ケアノスの底力
ヴィーナスハンドから火が出ていることを知り、セアンとライアは急いで立ち上がろうとした。しかし、急に動いたため、体に激痛が走った。
「イダァァァァ!」
「ウッギャァァァァァ!」
まだ戦いのダメージがある。そう思いながら二人はその場に座った。倒れているカイトは小さな声でこう言った。
「少し……休んだ方がいいかも……すぐに立ち上がりたいけど……」
「まずいよ、これ……まさか、こんな展開になるなんて……思ってもいなかったよ」
セアンは悔しそうに呟いた。その時、ケアノスの強い魔力を感じた。
「ケアノスが戦っている……本気を出しているみたい」
「ケアノスが本気? それじゃあ敵が負けるね」
と言って、ライアは安心した表情を見せた。その顔を見て、カイトはケアノスが本気を出した時、一体どんな戦い方をするのか気になった。
ケアノスはタウクを睨み、風を使ってヴィーナスハンドに付着した火を消した。
「わお。凄い風圧。強いね、美人ちゃん」
「お世辞は結構。もうこれ以上喋らないで、キザ野郎。あんたの声なんて、二度と聞きたくないわ」
ケアノスはそう言うと、素早くタウクに接近してペイリーの海賊船に向かって蹴り飛ばし、吹き飛んだペイリーの後を追って移動した。突如飛んで来たタウクを見たセアンとライアは驚いたが、その後を追って飛んで来たケアノスを見てこう言った。
「ケアノス、怒るのは分かるけどもう少し落ち着いて!」
「私たちも怪我しているし、カイトも大きな怪我をしているの! 下手に戦うと、こっちも被害が発生するから!」
「分かった。皆に被害が及ばないように戦うわ」
と、ケアノスはこう答えた。それからすぐに竹串が飛んできたが、ケアノスはレイピアで竹串を叩き落とした。
「勘弁だよ。仲間の船の上で戦いたくないな、俺としては」
「あんたの事情なんて知ったことではないわ。無理矢理でもここで戦ってもらうわよ」
「おいおい。仲間の船を傷つけてしまうよ……ん?」
会話の途中でタウクは違和感を覚えた。背中の方にまるで壁でもあるかのような圧迫感を感じたのだ。
「何もないのに……変だな」
手を伸ばすと、手袋が破れる音が響いた。その音を聞いたタウクは慌てて手を引っ込めて、手袋を確認した。
「嘘だろ。新品の手袋がズタズタだ。買い直したばかりなのに」
タウクは察した。ケアノスは周囲に見えない風の刃を設置し、ヴィーナスハンドに向かわせないようにしたと。
「おいおい、酷いことをするねぇ美人さん。その風を使って仲間の船をぶっ壊すつもりかい」
「そのつもりよ。あんたらみたいな奴に加減はしないわ」
ケアノスはそう言うと、レイピアを構えてタウクの近くに接近した。この時の動きを見切れなかったタウクは驚き、その隙にレイピアの連続突きを受けた。
「グウッ! 早い動きだね。全然見えなかったよ」
「うるさいわね。いちいち喋らないと死ぬ病気なの? あんたは?」
連続突きの後、ケアノスはレイピアに風を纏わせ、タウクに向かって強く振り下ろした。タウクは腰に携えてある剣を握ってレイピアの一撃を防御しようとしたが、レイピアはタウクの剣を粉砕した。
「なあっ……」
「そんな物で防御しても、意味ないわよ」
ケアノスの言葉の後、強烈な一撃がタウクに命中した。攻撃を受けたタウクは咳き込みながら血を吐き、後ろに下がった。その時、羽織っているコートが見えない風によって斬り刻まれた。
「おわっ!」
タウクは急いでコートを引っ張ったが、下の方がズタズタになってしまった。それを見て、ケアノスが発した見えない風の刃が近付いてきていることを察した。
「追い込んだようだけど……逆にさ、美人ちゃんが風に巻き込まれるってことを考えないの?」
「自分の風でやられるバカはいないわよ」
「はは……そうだよね」
タウクはため息を吐き、無数の竹串をケアノスに向けて放った。またこの攻撃かと思いながらケアノスはレイピアを構えたが、飛んで来る途中で竹串に火が付いた。
「後でペイリーに謝ろう。心を込めて謝れば、許してくれるよね」
と、タウクは小さな声でこう言った。火が付いた竹串はケアノスに近付いたが、ケアノスは風を発し、タウクに向かって火が付いた竹串を跳ね返した。
「何だと! 火が付いた竹串を……」
「返すわよ。こんな物騒な物、あんたが処分しなさい」
ケアノスはタウクに指を指してこう言った。跳ね返った竹串はタウクの足元に刺さり、足元が燃え始めた。
「クソッ! こうなったら……」
このままだと被害が広がるため、タウクは慌てて火を消した。何とかなったと思ったタウクだったが、その隙にレイピアを構えたケアノスが再びタウクに接近した。
「これで終わりにするわよ。覚悟しなさい」
タウクは接近したケアノスに向けて蹴りを放とうとしたが、それより先にケアノスが動いていた。ケアノスは何度もレイピアを突き、タウクに攻撃を仕掛けた。無数の突き攻撃を受けたタウクは悲鳴を上げながら後ろに下がって行ったが、それに合わせてケアノスも前に歩いていた。
「終わりだと思った? まだ攻撃は続くわよ」
と言って、ケアノスはレイピアを振り上げてタウクを浮き上がらせた。空に飛んで行ったタウクを追いかけ、ケアノスは高く飛び上がった。そして、空中で素早く動きながらレイピアで攻撃を続けた。タウクが悲鳴を上げる中、今がとどめを刺すチャンスだと思ったケアノスはレイピアに魔力を溜め、落下するタウクを見た。
「これでくたばりなさい!」
叫び声を上げると、ケアノスはタウクに接近してレイピアを振り下ろした。攻撃を受けたタウクは勢いを付けてペイリーの船に落下し、床を突き抜けて海に落下した。戦いの様子を見ていたセアンとライアは、倒れたカイトを連れて急いで避難していた。
「うわー、やりすぎだよ」
「生きているかな……あの人」
と、セアンとライアは海に落ちたタウクを見てこう言った。
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