第五十三話
隼人は立ち上がった。身体の節々から真っ黒な稲妻模様が浮かび上がっている。
それを見た男は「コンジタ模様だ!」と小さく叫んだ。鼻の骨が折れていて、どくどくと血が溢れて出てくる。
隼人は小さく息をして、怒りをなるべく抑えるように、殺してしまわないように、心頭滅却。
集団の数名が隼人に襲い掛かるが、隼人は何処からともなく取り出した刀──否、鍔のついた長らく長い鉄の棒を握りしめて、それを殴り飛ばした。
いままでの怒りが稲妻になり、舐めるように駆け抜ける。
「お前は、いったい、何者だ……!」
隼人は鉄の棒を地面に突いて杖にして真っ直ぐ立ち直る。
「俺か。俺は滝隼人だよ」
隼人の瞳は赤くなり、光を発している様でもあった。
「想い人が恋路を歩もうとしているから、テメェの恋を捨て切って、恋路を応援してるんだよ」
隼人の周辺に稲妻が駆け巡る。これでは近付けない。
「お前がチンピラと言って軽視する俺の親友は俺が辛いとき必ずそばに居てくれる優しい奴だ。惚れるのだって無理はない」
集団の一人が銃弾を飛ばすと、隼人の身体の中から黒い獅子が飛び出し、それを受け止めた。
見向きもせずに、隼人は言を続ける。
「二人が幸せになるのなら、俺はここいらでフェードアウトしよう。二人が幸せになるのなら、俺は何処までも陰の世界で戦うよ。二人が幸せになるのなら、俺はどんな苦痛だって受け止める。二人が幸せになるのなら、俺は化け物にだってなれる。けど俺が化け物になったんじゃ、二人は幸せになれない。だから……俺は……」
構えを取る。旧父──林田疾風がよくやっていた「黒獅子の構え」という、両腕を牙に見立てた殺人の構え。
「人間。滝隼人だ」
胸に赤い防護装甲が現れて、首に黒いマフラーがたなびいた。
「何処からでもどうぞ、お嬢ちゃん」
気がつけば、骨折は治ったらしかった。