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14話 強くなりたい

 俺が初めての魔法で家の壁を壊してしまった後、こっぴどく叱られるのかと思っていたが、その逆だった。

 むしろ初めてで魔法を発動できたことへの驚きと賞賛を受けたのだ。


 そして両親はその事が切っ掛けで、俺に対しては初心者に教えるような内容では逆に危ないと思ったらしく、魔法の扱い方を事細かく教えてくれるようになった。


 俺にとっては不幸中の幸いというかなんというか、レベルの高い講義をいきなり受けられるようになったのと同じなので、それは凄く嬉しかった。


 そんなこんなで俺は両親に魔法を教わりつつ、自分でも試行錯誤を続け、そうこうしているうち半年近くの月日が経っていた。

 この期間で魔法というものが次第に分かってきたが、まだまだ底知れぬ奥深さがある。

 そもそも一生かかって極めるようなものだろうから当たり前だ。

とはいえ今の状態では、まだ魔物には太刀打ちできないだろう。

 何より実戦経験も無いのだから。


 そんなわけで俺は今日も庭で魔法の自主練習をしていた。

 火と水、それぞれに於いて色々な形の魔法を作り出せるようにはなったが、どうにも圧縮ができなくて困っていた。


 初めて水の魔法を放った時もそうだったが、バスケットボール大より小さくできないのだ。

 ディアナが言うには、できるだけ小さく圧縮した方が魔力が高密度になり威力が増すらしいのだが……。


 そうは言っても実際、どうやったらいいものか参考にするものも無く、地道にトライアンドエラーを繰り返すしかない。

 俺は石塀の上に登り、そこに腰掛けると自分の手を見つめながら、何か良い方法はないかと思考する。

 そんな時だ。


「お前、生意気なんだよ」


 あまり穏やかではない声が聞こえてくる。

 子供の声だ。

 俺は塀の上で、声のした方向へ体を向けた。

 するとすぐに状況が視界に入ってくる。


 通りの角で女の子を問い詰める男の子の姿があったのだ。

 男の子の方は俺よりも二、三歳上に見える。

 女の子の方は俺と同い年くらい。

 しかも女の子の方には見覚えがあった。


 あれは……フィーネ?

 そう、魔力判定の時に会ったアイラの娘だ。


 そういえば、今日は我が家にアイラ達が来ているんだったな。

 何やらクルトと魔壊士関係のことで話があるらしい。

 フィーネも彼女と一緒についてきていたのだ。


 大人同士の話し合いで退屈だろうから、庭で遊んでらっしゃい。

 とか言われて実際、外に出たら、なんか良く分からん奴に絡まれたって感じか?

 ともかく俺は様子を探る為、そっと石塀を降りると、二人のそばへと近付く。

 すると、家の陰に隠れていて見えていなかったが、男の子の仲間が更に二人いることに気づく。


「貴族だからって調子に乗んなよ。オレは魔法が使えるんだからな」

「そうだぜ。ウッツは火の魔法が得意なんだ」

「お前、泣いちゃうぜー?」

「……」


 そう言って男の子達は威嚇するような態度を取る。

 対してフィーネの方は怯えていて何も言えない様子だった。


 これはあれだな。

 ウッツと呼ばれているリーダー格っぽい子だが、年上ということもあり少しばかり   魔法が使えるようになって、自分の力を誇示したくて仕方が無い……そういう困ったちゃんの部類じゃないだろうか?

 自分より弱そうな者を見つけては因縁をつけて回っているのだろう。

 最低な行為だ。

 ついでに言うならば、その言動から察するに貴族に対する僻みっぽいものもあるかもしれない。

 他の二人はウッツの傘に隠れているだけの存在だ。


「火傷したくなかったら、そこにある土、食えよ。それで許してやる」


 ウッツは地面を視線で示すと、右手に小さな火球を作り出す。

 だが、俺はすぐに分かった。

 あれは魔法と言ってもただの火球だな。

 形を変えることもできなければ飛ばすこともできない。

 精々、灯りに使うくらいのものだ。


 なぜそれが分かったのかと言うと、破眼持ちの俺には彼の魔角が見えていたからだ。

 彼の魔角は一本の線。

 角の無い第二魔角級と呼ばれているものだ。

 魔壊士にはなれないレベルの魔角じゃないか。

 お前の目の前にいる子は遥か格上の第五魔角級だぞ、と言ってやりたい。


「ほら、食えよ」

「ひっひっひっ」


 ウッツ達はニヤニヤしながらフィーネを追い詰める。

 おいおい、お前ら……寄って集って自分より幼い子を……。

 小さい時からそんな事やってたら、碌な大人にならないぞ?

 家庭環境に起因する所もあるのかもしれないが、これは大人(中の人)として見過ごすことはできないな。

 そんなわけで俺は我慢ならず、奴らの前に歩み出た。


「君たち、やり過ぎだよ」

「あ? 何だ、お前?」


 ウッツ達の注目を浴びる。

 フィーネも俺が誰であるか気づいたようで、ハッとしたような表情を見せた。


「ははっ、誰かと思えば似たようなチビじゃねえか」


 ウッツがせせら笑うと、横にいた別の子が俺を見ながら言う。


「あ、オレこいつ知ってるぜ。アルムスターの所のホムンクルスだ」

「マジかよ」


 一瞬で彼らが引き気味になったのが分かった。


「人間じゃねえのか……気持ち悪っ!」

「ホムンクルスって魔法使えないんだよな。だっせー」

「弱えくせに何イキがってんだよ」


 散々な言われようだった。

 これまでは両親がホムンクルスであることを肯定してくれていたからあまり考えることも無かったが、世間からの認識はこんな感じなのだろうか?

