第三十一話
「ア! 絢おる!」
店内に入ると、絢がいた。土曜日なので。
「もういいや! ごめんな隼人!」
勝平はあんまり隠しきれなかったエクストラムマンの正体・隼人を哀れみながら、床にべしゃっと落とした。
「せめて一ヶ月くらい隠せよ……」
絢は内心「こいつだったんだ!」と驚きながらもあんまり隠しきれなかった隼人を哀れんだ。
「おやっさん地下室行きたいんですけど鍵ありますかね!」
「あいよ」
「地下室?」
早池峰が首を傾げる。
「ほら行くぞ」
「隼人は!?」
「起きたら勝手に来るだろ。そんなことより、やることがある」
勝平は厨房横の廊下を歩いて、途中店主から銭湯にありがちな板状の鍵を受けとると、裏口から出て、丁寧に積んである木箱の溝にそれを差し込んだ。
すると、取っ手が出っ張り、勝平はそれを押し開ける。隠し扉だったのだ。隠し扉の奥には階段があり、そこを降りると、広い地下室があった。
「なんでラーメン屋にこんなんがあんの!?」
「おやっさんが作ったんだ」
「人には限度があるが」
「おやっさんのあのラーメン屋、金持ちの娯楽みてーな奴でさ。つまりいわゆる趣味の領域なんだって。おやっさんは大金持ち! びっくりだよ。なんて言えば良いんだろうかな。いろいろあったんだよ。本当にいろいろ。平たく言うと、怪異に襲われているところを隼人が助けたって感じ」
勝平は壁の取っ手を引っ張り、機械をあらわにすると、あらかじめ外れていた部品をくっつけて組み立てて行く。
「おやっさんは『命を助けてもらったのだからそれ相応の恩返しがしたい』って隼人に言ったんだけど、隼人は馬鹿だから『命に並びうる価値のあるものはあんたの笑顔だけだぜ』ってかっこつけんだわ。だから俺が……」
機械のアームの先端には針のような極細の尖った筒があった。なにに使う機械なのだろうか? 早池峰は疑問を抱いた。
勝平の話はまだ続いている。
「……『こいつの活動拠点がほしい』って言ったら、ガレージと地下室までの隠し扉と階段を作ってくれた。部屋を作ったのはティユルシっていうエクストラムだ」
「エクストラム! 聞いたことあるよ」
「此処を使うときは、あいつが大怪我を負ったり、あいつのコスチュームが壊れたりしたときだけ」
「それは怪我を治す機械か? それともコスチューム?」
「コスチューム。この針の先から修復のための物質がでてきて、破損部分を埋めるんだ」
ハイテクだなあ、と思った。