ぼくのかぞく
ペットや動物の考えが分かるとか、意思疎通ができるとか言い張る人物は五万といる。
だが実際に会話ができる人は殆どいないだろう。
多くの人と同様に、僕は自分のペットとそれと同じ種類の動物なら会話ができると明言している。
だが、彼らと僕の相違点はそれが事実かどうかということだ。
即ち僕は本当に会話ができる。
僕はペットのことも家族だと思っている。
あるときから両親の記憶を完全に失ってしまった僕にとって、ペットは唯一の家族だった。
あるときから僕の家には二匹のペットがいる。サクラとサブローという。
僕の家にはペットを除いたら僕しかおらず、よって僕の家は僕が支配していた。
ペットも家族だと考えている僕は、普通ではないかもしれないけれども、彼らを外に出したりせずしっかりと部屋を与えることにしていた。
勝手にいなくなられると困るから窓はないし、部屋も鍵がなければ絶対に開かないようになっているが、家のうちの一部屋を彼らに与えているという点で、他の家のペットの待遇とは大違いだろう。
「サクラ、サブロー、ご飯だよ」
僕がそう言って扉を開けると彼らは一様に喜んだ。
部屋の中は異様な匂いに包まれていた。どうやら昨日もサブローがサクラを使って性衝動を発散していたようだ。
僕は扉をしっかり閉め、彼らの前にご飯を並べる。
ペットフードは僕が作る。ペットだからと別のものを与えるのは嫌なので食べられる食材を使って僕と同じご飯を与える。
彼らはご飯を前にするといつでもキャンキャンと吠える。
普通の人には分からないかもしれないけれど僕には彼らの言うことが分かるのだ。
僕は彼らに待てと指示した。
彼らは従順に従っている。飴と鞭で躾けた甲斐があったものだ。
『はやく食べる許可をください司さん』
司というのは僕の名だ。
僕は許可を求めてきたサクラにだけ食べる許可を与えた。
サブローは少し怯えた顔をした。サクラはしばしの休息を得たとばかりにゆっくりと食べている。
僕は手に持った鞭をこれ見よがしに振るった。
サブローはビクリと跳ね上がった。
「またやったのかサブロー! 自分で片付けることもできないんだからもうやるなと言ったはずだ! やはり去勢でもするか!?」
僕がそう怒鳴ると彼は震え始めた。これで四回目だ。こいつは煩悩まみれなのだ。
彼のことも僕は家族として愛しているがこの点だけは容認できない。
掃除するのは僕なのだ。
カピカピになった床をピカピカにするのは手間がかかる。
その割にはカピカピにするのは簡単なのだ。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
僕は彼のご飯を取り上げサクラに与えた。
サクラは喜んだ後自分の分を食べるのを止め、彼の分から優先的に食べ始めた。
サクラがサブローの方を向いてニヤリと笑うとサブローは弾けた。
怒りに任せてサクラに飛びかかろうとする。だが僕はそれを許さない。
鞭を使って彼を一打ちし、彼の戦意が喪失するまで叩き続けた。
彼は泣き叫ぶが僕は止まらない。これで四回目なのだ。今日は入念に叩いた。
しばらくして彼が反省した様子を見せたので僕は許してやり、隠し持っていた少量のおかずを与えた。
彼はそれに飛びついて貪った。
餌を与え、部屋を掃除し、朝のルーティーンが終わったので僕は部屋を出た。
彼らにはしっかり首輪をつけ部屋に生やしたポールにくくりつけた。
「じゃあ学校に行ってくるね」
『『いってらっしゃい司』』
彼らは愛を持って僕を送り出してくれる。今までとは大違いだ。
僕は幸せな気持ちでランドセルを背負って学校に向かう。
道中でまたイヌに出会った。今日で何度目だろう。毎朝会うからいつからか数え切れなくなっていた。
『やあ佐藤司君。ごめんね、まだご両親は見つからないんだ。』
「こんにちは。あまり気にしなくても大丈夫ですよ。僕だって両親のことを何も覚えていないんです。今更出会っても分かりませんよ」
僕はそう言った後、学校があるのでと失礼した。
彼は僕の家族と違い服を着ていた。
飼い主によってはペットに服を着せる人もいるらしい。
僕はそういった人種ではないので服は着せないことにしている。
僕は学校で多くの動物と触れ合えるという幸せを思いながらスキップで登校した。
司くんは大丈夫なのだろうか。
毎日俺は彼と話をしているが本当にご両親のことを覚えていないらしい。
警察としては不甲斐ないが彼のご両親の所在は未だに手がかりすら掴めていない。
だが彼はご両親がいなくなってから随分明るくなった気がする。
虐待を受けていたというのは本当のことだったようだ。彼にとってはご両親がいないほうが清々するのかもしれない。
だがご両親にはしっかりと罰を受けて貰う必要がある。そして償っていかなければならないのだ。
「佐藤桜、佐藤三郎。あなたたちは彼を置いて、一体どこに消えてしまったんだ……」
俺は交番に帰ろうと歩き始めた。
街の不穏な空気と、太陽の熱視線を一身に浴び続けていた。