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わっちの彼ピは、最強ヴィラン  作者: 紙緋 紅紀
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芸能界最強の男編

「って事なんで、ここは、ひとつ、天条の野郎を締めてやってくださいよ。横山(よこやま)美学(びがく)の旦那ァ」

「なんで、僕がキミの為にそんなことをせにゃならないんだ〜い?」

サトシ・ナカムラと共に落とし穴に落とされた芸人の椎馬が、天条誠人に復讐する為に次に頼ったのは、芸能界最強の男と云われる横山美学であった。

横山美学は、10代で空手の世界大会で優勝し、20代で趣味で始めたサッカーで日本代表になり、30代で俳優デビューし、ボクサー役をやったことをきっかけにボクシングのプロライセンスを取得し、30代後半でアーティストデビューし、自身が作詞作曲を手掛けた歌がオリコンを席巻し、サブスクで三億回再生されているとんでも宇宙人レベルの超ハイスペック男子である。10代女子が抱かれたいと思う男No.1のイケオジで、天条とは正反対の見た目の良さをしているうえに現芸能界でケンカ最強の呼び声も高く、男性人気も高い。美学教団というほぼ宗教化されたファンクラブがあるほどである。

椎馬は、サトシの悪知恵で天条に勝てなかったので、自分よりさらに強い暴力に助けを求めたのだ。

自分程度の暴力では、天条に手も足も出なかったが、自分よりも強力な世界レベルの戦闘力なら天条の催眠術が及ぶ前に素早く奴を(ほふ)ることができるのではないか、と頭が足らない割に知恵を絞ったわけである。

「そんなこと言わずに助けてくださいよ〜。同じ獄真館空手の後輩が、こうして、頭を下げて頼んでるじゃないっすか〜」

「おいおい、獄真館空手やってる奴なんて、全国に5万人は、いるんだぜ。そんな理由でいちいち助けてられるかよ」

横山美学は、椎馬を軽くあしらって追い返す気でいた。が、椎馬が

「いや、天条の奴、マジ、調子に乗ってんすよ〜。あいつ、自分が芸能界最強だとか吹いてんすよ。獄真館空手の美学先輩を差し置いてっすよ〜」

と言うと目の色を変えた。

「なんだと?本当に天条の野郎が、そう言いやがったのか?」

「ホントっすよ。ホントっす。あいつ、獄真館空手なんて所詮は、スポーツ格闘技だから、実戦じゃ、ケンカじゃまるで役に立たねえって、ゲラ笑いして馬鹿してやがるんですよ。許せます?」

もちろん、天条は、人生でそんな発言をしたことは、一度もない。これは、椎馬の美学を煽る為の完全なデマである。しかし、美学は、それにまんまと乗ってしまう。

「それは、確かに調子に乗り過ぎだな。一度、夢見がちな強いつもりの天条君に現実の厳しさっちゅうのを教えてやらにゃならんな。まぁ、ちょっと灸をすえりゃ、すぐ詫び入れるだろうが、獄真館の恐ろしさ、たっぷり、ボディに叩き込んじゃろ」

「そうそうそう!そうこなくっちゃ!もう、セッティングは、済んでるんです。例の天条のよく出てるサッカー番組に一週間後、ゲストで美学先輩、出る事になってるんで、そこで裏に天条、呼び出して、ボコッちゃってください」

「おう、任せとけや、後輩。それより、今年の冬は、よく冷えよるからのう。俺の自宅にいいサウナがあるから、暖まっていけよ」

「はい、ゴチになります」

椎馬は、この時、横山美学に男色の噂があることを忘れていた。



一週間後、天条が看板スターのサッカーチャレンジ番組に、椎馬が加賀美プロデューサーに頼んでセッティングしてもらった通りに横山美学がゲスト出演する。

内容は、サッカー女子日本代表に連勝中の天条率いる芸能界サッカー経験者チームと横山美学率いるサッカー男子元日本代表チームのミニコートでのフットサルガチンコ対決。

「第一回チキチキ ガチでやらなきゃあきまへんで フットサル対決ぅ〜〜〜!!」

番組が2時間SPということもあり、ゲストMCは、豪華に芸能界の重鎮 鎌田(かまだ)弘行(ひろゆき)