 でもまあ、今の俺にとってはそんなことは些細なことでしかない。


「僕が穏やかなうちに帰った方がいいよ」

「は? 何、寝ぼけたこと言ってんだ。こいつが見えねえのか?」


 ウッツは手に灯している火球を見せつけてくる。

 そこで俺は考えた。

 こいつらを最も効率良く退散させる方法は何かと。


 こんな子供に魔法なんか使ったら死んでしまう。

 でも魔法を使った方が、分からせるには手っ取り早いのも確か。

 問題は魔法が強すぎるのだ。

 じゃあ弱くするにはどうしたら……?

 ん……もしかして……。


「今頃になって、ビビってんのか? ははっ」


 ウッツが火球を持ったまま嘲り笑った直後だった。

 俺は自分の手の中で小さな水球を作り出し、彼の火球目掛けて放った。

 途端、魔法が相殺され、小さな爆発と共に水蒸気が飛び散る。


「うわぁぁっ!?」


 突然、手元の火が破裂したものだからウッツは裏返った声で悲鳴を上げた。

 そして俺が魔法を使ったことに驚いている様子だった。

 動揺を隠そうとしても隠し切れていないのが良く分かる。


「チッ……面白くねえ。帰るぞ……」


 決まりが悪くなったのか、ウッツ達はそう言い捨てるとそそくさと去っていった。

 うん、今のはトラブル回避としては最良だったんではないだろうかと自画自賛してみる。

 なんと言っても魔法を小さく圧縮する方法をこんな場面で編み出せたのだから。


 俺はずっと勘違いしていたのだ。

 魔法が圧縮できないのではなく、そこへ流れる魔力の量が多すぎたのだ。

 俺は何も考えず、体内の魔力をそのまま魔角へ流していた。

 圧縮すると言っても過剰すぎる魔力はさすがに無理。

 布団一枚用の圧縮袋に五枚も六枚も無理矢理入れるようなもんだ。

 時と場合に合わせて魔力量を調整する必要があったのだ。

 こんな当たり前のことに気づかないなんて……何やってんだか……。


 でもこれで魔力の調整ができるようになった。

 そのお陰で色々工夫ができそうな気がする。

 今後の魔法研究に期待が高まり始めた時だった。


「あ、あの……」


 そばで、か細い声が上がる。

 フィーネだ。

 何か言いたそうにしているが、上手く言葉にできない様子。


「大丈夫だった?」


 こちらから声をかけてやると、彼女は少し落ち着いたのか、ゆっくりと口を開いた。


「うん……ありがと……」

「また、アイツらみたいなのにからまれたら大変だから、中庭の方で遊んだ方がいいよ」

「うん……」


 小さく返事をした彼女の睫毛は、少し濡れているようにも見えた。

 無理もない、前世の世界で言ったら幼稚園生くらいの年齢だ。

 小学生くらいの男の子達に囲まれて脅されたら、そりゃあ怖すぎるだろう。

 むしろ泣き出さなかっただけでも偉いと思う。


「じゃあ、戻ろっか」


 このままここに居ても仕方が無いので彼女にそう告げ、踵を返す。

 と、その直後、袖を引っ張られた。

 無論、フィーネだ。


「どうしたの?」

「えっと……ネロの魔法……すごかった……」

「ん?」


 唐突にそんなことを言われたので、何の事かと一瞬、思ってしまった。


「ああ、ありがとう」

「私も……ネロみたいに強くなりたい……」

「え?」


 まさか、彼女の口からそんな言葉が出てくるとは思ってもみなかった。

 恐らく、俺が少年達を撃退したことで触発されたんだろうな。


 フィーネは第五魔角級。

 魔壊士として充分な才能を持っている。

 訓練すれば、あんないじめっ子なんて屁でも無い。


「フィーネなら、なれるよ」

「……」


 彼女は、はにかんだ。


「でも……どうしたら?」

「フィーネのお母さんは教えてくれないの?」


 すると彼女は寂しそうに俯く。


「まだ小さいから……ゆっくりでいいって……」

「そっか」


 アイラがそう言うってことは、教育方針とか、何か思う所があるんだろうな。

 俺が口出すような事じゃないけど、積極的に学びたがってる子を敢えてそうさせないのはもったいない気もする。


「私……ネロに教えて欲しい」

「えっ……僕が??」


 フィーネは頷く。

 さすがにそれは無理だ。

 俺だって初心者で分からないことだらけだし、下手に間違ったことを教えてしまったら逆に彼女にとって良くないものになる。


「それは無理だよ」

「え……」

「ちゃんと魔法を分かってる人から教わらないと、フィーネの才能を潰しちゃうかもしれないから」

「……」


 彼女は悲しそうな顔を浮かべた。

 さっきも言った通り、その意欲を無視するのは忍びない。

 なら、少しは力になってあげられるかもしれない。


「じゃあさ、僕と一緒に学べないか、父さんと母さんに頼んでみるよ」

「ほんと?」


 フィーネの瞳に輝きが灯った。


「ああ、僕に任せといて」

「うん!」


 景気良く返事をしてしまったが、ちゃんとアイラにも話を通しておかないとな。


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