怒れる者の衝突
ラージュは少し動揺していた。リビの魔力を感じるまでは、タウクが船長だと思っていたからだ。
「あら、動揺しているようね。まー、あいつのキャラが強いから、あいつが船長だと思うわね」
「その通りよ。あの男は簡単にやられたけど、あなたはどう? 強いのかしら?」
ラージュの言葉を聞き、リビは紫色の刃の剣を持ち、ラージュを睨んだ。
「戦ってみれば分かるわよ。さぁ、行くわよ」
この言葉の後、リビは勢いよく走り出し、あっという間にラージュの近くまで移動した。ラージュは後ろに飛んで距離を取り、リビの様子を見た。
「遅いわよ。そんな剣を持っているから、動きが鈍いと思うわよ」
リビは再びラージュに向かって走り出し、剣を下から振り上げる構えを取った。その際、リビから強い魔力を感じたラージュは大剣を構えた。
「じっくりと味わいなさい。アジッドゼリーの切れ味と、毒の味を!」
そう言って、リビは勢いよくアジッドゼリーという名前の剣を振り上げた。アジッドゼリーの刃からは紫色の毒々しいオーラが発しており、振り上げた際にそれが液体のように飛び散った。
「汚いわねぇ。一体何なの、その液体は?」
攻撃を防いだラージュは後ろに下がりながらこう言った。その時、飛び散った液体が地面に付着し、そこから煙が上がっているのを見た。そして、その液体は微量ながらもラージュの服や大剣に飛び散っており、煙を発していた。
「溶解性のある液体か。魔力でそれらを作り出し、敵を斬るついでに溶かす。恐ろしい武器ね」
「あんたの言っていることはほぼ正解ね。この剣、アジッドゼリーは魔力を注ぐと、溶解性のある液体が刃の周りに発生する。どんな物も付着すればゆっくりと溶かしてしまうわ。もちろん、人間相手でも溶かすわ」
「恐ろしい武器」
話を聞いたラージュは、冷やかしの気持ちを込めて言葉を返した。
内心、ラージュはアジッドゼリーに恐怖を覚えていた。どんな物でも溶かす液体を、どうやって攻略すれば分からないからだ。大剣で斬りかかっても、大剣が溶かされる可能性がある。接近すれば、アジッドゼリーによって斬撃を受けてしまう他、アジッドゼリーを振るった際、その反動で飛び跳ねた液体が体に付着する可能性があるのだ。
どうすれば勝てるとラージュは考えた。だが、ラージュに考える隙を与えないために、リビは再びラージュに向かって走り出した。
「動揺しているわね! このアジッドゼリーの威力を見て恐れているようね!」
そう言って、リビはラージュに斬りかかった。攻撃を回避するため、液体から身を守るためにラージュは高く飛び上がり、リビから距離を取った。だが、ラージュが飛び上がることを予測したリビは後を追うように高く飛び上がり、空中でラージュに接近した。
「さっきの勢いはどうしたのかしら? 人の船で暴れて、大事な仲間を海にぶっ飛ばして……ただじゃおかないわよ!」
リビは怒りを込めてアジッドゼリーを振り回した。そのせいで、周囲に液体が飛び散り、下のリビの船やヴィーナスハンドに付着していった。
「あっ! ヴィーナスハンドが!」
「丁度いい、このままあんたらの船もボロボロにしてあげるわ!」
この言葉を聞き、ラージュは素早く大剣を振り回し、リビを吹き飛ばした。吹き飛んだリビは下の自分たちの船に激突し、その場で倒れた。
「ぐ……クソ……また船に被害が……」
「あんたのせいじゃないの!」
ラージュは空から落下しながら叫んだ。この時、ラージュは大剣を構えていて、落下したと同時に大剣を振り下ろすとリビは考えた。しかし、船に激突した際に負った大きな痛みがリビを襲い、体の動きを鈍くしていた。
「体が……」
「くたばれ!」
ラージュの怒声と共に、大剣が振り下ろされた。激しい音と共に、リビの船の木片が大量に宙に舞った。
