし、いきなり根掘り葉掘り尋ねては不審に思われるだろう。

 だから、とりあえず今、話に出たものから聞いていこう。


「パパ、まかいし……ってなに?」

「ん? なんだネロ、早速興味を持ったのか?」


 クルトは俺を床に降ろすと、目線を合わせるように目の前でしゃがむ。


「この世界にはな、人間を食べてしまう悪い魔物がそこらじゅうにいるんだ。それをやっつけるのが魔壊士の仕事さ」

「まかいしって、つよいんだね」

「ああ、そうさ。魔壊士のお陰でこの町の平和は守られている。ちなみにパパとママもその魔壊士なんだぞ」

「しゅごい!」


 そう言ってやるとクルトは「そうだろ、そうだろ」という感じで誇らしげに頷いていた。


「だが俺は、ネロにもその素質があると思っている」

「ぼく?」

「ああそうだ。パパとママが教えれば、お前はきっと強くなれる。だからその為の勉強をしてみないか?」


 その誘いは俺にとってもありがたかった。

 この世界が魔物でいっぱいで、命の危険があるというのなら、できるだけ早く自衛の手段を手に入れておきたいからだ。

 だから答えは決まっていた。


「うん、やる」


 するとクルトは俺の目を見据えて頷いた。


「そうか、なら落ち着いたら教会に行ってみよう」

「きょうかい?」

「教会は魔力を司る場所。そこでネロの魔力を判定してもらうんだ。その結果を見てネロに合った勉強の内容を組み立ててゆく。分かるか?」

「うん、わかる」

「凄いな! 今ので理解してしまったのか!? 天才だな!」


 当然の事とはいえ、そこまで言われるとムズ痒くなってしまう俺だった。


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