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わっちの彼ピは、最強ヴィラン  作者: 紙緋 紅紀
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ドッキリ仕掛けの帝王編

「サトシさん、どうっすか?」

椎馬族長は、えびすヒロ子の隠し撮りしてきた天条との会話の盗撮映像を先輩芸人のサトシ・ナカムラに見せながら、生唾をごくんと飲みながら、訊ねた。

サトシ・ナカムラは、芸能界において、テレビ界において、ドッキリの仕掛け人として、帝王の座に就いているカリスマ芸人である。

椎馬は、馬鹿な男だが、自分の頭が足らないのは、ようく理解している。ので、自分では、天条への復讐の仕方がわからないから、自分より圧倒的に頭のキレる人物に知恵を借りに来た。

「これ、何かに使えますかねぇ」

何かを考えているサトシ・ナカムラの顔を伺いながら、椎馬は、訊ねるが、サトシ・ナカムラは、すぐには、答えない。

「この映像、流して、あいつの能力を世間に公表するってのは、どうっすかね?」

椎馬の提案にサトシ・ナカムラは、

「馬鹿か」と笑う。

口の端を上げたキツネのような表情だ。

「でも、これは、使えるぞ」

と椎馬の肩をサトシ・ナカムラは、ポンポンと愉快そうに叩いた。

「今をときめく売れっ子タレントのあの天条が、こんな誇大妄想を抱いてるなんて、かなり笑えるぞ。まさか、自分に超能力的な力があると思い込んでるなんて。これをネタにドッキリをかければ、奴のアンチから相当な数字(視聴率)が取れるぞ」

「いや、天条の力は、本物っすよ。ナメない方がいいっすよ、サトシさん」

「馬鹿。そんなの信じてんのは、お前ぐらいのもんだよ。お前は、天条があまりにも、本気で自分を超能力者だと思い込んでるいるから、騙されたんだよ。この業界長い俺には、わかる。催眠術なんて、みんな、強い思い込みか、何かのトリックだ」

「違うんですって、サトシさん!マジなんすて!俺以外にも椰子の奴もあいつの能力に手も足も出なかったんっすから!」

「わーあった。わーあった。わーあったよ。だったら、奴の能力が本物だったら、ドッキリ企画から暴露企画に変えて、奴の能力を世間に晒そう」

こうして、サトシ・ナカムラと椎馬が結託し、金曜日のサトシ・ナカムラの冠番組の収録日に天条誠人の能力が本物かどうかの検証ドッキリが行なわれることになった。

まずは、偽収録に来た天条誠人の楽屋のドアノブにゲル状の緑色のネバネバを仕掛け、天条のリアクションを別室でウォッチングするサトシ・ナカムラと椎馬と売出し中の女性タレント数人。

天条の事前のえびすヒロ子による隠し撮りした証言通りに、天条に予知能力があるかどうかをそれでみようと云うのだ。

ドアノブのゲルに予知能力で気づき、触れないか、それともマヌケに掴んでしまうか。サトシ・ナカムラは、後者を期待した。

彼の目的は、天条の能力を世間に暴露することではなく、天条を最高の笑いものにすることだったからだ。

しかし、偽収録に来た天条は、楽屋のドアノブを掴む直前にその手を停止させ、ドアノブをようく観察し、ハンカチを取り出し、それでドアノブを包んで、ドアを開け、普通に楽屋に入った。