ケアノスはヴィーナスハンドのリビングからラージュの戦いを見ていた。怪我を負ったカイトたちも魔力でこの戦いが激しいことを察し、ラージュのことを不安に思っていた。
「凄い戦いだよ。ラージュ、怪我しなければいいけど」
「本当にそうだな。これ以上怪我人が増えたら大変なことになるぞ」
「そもそも、ラージュが怪我をしたら、誰が皆の手当てをするのかな? 私、あまり医療に詳しくないよ」
と、カイトとセアンとライアは会話をしていた。ケアノスは戦いの様子を気にしつつ、コスタの手当てを行っていた。そんな中、変な音と異臭に気付き、ケアノスは急いで外に出た。
「な……何なのよ、これ!」
ケアノスが目にしたのは、アジッドゼリーによって、所々溶けた床や天井だった。それを見た後、ケアノスは大きなため息を吐いて、呟いた。
「治療費、船の修理費、いろいろ重なる……」
そう呟いた後、ケアノスは体を震わせながら叫んだ。
「ラージュ! さっさとそのおばさん倒して!」
攻撃を終えたラージュは、まだリビが戦えると思っていた。リビの魔力は強く感じ、大剣を振り下ろした時もリビを斬った手ごたえがなかったからだ。
「あなたも意地が悪いわね。いい加減倒れたらどう?」
ラージュがこう言った後、リビは苛立ちながら言葉を返した。
「倒れるわけにはいかないわよ。倒れるならあなたが倒れれば? 今ならアジッドゼリーで服を溶かして、エロティックな姿でズタズタにしてあげてもいいわよ」
「ズタズタにされるのはあなたの方よ、おばさん」
おばさんと言われ、リビは苛立ちながらラージュを蹴った。腹に蹴りを入れられたラージュは苦しそうな声を上げ、後ろに吹き飛んだ。
「痛いわね、酷いことをするおばさんね」
「誰がおばさんよ! 人を何度もおばさん呼ばわりしやがって! あんたみたいなアバズレは絶対にぶっ殺す!」
リビは怒りに任せ、アジッドゼリーを振り回した。挑発を受け、我を失ったとラージュは思った。怒りに任せれば我を失い、まともな攻撃を行うことはできないだろう。そして、大きな攻撃の隙ができるとラージュは考えた。
「さっさとあの世へ逝きなさい! アバズレ女」
周囲に飛び散る溶解性のある液体をかわしながら、ラージュは大剣を構えた。
「怒りに身を任せたら破滅するわよ。私たちより歳をとったおばさんなのに、こんなことも分からないのね。哀れ」
と言って、ラージュは大剣を振り回した。しかし、大剣を振り回した際、リビを斬った手ごたえはなかった。リビは高くジャンプして攻撃をかわしていて、アジッドゼリーを上に振り上げていた。
「哀れなのはあんたよ。安い挑発に乗って攻撃しかしないと思ったの?」
「演技をしていたのね」
冷や汗をかきながら、ラージュはこう言った。
リビはわざと挑発に乗った演技をしていた。そうすれば、ラージュは自分に大きな隙ができると思い、その隙を狙って強い一撃を放つだろうと考えた。強い攻撃をかわせば、その反動で逆にラージュが大きな隙をさらす。このタイミングを狙って攻撃するとリビは考えたのだ。
状況はリビの考えた通りに進んだ。リビの演技に騙されたラージュは大きな隙をさらし、リビに決定的なチャンスが舞い降りた。
「くたばりなさい! アバズレ女!」
叫びながら、リビはアジッドゼリーを構えてラージュに向かって落下し、アジッドゼリーを振り下ろした。ラージュは攻撃をかわそうと後ろに下がったが、足が地面にめり込んでしまった。
「しまった!」
「こうなることを予測して、わざと周囲に液体をばらまいたのよ!」
この言葉を聞いて、ラージュは動揺した。挑発を受けていたのは演技だが、その時にアジッドゼリーを振り回したのは、自分の足元を封じるためだったとラージュは察した。
「さぁ、死になさい!」
リビの叫び声と共に、アジッドゼリーがラージュを襲った。
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