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第一話
真夏の赤い夕焼けの下にあって、曇り硝子は赤に染まっている。
麦茶を飲み干してから、特別を待つ。
とにかく何かが起こってほしい。
そう思うのは、少年が小学六年生で多感な年頃だからか。
ある映画を見て、寡黙で喧嘩に強い探偵の相棒役に憧れた結果寡黙な雑魚になってしまい、クラスでの立ち位置が「陰キャラ」になってしまったり、マフィアの漫画を読めば、自分は当然日系マフィアの十代目だった。
もちろんからかわれている。
そんな経験を経て、少年は賢く大人になっていく。少年はどうやら悟ってしまったらしい。
こんな平和な世の中に生まれた自分は、「寡黙な強キャラ」にも「マフィアの十代目」にもなれやしない、普通の人間である、と。
となると、特別な自分というものへの憧れは消えた。
そのかわり次に浮上してくるのは、特別な状況というものへの憧れだった。
授業中にテロリストが来てほしいし、帰宅途中に不良に美少女が絡まれていて欲しいし、突然放射性の蜘蛛に噛まれたい。
そういう欲求が高まってきた年頃。
少年の名前は林田隼人と言った。