勝者へのご褒美は、黒毛和牛10万円分と熱海の旅館ペア宿泊券3日分と売れっ子女芸人えびすヒロ子によるほっぺにキス。

「わっちにばっちおまかせじゃ」

普段、天条との仕事を全断りしてるえびすヒロ子も鎌田さんMCの番組にNGを出すことはできなかった。

試合が始まると、えびすヒロ子とのキスがかかっている天条は、ムキになり、あきらかに実力で上回れている元日本代表チームにラフプレーを連発した。

「おい、お前、身体、当て過ぎやろ」

これにキレたのは、番組終了後、天条を呼び出し、ボコる気だった横山美学であった。

おいおい、こんなの俺の台本と違うだろと内心、焦ったのは、天条チームで試合に参加していた椎馬だった。

こんな大っぴらなカメラの回ってるところでケンカしたら、事件になる。そうしたら、発起人の椎馬にもメディアの火の矢が飛んで来かねない。炎上必至案件だ。

しかし、一度、始まってしまえば、ケンカは、ケンカである。

都合の良い形で収まるわけもない。

「こんなションベンディフェンスでピーピーいちいち喚いてんじゃねーぞ、タコが!チンチン腐ってんのか!インポ野郎が!」

頭に血が昇った天条は、口が大変、悪かった。

それに殴りかかりそうになる横山美学を周りの体幹の強い元日本代表が止める。

それを見て、バカにしたように天条は、目を輝かせる。

「お前、今、何しようとしたか、わかってんのか?ふにゃチンタコすけ!鎌田さんの番組で暴力事件、起こす気か?番組、潰す気か?お蔵入りさせる気かよ!鎌田さんの顔、潰すんか!」

天条にそう言われて、少し顔が青ざめる美学。鎌田さんに逆らったら、芸能界では、生きていけない。美学は、思わず、鎌田さんの顔を情けない顔つきで覗った。

すると、鎌田弘行は、美学に向け、一言。

「ええから、やってまえ」と言った。

ええから、やってまえ!? お笑い界の重鎮のその発言に度肝を抜かれたのは、椎馬だけでは、なかった。その場にいる演者、スタッフを含めた全員が、え?そんなこと、フツー、言う!? と固まる。

「そいつ、調子に乗り過ぎや。番組、潰してるいうんやったら、それは、美学やのうて、天条の方や。美学、ええから、やってまえ。俺が許す」

鎌田弘行がそう言うと、美学を抑えつけていた元日本代表達が手を離した。

美学と一対一になった天条は、一歩も退かない。

「来いよ」と素人丸出しのファイティングポーズ。

美学は、普通にがら空きの天条の鳩尾(みぞおち)に正拳突きをくらわす。

「ゔっ」と呻いて、沈み、地面に片膝をつけた天条は、すぐに立ち上がり、

「これが、お前の本気かよ?」と言う。

美学は、即座にまたがら空きの鳩尾に正拳突きを打ち込む。先程より力が込もってるのは、にぶい音の周りの広がり方であきらかだ。

天条は、今度は、声も上げずに沈まずに立っていたが、口から泡を吹き、小刻みに痙攣していた。

椎馬には、そこまでして、天条が立っている意味がわからなかった。立っていても、意地を張ってるだけで、それで勝てるわけでもない。むしろ、あきらかな負けなのに、もう、誰の目から見ても、すでに天条が負けているのに、立ち続ける意味がわからない。

倒れてしまえばいいだけなのに。負けを認めて、それ以上、動けないフリをすれば、美学は、おそらく、追い打ちをかけない。

現に一度、沈んで打ち頃の位置の天条の頭部に美学は、蹴りを入れなかった。あきらかな実力差。

これ以上、ケンカを続けても、苦しいのが、続くだけだ。諦めてしまえ。と端から見て、椎馬は、思った。

根性論で勝てるのは、マンガの中だけだぜ。と――。

そこで、薄っすら、天条がえびすヒロ子を見ていることに椎馬は、気づく。

なるへそ。女の前では、弱いところは、見せられないっちゅーやつね。バカだね。

椎馬は、天条を嘲笑った。

それでも、天条は、懲りずに美学に向け、

「それが本気か?」と言う。

美学は、また容赦なく鳩尾に向け、正拳突きを放った。

すると、今までとは、違う展開が待っていた。

美学の正拳突きを放った方の右腕がすっぽりと、天条の左脇に挟まれていたのだ。

「いけないね〜。そう何度も同じところばっか狙っちゃ〜。しかも、前より力強く打つ為に大振りになってる。これじゃ、素人でも捕まえられるよ」

こいつ、まさか、その為にわざとがら空きに!?

