第三話
学校に到着すると、クラスメイトのガキ大将石田勝平が「肝試し」の宣言をしていた。
「あれ、なにしてんの……?」
「お、マフィアの十代目じゃん」
「やめろ」
「あいつ、昨日の心霊特番で近所の自然公園が出てきたから、今夜肝試しに行くって息巻いてんだよ」
うへー、と隼人はドン引きした。隼人は妖怪や幽霊といったお化けが苦手だった。
遊園地のお化け屋敷では絢に抱き着いて気絶するほど。
と、勝手にお化けを想像して振るえていると、勝平がニタッと笑った。
「お前ももちろんついて来るよな! 隼人!」
「え……え!? は!? 嫌だよ! 嫌だ嫌だ! 冗談じゃない! 俺なんかついていってもお荷物になるよ」
「俺はいいと思うぜ」
そこに思わぬ敵。絢である。
「よぉ、絢。へへ、どうするよ隼人。お前のお嫁さんは『いい』ってさ」
「なんで勝手な事を言うのさ! 俺がお化け苦手だってわかるだろ!? 去年の遊園地憶えてないのぉ!?」
「隼人~。お化け屋敷は『絶対にお化けが出る』から怖いんだ。公園にお化けなんていると思うか?」
「いるかもしんないじゃん! ばーか!」
勝平が隼人の肩に腕を回して、小声で。
「断ればお前が描いた小説をばらまく」
「ヒェッ……」
隼人は固まった。
「どうする? くるよな?」
「もちろん行くに決まってるだろ! はっ倒すぞ!!」
「なんだお前」
この日はとても憂鬱だった。帰り道、絢の隣で歩きながら、隼人はずっと怒っていた。
「勝平はいつも勝手なんだ! 俺がまるで逆らえないのをいいことに、いろんなことをやらせてくる! いつかギチョンギチョンにしてやる!」
「なんかあれば警察呼べばいいじゃん」
「そりゃそうだけどさ~。嫌だよ~ついてきてよ~」
「今夜はちょっと外食で遅くまで外にいるから無理だわ」
「薄情者! 見損なったよ絢!」
「ステーキ食ってきまっす」
「チクショォ……ステーキがこんなに憎たらしい事ってないよ」