それを見て「すごーい」と黄色い声を上げる女性タレント陣。

「偶然でしょ。次の仕掛けが、ありますからね〜。さぁ、次は、どうなるかな?天条君、偶然は、二度も続かないぞ」

とにこやかに言いながら、サトシ・ナカムラは、内心、立腹していた。

彼にとって、自分の仕掛けたドッキリをなんなくクリアされることほど、腹立たしいことはない。

サトシ・ナカムラの次に仕掛けたドッキリは、楽屋内の弁当に天条が手を出し、食べようとソファに座った瞬間、天井から緑色のネバネバのゲルが降ってくるというものだった。

しかし、これも天条は、ゲルが落ちてくる寸前で、なんなく避けてしまう。

「すごーい」再び、馬鹿みたいな黄色い声を上げる女性タレント陣にイラ立つサトシ・ナカムラ。

内心、歯噛みしながら、

「反射神経が良いんですかね〜」

と外面では、余裕のスマイル。

隣の椎馬は、

「マジか。あいつ、催眠術だけじゃなく、予知まで使えんのか!?」

と驚愕している。

テメーの持って来た話だろーが。

サトシ・ナカムラは、怒りの沸点をとうに超えているが、それを決して、表には出さない。

「さぁー、ここで最後のドッキリの仕掛け人に登場してもらいましょー。えびすヒロ子さんでーす」

「どもども、えっす。おつかれえっす」

サトシ・ナカムラの呼び出しで、カメラの画面内に登場するえびすヒロ子。

「えびヒロには、これから、偽収録を終えた天条を飲みに誘ってもらい、その帰りに天条を落とし穴へと誘導してもらう役をやってもらいまーす」

「はい、わかりやっした。わっちにばっちおまかせじゃ」

サトシ・ナカムラの進行に対して、えびすヒロ子は、口をとがらせ、指でオーケーポーズをとる。

そして、予定通りに天条を個室のある居酒屋へと呼び出すと、いつも通りに「寿命一日分」「それやめい。酒がマズなる」と酒を飲み交わす。

その日の呑みの席での話題は、天条のルッキズムについてだった。

えびすヒロ子がどんな見た目の女がタイプかと訊くと天条は、平然と見た目は、関係ないと云う。

「なら、芸能人でわっち以外、誰が好きか、言うてみい」

「えー、君以外、興味ないんだけどー。ぼくの愛って、一つしかないしー」

「そういうのええから、誰かしら、あげろや。おもろい女が好きいうんやったら、他に誰かしら、わっち以外、気になる女の一人や二人おるやろ」

「ん~~、異性として気になるうちに入るかどうかは、わからないけど〜。最近、TikTokでよく流れてくるAdoのANNかYoutubeの切り抜きにハマってよく見てるかな〜。公式か違法か情弱だから、知らんけど」

「ふ〜ん、Ado顔出ししてへんもんな〜。あざといな、お前。もはや、あざと過ぎて、こざかしい。むしろ、しゃらくさいわ」

「ひど〜い。ぴえんぴえん」

「そして、キモい」

「そんなキモい僕と何度も呑みに行ってくれて、ほんとヒロちゃん、やさすぅいよね〜。ヒロちゃんこそ、ほんとルッキズムじゃないよね〜。最近の娘にしては、ほんと、めずらすぅい。もう、そんなに優しいならさ。ボランティア精神で僕と付き合っちゃえば?僕の恋愛脳汁もあと4年ぐらいで切れちゃうからさ。ほんとに好きな気持ちが続いてるうちに、僕としては、早く付き合ってほしいんだよね」

「なんやねん、恋愛脳汁て」

「人間の好きな人に対する好きだという気持ちが継続する時間て、だいたい5年が限度なんだよね。それ以降は、同じ人物の恋愛対象に脳内の恋愛を促す分泌液が出なくなっちゃうから。ぼくら、もう知り合って一年になる。だから、ぼくがヒロちゃんを本気で好きなのって、あと4年しかないんだよ。だから、早く付き合ってくれなきゃ、ぼく、ほんとに困るんだ」

なんやねん、それ。ほな、付き合っても、4年後には、こいつ、別れる気、満々ちゅうことかいな。こんだけ、好き好き言うてて?いや、でも、裏を返せば、あと4年経てば、こいつの方から、離れてくれるいうことか。嬉しい情報やけど、なんか腹立つなあ。