美学の一瞬の焦りを天条は、見逃さなかった。

力任せに天条の左脇から引っこ抜こうとする美学の右腕を天条は、左脇に挟んだまま、曲がらない方向に曲げていく。

それから、逃れようと体勢を崩した美学は、くるりと回って、うつ伏せに倒れる。

相撲の小手投げを決められた具合だ。

当然、空手にもボクシングにも小手投げの対応策などない。

投げられた美学は、天条に背中を取られ、右腕を両腕で掴まれ、キメられたまま、左立膝で後頭部と首を後ろから押さえつけられる。

「アメリカンポリスメンスタイルだ。体重80キロの俺にあと15秒でも、これ、やり続けられたら、首が耐えきれずに、あんた、死ぬけど、いいかな?」

いいわけがなかったが、美学は、天条に返答しなかった。

「いい?って、訊いてんだけど?それとも、このまま、腕、折っちゃう?」

美学は、返答しなかったが、天条のその発言に周りが動いた。

天条を美学から引き剥がし、囲んで、たこ殴りにしたのは、美学が金で雇ったSP達だった。

解放された美学は、それに加わり、倒れている天条の鳩尾に何発も蹴りを入れた。

それを止めたのは、やはり、鎌田弘行の鶴の一声。

「そのへんにしといたれ」

それで、美学達は、一斉に動きを止めたが、

その隙を突いて、今度は、天条が血の混じった唾を美学の顔面に吹きかける。

美学は、我を忘れて、天条に馬乗りマウンティングになって、一心不乱に拳を振るう。

―ぱきこき―

と乾いた音が響き、

「ぐっぐそ、でめぇ……!!」

と呻いたのは、馬乗りになった方の美学だった。

皆が気づいた時には、すでに美学の右手の指が何本もあらぬ方向にひしゃげていた。

犯人が誰かは、誰の目から見ても、あきらかだった。

美学の殴りかかってきた拳を天条が掴み、力任せに指を捻じ曲げたのだ。

「殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!!」と言い続け、美学は、天条を何度も踏み殺そうとしたが、さすがに、それは、周りから止められた。ケンカは、止めなくても、殺し合いは、さすがに止める。

そして、ただのケンカは、事件になった。

何せ、美学の指は、折れてるし、天条も天条で重症なので、救急車を呼ばないわけには、いかなかった。

カメラが回ってる時にケンカしたのも、まずかった。

証拠として、映像が残り、それが世間に流出するのに、さほど、時間はかからなかった。

司法の場においては、意外にも指を折った天条に有利に傾いた。

ひとつは、美学が空手の黒帯でボクシングライセンスを持っているのに対し、天条が格闘技未経験者であったこと。

もうひとつは、多勢に無勢で天条をたこ殴りにしていること。

さらに、極めつけに天条は、毎度、美学が攻撃してから、攻撃していることから。先に手を出しているのは、常に美学であることから。天条の美学に対する攻撃は、すべて正当防衛であると判断された。そういうことなので、

あわや、美学は、天条に対する傷害で懲役かに思われたが、初犯であった事と天条との示談が成立し、懲役を免れる。

その後、天条と美学の二人は、合同記者会見を開き、メディアの前で握手して和解してみせることで、芸能界から追放されることを二人して免れ、賢く立ち回ってみせた。

が、美学は、全く、天条のことを許してなかった。

むしろ、以前よりも増して、怒りに打ち震えていた。

ピアノの鍵盤を乱暴に叩き、ギターを壁に投げつけて、壊した。壊しまくった。

「これじゃ、演奏ができねぇじゃねぇか!!」

楽器を壊したからではない。壊れたのは、美学の右手である。壊したのは、天条である。

指の骨折した骨は、元に戻っても、指の腱は、一度、切れたら、リハビリしても、元通りになることは、ほぼない。日常生活どうこうは、ともかく、精密動作を必要とするピアノの演奏やギターの演奏は、ほぼ無理と言って、過言ではない。

美学は、以前のように作曲したり、演奏したりできなくなった。

アーティストとしての美学は、完全に死んだ。いや、殺された。天条誠人によって。

損害賠償の裁判を起こすこともできるが、問題は、金ではないのだ。

金では!!

「天条……、殺してやる。最大の苦しみを与えて、なぶり殺しにしてやる!!」

横山美学は、天条誠人への復讐を誓った。

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