第三十九話
ダサいから名乗りたくないです!
ダサくても名乗るんだよ!
という取っ掴み合いの応酬を見て、絢は溜め息を漏らした。
「あのさぁ!」
「おん?」
「思ったんだけど、やっぱり『情報網』には力入れた方がよくない? 隼人の危機感知に頼ってたら対応が遅れるんじゃね~の。危険なことが起こったらすぐに連絡入れられるサイトとか作ってみたら」
隼人はシングスの頬から手を離して、頷く。
「確かになあ、俺の危機感知ってあんまり範囲広くないからな」
「その割には仙台から気仙沼まですぐ来たよな。勝平か」
「あの時はなんかお前の声が聴こえたから……」
「声?」
「めちゃくちゃクソデカVoiceだったのかも」
「やーだー」
そうやっていると、早池峰の携帯に電話がかかって来る。
「もしもし。おん? おん。……おー……しょうがねーなー。おん。ばいばーい。……隼人! ごめんだけど渡り鳥号って出せる?」
「予定アリすか」
「嫁に一時間後迎えに来てほしいって」
「嫁さんに『しょうがねえな』っていうのなんかちょっと抵抗あるんすけど」
「お前は優しいからな」
隼人は渡り鳥号の鍵を投げて、「またねー」と言った。
「えー、どうする? サイトの件」
「ホムペ作れる奴いなさすぎる」
「絢頭良さそうだからぎりぎり行けそう」
「SNSは便利なんだなあ」
勝平はしみじみ言う。
「……あっ、ごめん。俺もうそろそろ帰りてーわ。ほら行くぞクソボケシングス!」
「なぜですか! ボケカス隼人!」
「寝床とかねーだろボケッ! うちに泊めてやっから」
「床の相手はしませんよ」
「なにそれ。願い下げじゃバーカ。俺はもっとおしとやかな美少女がいいね。ちょっとばかり日に焼けちゃってさ、冷えた麦茶が入った汗かきのガラスコップが似合ったりしてさ」
「気持ち悪いです! 死ね!」
「なんだとこの!」
「やんのかこら!」
嵐のように去っていった隼人とシングスの二人を見送って、絢は溜め息をついた。
ティユルシが言う。
「性を変える薬ならこの世にあるらしいぞ」
「は? なに? 急に。いいよ。なに言ってんだよお前」
絢は焦ってティユルシの頭を小突いた。