えびすヒロ子は、気づけば、手元のおしぼりを天条の顔面ににおもくそ力を込めて、投げていた。

天条は、デヘヘと笑う。

「Mじゃないよ」

「聞いてへんわい」

サトシ・ナカムラは、そこでマイクのカフをONにする。

「えびヒロ。作戦どおりに。ここは、我慢して、作戦どおりに動いて」

えびすヒロ子は、天条に気づかれないように、小さくコクとうなづく。

「まぁ、そこまで言うんやったら、付き合ってやらんでもないぞ」

えびすヒロ子は、精一杯、我慢して言いたくもないことを言う。

「えーーーっ!?」

天条は、奇声を上げた。

「ほんと!?ホント!?本当ーーーっ!?」

天条は、嬉々として喜び、跳ねまわる。

それを見て、別室の女性タレント陣は、「残酷ねぇ」「かわいそう」などと言って、自分の好感度を上げにいく。

「え?え!?じゃっ、じゃあ、念書、書いて。念書。わたし、えびすヒロ子は、天条誠人と交際、致します、って」

「なんで、そんなんわっちが書かなあかんねん」

えびすヒロ子は、キレた。

「うわ、キモいかも」と女性タレント陣からも本音が漏れ、

全員、天条に引いていた。

「いや、酒、入ってるからさぁ。しらふじゃないからさぁ。明日になって、酔ってて覚えてないとか言われたら、傷つくのは、僕だからさぁ」

そう言って、すでに天条は、えびすヒロ子に向け、紙とペンを差し出している。

えびすヒロ子は、げっと、顔が引き攣り始める。

サトシ・ナカムラは、マイクのカフを再び、ONにする。

「えびヒロ。天条の言う通りにして。すべては、落とし穴に落とす為だから。これは、ドッキリだから。念書なんて、あとで、どうにでも、なるから」

そう言われても、えびすヒロ子の手は、差し出されたペンへとは、伸びない。

焦ったのは、サトシ・ナカムラではなく、天条の方だった。

「わかった。ぼくも念書、書くから。もし、浮気したら、1000万円、払うって、念書に書くから」

「たった1000万か。その程度の気持ちか、お前は」

えびすヒロ子は、乗り気になって、吹っかける。

「一億」と彼女に言われ、

天条は、「分割も可で」とリアルに自分の財布事情にあった提案をした。

「まぁ、それでええやろ」

天条誠人とえびすヒロ子は、お互いに念書を書き、相手に手渡す。契約交際の成立である。

えびすヒロ子は、元々の台本通りに居酒屋の帰り道、天条を自宅へと誘う。

「えーっ!?いきなり!?」と中年童貞の天条は、どぎまぎする。

えびすヒロ子は、それをまるで相手にせず、居酒屋に忘れものをしたと言って、天条に鍵を渡す。

「先に帰ってて」

天条にそれを断る理由は、ない。

まっすぐにえびすヒロ子の自宅に向かって、歩き出す。

そして、ずぼっと足を吸い込まれたかのような勢いで落とし穴に落ちていく。

予知や反射神経で避けることなく、普通に落ちて、発砲スチロールの海の中から

「なんだ、これはぁーっ!?」

と叫ぶ。

「ひゃっはっはーっ!!ドッキリでしたーっ!!」

サトシ・ナカムラは、落とし穴の上から天条を見下ろし、女性タレント陣と椎馬を連れ、ご満悦の表情になる。

天条は、落とし穴から這い出て、

「えー、どういうことぉー?」

とまったくの道化を演じる。

「えー、どっきりぃ?どっから?えっ?まさか?」

と天条が言ったところで、サトシ・ナカムラ達の後ろから、えびすヒロ子のご登場。

「ちょっ待ってよぉー!付き合うって、嘘だったのかよーっ!そんなぁー!」

「ひゃっひゃっひゃ。自分に超能力があるとか、吹いてるから、そんな目にあうんだよ。こうなるのは、予知できなかったか?てんじょおくぅ〜ん」

「ショックだぁーーっ!!」

ドッキリ仕掛けの帝王がエセ超能力者を成敗した。その場面でカット。撮影終了。カメラのRecが停止すると、

天条は、パンッと大きく手を叩いた。

「はいっ!おつかれさんっ!」

瞬間、ずぼっとサトシ・ナカムラと女性タレント陣と椎馬の立っていた地面が抜け、崩れた。

天条とえびすヒロ子以外のタレント全員が落とし穴に落とされたのだ。

「ざまぁ〜!!」

落とし穴の上から、携帯でその様子を録画する天条。特にサトシ・ナカムラの表情をアップで映す。

「誰だ!?裏切って、こんなところに落とし穴、掘ったスタッフは!?ぜってー、許さねぇぞ!!」

サトシ・ナカムラは、落とし穴の中から、吠えまくり、番組のプロデューサーの加賀美を呼び出した。

「スタッフ全員、天条に協力した者は、いないそうです」

とサトシ・ナカムラに伝える加賀美プロデューサー。

「じゃあ、なんで、こんなところに落とし穴があるんだ!!」

後日、加賀美プロデューサーは、インタビューにこう答えている。

「いや、本当にわからないんですよ。スタッフ全員、あんなところに落とし穴を掘った覚えは、ないそうなんです。考えられるのは、スタッフが天条に知らない間に催眠術をかけられていて、無意識にあそこに穴を掘ってたって、可能性ぐらいです。え?それだと、天条は、事前にドッキリをかけられることを知ってたことになるって?知りませんよ。どうやって、天条がドッキリをかけられるのを知ってたのかなんて。未来でも予知したんじゃないですか」



落とし穴から這い上がって来たサトシ・ナカムラにスタッフは、訊いた。

ON AIRは、しますか?と――。

「するわけねぇだろ!あいつ、自分がドッキリかけられたの放送したら、携帯で録画したあの映像、拡散する気だぞ!あいつは、どこだ!?どこ行きやがった!?」

サトシ・ナカムラが落とし穴から出てきた頃には、すでにその場に天条誠人の姿は、なかった。

「あの野郎!俺を誰だと思ってやがる!ドッキリ仕掛けの帝王サトシ・ナカムラだぞ!このままじゃ、終わらせねぇ!やられっぱなしで俺は、終わらねぇぞ!やり変えしてやる!ぜってー、復讐してやんかんなっ!!」

後にこの遺恨が多くの死者を生む大事件の引き金となり、天条誠人をヴィランとして覚醒させることとなる。

が、それは、まだ、先の話である。

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